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第20話(最終回):召し上がれ、新世界

「これが……私の、真の姿だぁぁぁ!」


ドン・マヨネーズの叫びと共に、城の最上階が爆ぜた。ドラゴンの心臓と融合し、巨大な卵黄の龍と化した総帥が、高濃度マヨネーズのブレスを吐き散らす。触れるものすべてを油脂で塗り潰し、個性を奪う「無」の世界。


だが、ツヨシは一歩も引かなかった。

「ハンス、リン! 準備はいいか! ここからは戦いじゃない。……『営業』だ!」


「合点承知! 魔法陣展開——『超次元オープンキッチン』!」

ハンスが魔導書を掲げると、ガレキの山が瞬時に白銀の調理台へと姿を変えた。

「……接客担当、リン。……お行儀の悪いお客様は、……つまみ出す」

リンが龍鱗のクナイを逆手に持ち、残像を残して跳ねる。


「笑わせるな! 喰らえ、『エマルジョン・デス・レイ』!」

総帥が放つ、光速に近いマヨネーズの奔流。だが、ツヨシは「絆の包丁」を抜かない。代わりに手にしたのは、ハンスが錬金術で補強した特大のボウルだった。


「いい出汁ビームだ……! ありがたく頂くぜ!」


ツヨシは飛来する攻撃をボウルで受け止めると、その凄まじい衝撃を逆に利用して、高速回転を始めた。

「千切り・旋風斬り!」

包丁が閃く。総帥が繰り出す触手(アスパラガスの魔物)が、空中できれいに1ミリ幅の千切りにされ、ボウルの中へ吸い込まれていく。


「な、なんだと!? 私の攻撃が……仕込みにされているだと!?」


「火力が足りねえな! ハンス、着火だ!」

「任せてください! 極大火炎魔法——『プロミネンス・コンロ』!」

床から噴き出した蒼い火柱が、巨大な中華鍋を真っ赤に熱する。ツヨシはそこへ、総帥が放った「氷結ビネガーの弾丸」を放り込んだ。ジューッ! という官能的な音が響き、戦場は一瞬にして芳醇な香りに包まれる。


「叩き、焼き、蒸し……。アンタの攻撃は全部、最高のスパイスなんだよ!」

ツヨシは戦場を縦横無尽に駆け巡る。崩れ落ちる天井の破片を「重し」にして肉をプレスし、リンが弾き飛ばした敵兵の剣を「串」にして素材を刺し通す。


「仕上げだ……! 万象一切・至高のフルコース、メインディッシュ!」


ツヨシが「絆の包丁」を天に掲げる。ハンスの魔力、リンの気合い、そしてツヨシの全人生が、その一振りに収束した。

「秘奥義——『宇宙開闢ビッグバン・オムレツ』!」


黄金の光を纏った包丁が、巨大な卵の龍(総帥)のど真ん中を優しく、しかし確実に「割った」。

ドォォォォォン!


爆発したのは破壊の炎ではない。それは、濃厚で、それでいて羽毛のように軽い、黄金の香気だった。

「な……なんだ、この多幸感は……」

総帥は、光の中で呆然としていた。


彼の口の中に、一片のオムレツが飛び込む。

舌の上で、ドラゴンの心臓の荒々しさが、ハンスの魔力(隠し味の塩気)と、リンのクナイが刻んだ野菜の甘みによって、完璧に調和されている。


「……あたたかい……」

総帥の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「私は……ただ、誰かに認めてほしかっただけなのかもしれない。自分の作った味を、誰かと……分かち合いたかっただけなんだ」


巨大な龍の姿が霧散していく。後に残ったのは、コック帽がボロボロになった、ただの小太りなおじさん(ドン・マヨネーズ)と、満足げに腹をさする兵士たちの姿だった。


城の上に、清々しい朝日が昇る。


「……終わったな」

ツヨシが包丁をタオルに収める。すると、ハンスの魔導書が眩しく輝き出した。

「ツヨシさん! 異世界の門が開きます! 今なら、あなたのいた現代に戻れるはずです!」


空に浮かび上がる現代日本の光景。賑やかな商店街、見慣れた自分の店の暖簾。

「帰れるんだな……」

ツヨシは一瞬、寂しげな表情を見せたが、すぐに隣で「お腹空いた……」と呟いているリンと、鼻水を拭きながら「行かないで」と言いたげに見つめてくるハンスを見た。


「……。いや、まだ帰れねえな」

ツヨシは門に向かって背を向けた。


「ええっ!? なんでですか!?」

「ハンス、お前の魔力は火力が強すぎる。リン、お前はつまみ食いが多すぎる。……こんな放っておけない奴らを置いて、プロの料理人は引退できねえよ」


「ツヨシ……!」

リンの瞳が輝く。

「それにさ、この世界の連中、まだ俺の『究極のチャーハン』を食ってねえだろ? 全員に『ごちそうさま』を言わせるまで、俺の営業は終わらねえんだ」


一ヶ月後。

辺境の町の街道沿いに、妙な看板を掲げた店がオープンした。


『異世界食堂・ツヨシ亭——店主:ツヨシ、魔法調理担当:ハンス、用心棒兼つまみ食い処罰担当:リン』


「おいハンス! その火球はスープ用だ、焦がすなよ!」

「わ、分かってますよ! 制御が難しいんですから!」

「……ツヨシ、お客様。……ドラゴン肉のステーキ、十人前だって」

「よしきた! 腕が鳴るぜ!」


ツヨシが勢いよくフライパンを振る。

その音は、新しい世界の平和を告げる鐘の音のように、どこまでも高く響き渡った。


「召し上がれ! 新世界!」


(完)

最後まで読んでいただきありがとうございました。明日からは「ツヨシ」シリーズ第5弾が始まります。

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