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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
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……なんだかなぁ……。


私生活、仕事、執筆。どれを取っても最近、調子が出ない……。



現在地は城の射場。


そして俺の体調は………“まぁまぁ”って所か。


少なくとも頭痛は煩わしいモノではなくなった。


……少し倦怠を感じるのは変わりないが。


「−−復習だ。射法八節とはなんだ?言ってみろ」


「はい!!足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、残心です!!」


「宜しい。…まぁこっちの弓術の射法がどうかは知らんが、俺達の国ではこうなっている」


「はい、前田様もそう仰っていました」


「そうか…」


どうでも良い話だが、和弓と洋弓では射法が違う上……更に言えば射程距離までも差がある。


しかも和弓は無駄に長い……まぁ騎馬武者が騎射をする為に、あんな独特の形状となったのだろうが。


「じゃあ…取り敢えず、近的でやれ。慣れるしかないからな」


「はい!!」


徐盛は元気な返事をすると射位に立ち、足踏みの動作を始めた。


古今東西、飛び道具(それ以外の武器もだが)を上手く扱うには……知識や経験以上に慣れが必要だ。


どのように弧を描き、どのように着弾するのか。


それを思い起こせるようになれば、しめたモンである。


……まぁ狙撃手が顕著な例だろう。


かくいう俺も………銃器に慣れるまで何千発、撃ったのか……。


使用者への危険性が高い訳ではない……が暴発の可能性がない訳でもない。

その恐怖の克服が課題だったな……。


それを思うと−−


「……ククッ……」


−−懐かしさで微笑が零れた。


銃器と弓−−構造こそ違うが、概念は同じだ。


それは離れた目標を撃ち抜くということ。


下手な者が放てば銃弾や矢はあらぬ方向へ飛び、上手い者が放てば寸分の狂いなく目標を貫く。



−−徐盛の指から矢が離れ、それは的に吸い込ま………れず安土へ当たり、そのまま地面に落ちた。


「…徐盛」


名を呼ぶと徐盛は残心を済ませてから俺へ顔を向ける。


自身の左肩を叩いて見せると奴は首を傾げた。


「弓手側の袖を脱げ。弦が当たっていたぞ」


「あっ、はい!!」


告げると徐盛は慌てた様子で素襖の左腕を肌脱ぎし、袖を地面へ垂らした。


また足踏みの動作から始める徐盛を横目に俺も寝間着を肌脱ぎして左腕を露にする。


杖代わりの愛刀を腰へ差し、傍らに置いた矢筒から一矢抜き取る。


……徐盛に教授しておいてなんだが……いちいち射法を踏むのが面倒だな…。


足踏み、胴造りを省略するが身体は的と射線が重なるよう捉えつつ、弓構えに移り−−弓矢の保持と物見を済ませ、打起しと引分けへ。


弓矢を持った両拳を上に持ち上げ−−打起こした位置から弓を押して弦を引き、両拳を左右に開きながら引き下ろす。


弓を引き切り、矢が的を狙っている状態で右頬に軽く頬付けし、鼻の下から口割りの高さ以内に矢を収める。


そして−−−放つ。


………矢は的のど真ん中に命中。


一呼吸入れ、ややあって弓を下ろす。


「…うわぁ…」


「…少しは参考になったか?」


俺自身、久々の事だったため不安はあったのだが……なんとかなったらしい。


「−−先客がおったようじゃな」


背後から聞き慣れた声。


振り向けば−−弓を担いだ公覆殿が近付いて来る。


「黄蓋様!!」


「応、元気があって良いのぉ。徐盛の指南か?」


「えぇ。それと私も少し身体を動かしたかったので」


「調子が戻ってきたようでなによりじゃ。……和樹、場所を譲ってくれんか?」


「どうぞ」


「済まんな。…さて…少しばかり手本を見せてやるか…。徐盛、良く見ておけ」


「はいっ!!」


……こりゃまた随分と豪華な指南役だな。


俺や一曹が−−自分で言うのもなんだが……彼女なら俺達が教えるよりよっぽど実戦的かつ効率的な弓術を教授してくれるだろう。


「−−弓を引く時は力み過ぎてはならんぞ。肩の力を抜くのじゃ」


「剣術と同じですか?」


「そうじゃな。武芸全般に言える事じゃが、無用な力を入れるのは無駄な動きを作る事になる。それは忘れるでないぞ?」


「はい!!」


「良い返事じゃ……教え甲斐がある」


傍らの徐盛を見る公覆殿は満足気に何度も頷くと腰の矢筒から矢を抜き取り、それを弓へ番え、的を睨む。


「…矢とは真っ直ぐには飛ばぬ。放った瞬間から緩い弧を描きながら飛ぶのじゃ」


「はい、教わりました」


「それなら話は早いの。近距離−−ここからあの的まででも弧は描かれる。弓を引く力加減、風向き、己の呼吸を意識し、どのように矢が飛ぶのかを想像すれば−−−」


彼女は一気に弓を引き絞り、番えていた矢を放つ。


それは−−俺が当てた矢へ命中し、矢筈から鏃を一気に切り裂いた。


「−−このような芸当も可能じゃ」


「「…………」」


当然の如く語る公覆殿だが………初心者に貴殿の天才的な腕前を披露する必要はあるのだろうか。


…まさか俗にいうロビン・フッド・ショットを目撃するとは思わなかったが…。


「さぁ、やってみよ」


「はっ…はい!!」


呆気に取られていた徐盛だったが慌てて姿勢を正し、弓を構える。


彼女は徐盛の様子を見守る為か俺の傍らへ移動してきた。


「…中々、教え甲斐がある弟子じゃな?」


「…弟子かどうかはともかくですが……“教え甲斐がある”というのは賛同しましょう」


声を潜め耳打ちする公覆殿へ返しつつ、腰に差した愛刀を抜き杖とする。


「そこは認めるのか?」


「…認めざるを得ない、というのが本音です」


「ほぅ?」


「自分が教えた技術を素直に吸収し実践している。…こうも素直に出来る人間はそう居ない」


「…確かにの」


−−放った矢が的へ命中し、徐盛は微かな喜びの表情を浮かべるモノの直ぐにそれを引っ込め、新たな矢を取る。


「…当たったの」


「えぇ。……部下や自分が教えて五日足らず。近的でなら十矢の内、五矢は当たるようになりました」


「ほぅ……それはそれは……」


感嘆の溜息を吐く公覆殿と共に放たれた矢を眼で追う。


−−命中だ。


「…元服したからか…随分と励むようになったの」


「えぇ。武術だけでなく学問も自分へ教えを請うようになりました」


「……まるで、お主の背を追っているようだ」


−−放たれた矢は寸分の狂いなく的を貫いた。





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