名付けるべからず
林岩は、古建築の修復を専門とする測绘師(測量技師)である。
半月前、彼は一連の図面を整理している最中に、一枚の草稿を見つけた。そこには重なり合う山々の間に佇む「重檐歇山造り」の建物が描かれており、傍らには朱砂でこう書き添えられていた。
「名付けるべからず、語るべからず。入る者は、幻の夢に入るがごとし」
好奇心に突き動かされた林岩は、一人で旅に出た。三日間にわたる密林の踏破を経て、目の前に現れた光景に、彼は思わず息を呑んだ。
銀河が逆さまに懸かっているかのような滝の裏側に、玉のように白い石造りの牌坊(鳥居状の門)が隠されていたのだ。谷間には異様な色彩を放つ奇妙な花々が咲き乱れ、半透明の花びらからは幽かな燐光が漏れている。その色合いといい、漂う空気といい、まるで行き場のない数千万年の霊気がここに凝縮されているかのようだった。
林岩が漢白玉(白い大理石)の回廊に沿って奥へと進むと、一つの楼閣の前で足が止まった。楼閣の真上には巨大な漆塗りの額が掲げられていたが、そこには一文字も記されていなかった。
彼はふと、図面と共に伝わっていた噂を思い出した。かつて一人の芸術家がこの地を訪れたという。俗世を超越したこの絶景を前に、芸術家は何度も筆を執ったが、この神韻に釣り合う言葉などこの世には存在しないと悟った。結局、芸術家は筆を置き、額に一文字も書き残すことはなかったのだ。
「自分の目で見なければ、俗世にこれほどの秘境が存在するなど、誰が信じられるだろうか」
林岩が低く呟いた。ふと振り返ると、今来た道はすでに花海の中に消えていた。彼はふっと微笑み、そのまま霞たなびく光の中へと歩みを進めた。
画像のURL:https://50514.mitemin.net/i1128545/




