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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
104/145

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しばらくは飛燕無双(仮)になりそうな予感が……。







「−−………ん……」


寝台の上で寝転ぶ麗人が眼を醒ました。


彼女の寝間着と下着は床へ散らばり、整えた頭髪が少し乱れている。


「……………」


意識が完全に覚醒していない状態のまま麗人は身を起こす。


「……………」


寝惚け眼を部屋の窓へ向ける。


−−空は白んでおらず、まだ夜のようだ。


「………?」


肌寒さを感じた彼女は視線を自身の傍らへ向ける。


「……飛燕?」


麗人−−秋蘭は肌を重ねた男の通り名を呼ぶが……隣には誰もいない。


「………ふぅ……」


−−何故いないのか。


そう思った彼女だが情事の後の気怠い身体と頭では考えるのも億劫。


そのまま秋蘭は元の位置へ溜息を零し、寝転んでしまう。


−−後悔はない−−


主の愛人でありながら、他の人間−−しかも男と肌を重ねた。


しかし彼女の心には一抹の後悔もない。


むしろ晴れ晴れとして−−心は実に満ち足りていた。


傍らの何処となく人の形になった敷布の皺へ彼女は俯せになり−−残り香を嗅ぐ。


−−噎せ返るような男の匂いが彼女の鼻孔を通り、脳髄を痺れさせる。


「…これは…いかんな……クセになりそうだ…」


そう彼女が呟いた瞬間−−部屋の扉が音もなく開けられた。


「−−起きられましたか」


「……今し方な。…お前は何処に?」


相変わらず寝転ぶ秋蘭の問い掛けに部屋の主−−飛燕は掴んでいる水差しを軽く掲げた。


(くりや)から水を。切らしていたので」


「そうか…」


「飲まれますか?」


「……うむ」


ちょうど彼女は喉の渇きを覚えていた頃だ。


申し出に頷くと飛燕は卓に置いていた使っていない湯呑へ水を注ぎ、それを取ると寝台に寝転んでいる秋蘭へ差し出した。


「どうぞ」


「…ん…−−」


「?」


僅かに身を起こした彼女は湯呑を受け取ると唐突に指先で寝台の縁を指差した。


「…座ってくれ」


「は?……あぁ…判りました」


素直に頷いた飛燕が縁へ腰掛けると身を起こした秋蘭は彼と背中を密着させ、凭れ掛かった。


その格好のまま彼女は湯呑を軽く傾け、水を一口ほど飲み下す。


「……話に聞いてはいたが…事実だったのだな…」


「は?」


「…男は行為が終わると冷める、という話さ」


「…耳が痛い……自分も身に覚えがある」


「男とは現金なモノだ…。あれほど私を感じさせ、情熱的に攻め立てたというのに…」


「…………」


非難されているのだろうか、と彼は困惑気味に自身の頬を指先で掻く。


背中を預けつつ秋蘭は飲み干した湯呑を傍らへ置くと更に深く彼へ凭れ掛かった。


「……疲れましたか?」


「…まぁな……お前は?」


「そこそこです」


「随分、動いた筈なのにな…。…体力が有り余っておるのではないか?」


「有り余っているのは性欲の方ですよ」


「ふふっ…そうだな」


「−−−−」


「どうした…?」


背中を預けていた男が急に黙ったのが気になり、彼女は頭だけ動かして問い掛ける。


「……人間の気配…」


「…気配?−−…むっ…」


飛燕に指摘され、彼女も気付いた。


−−静々とこの部屋へ近付いて来る人間の気配。


「…これは…」


「……おそらく春蘭様でしょう」


「判るか?」


「えぇ。…必死に気配を殺そうとして、逆に意識し過ぎてしまい漏れているのは春蘭様ぐらいなモノです」


「……まぁ……そこが可愛いんだが…」


「……貴女も大概だ」


「そうか?」


溜息混じりの飛燕の言葉に彼女はただ微笑を浮かべた。


−−静かな足音が響いて来ると、それが部屋の前で止まる。


「−−春蘭様」


「−−−!!?」


「どうぞお入り下さい。施錠はしておりません」


「−−−−」


飛燕の言葉で扉が微かな軋みを奏でつつ−−開けられた。


「…………」


「こんばんは」


「………応」


短い返答と共に赤い寝間着を着た春蘭が背後の扉を静かに閉じる。


「……秋蘭…」


「ここに居るぞ」


「……………」


飛燕の背後から顔を出した裸の妹を見て−−春蘭は顔を俯かせた。


「……姉者、どうした?」


「……………」


黙りこくる姉の姿が気になり、秋蘭は問い掛けるが……その相手は黙ったままだ。


「……秋蘭」


「…なんだ?」


「……どうだった…?」


「……あぁ……激しかったが…優しかったよ」


「……そうか…」


妹の返答に春蘭は微かに頷くと瞑目する。


そして顔を上げ−−いつもの勝ち気な眼差しのまま寝台に腰掛ける飛燕へ足早に歩み寄った。


「……飛燕」


「なんでしょう?」


飛燕が声を発した瞬間−−春蘭は彼の襟を乱暴に掴む。


「……あ……うっ……」


「……あの……なにか?」


−−しどろもどろになった彼女の顔は真っ赤だ。


勝ち気な双眸は崩れ去り、視線の焦点が合っていない。


「ふふっ……飛燕?」


「はい?」


「無粋だぞ。気付いてやれ」


こんな状況にも関わらず秋蘭は落ち着き払い、彼へ声を掛ける。


「−−姉者もお前に抱いてもらいたいのだそうだ」

「……は?」


「−−−−!!?」


妹の言葉に春蘭の顔が一気に茹で上がった。


「しっしし秋蘭!!?なっ何を……!!?」


「私が気付かないとでも?…以前から姉者の飛燕を見る眼は少し違っていたからなぁ…」


「なぁっ!!?」


「…大方、私がここに居るのを渡りに船と思い来たのだろう」


「ちっ違う!!?わっ私は……私は…ッ!!」


「他に理由があるのか?なら言ってくれ」


「……ううっ……!!」


言葉を失った春蘭は掴んでいた飛燕の襟を離し、一歩ずつ後退る。


寝台で飛燕と背中を合わせていた秋蘭が立ち上がり、床へ降り立つと−−姉の下に歩み寄った。


「……姉者……」


秋蘭はさほど背丈の変わらない姉の背中へ腕を回し、優しく抱き締める。


「…華琳様以外の相手に初めて抱く感情だ…戸惑うのも無理はないさ…」


「……秋蘭……」


秋蘭は抱き締めつつ幼子をあやすように姉の頭を撫でる。


春蘭の耳元へ唇を寄せた秋蘭は飛燕に聞こえないよう気を付け、小声で話し掛ける。


「……私は華琳様と姉者を同じくらい愛しているよ」


「………」


「…だが……初めて異性に対する特別な感情を抱いてしまった。……戸惑ったよ……」


「………」


「華琳様への背信になるのではないか、とも思った。……しかし……我慢できなかった」


「………」


「…私が抱かれたのはな……確認する為だ」


「…確認?」


立ち竦む春蘭は妹が放った言葉をそのまま返した。


すると彼女は微かに頷き肯定する。


「……自分が抱く感情が本物なのかを確認したかったんだ」


「………」


「……想いが更に強くなってしまった」


「……だから姉者も素直になれ……」


身を離した秋蘭は微笑を姉へ向け−−ややあって背後の飛燕に視線を向ける。


「−−私はそろそろお暇させてもらうよ」


「…判りました」


立ち竦む春蘭を放置し、秋蘭は床に散らばった自身の衣服を掻き集め、それを手早く着込むと飛燕へ近寄る。


「…今宵は済まなかったな」


「お気になさらず−−」


「−−…んっ…」


身を屈めた秋蘭の後頭部へ手を伸ばした飛燕は優しく引き寄せ、唇同士を軽く合わせ−−顔を離す。


「−−…ふふっ…では、な」


御返しとばかりに秋蘭は彼の頬へ唇を落とすと反撃が来ない内に身を翻した。


「−−…姉者、しっかりな」


擦れ違い様、春蘭へ小声で激励すると彼女は静かに扉を開け−−部屋を出た。


−−途端に静まり返る室内。


「………」


「……まぁ…お座りになられたらどうです?」


「………」


飛燕の催促に春蘭は微かに頷くと寝台へ近付き、彼の隣へ腰掛けた。


「………初めに言っておくが……」


「はい」


「……私はこのモヤモヤとした気持ちをなんとかしたいだけだ。勘違いはするなよ」


「………」


「……貴様を見ていると落ち着かない。貴様の顔を見るだけで胸が苦しくなる」


「………」


「だから私は−−」


顔を赤くしつつ言葉を紡ぐ彼女の唇へ−−太い指が当てられる。


「何も言わなくて宜しい」


飛燕は指を離すと呆然と自身を見る彼女と顔を合わせ、その細い顎へ手を遣ると軽く持ち上げた。


ルビーの如く輝く双眸と黒真珠のような双眸から注がれる互いの視線が交差したまま−−二人は唇を重ねた。





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