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第8話

「あ、アルト……私を、お前の……っ」


顔を真っ赤にして絞り出そうとするタチアナの言葉を、俺はポンと手を打って遮った。


「ツマミ? ああ、姉さんのシチューのツマミに何か欲しいってこと? いいよ、自家製のピクルスがあるから」

「……は」


気の抜けた声を出して固まるタチアナ。

その横から、ゴゴゴと地鳴りのような殺気が膨れ上がった。


「ちょっと待ちなさい、この泥棒猫……っ」

「アルトは私のなんだからね!」


サクリアとユエルが、タチアナの胸ぐらに飛びかかろうと地を蹴ったその瞬間。


ドゴォォォォンッ!


天空の彼方で、太陽が爆発したかのような閃光が弾けた。さっき俺がホームランした巨大ゴミが、王城の結界か月にでも激突したらしい。


「うおっ、なんかすごい花火上がった! ほら、危ないから早く家入って!」


俺は唖然として固まっているタチアナの腕を掴んで引っ張り込み、殺気立つユエルとサクリアごと強引に勝手口へ押し込んで、ピシャリとドアを閉めた。


……数分後。


ギルドハウスのダイニングには、異様なまでの静寂が落ちていた。


「さあ、冷めないうちに食べてね」


ふわりと微笑むミサリアの言葉とは裏腹に、テーブルの空気は完全に凍りついている。

右にサクリア、左にユエル、そして正面にタチアナ。

笑顔を貼り付けた三人の視線が空中で激しく交錯し、バチバチと青白い火花を散らす。タチアナが震える手で握りしめた銀のスプーンは、すでに飴細工のようにぐにゃりとねじ曲がっていた。


ドンッ、とテーブルの下で鈍い音が響く。

誰かが誰かの足を蹴ったらしい。それに呼応するように、サクリアの周囲の空間だけが不気味に歪み始める。


『みんな無言で食べてるけど、よっぽどお腹が空いてたんだな』


俺が呑気にシチューを口に運んだ、その時だった。


テーブルの下で激化する女たちの蹴り合いが、誤って俺のスネを直撃した。


「痛っ」


俺が顔をしかめた瞬間、三人の動きがピタリと止まる。

そして次に聞こえてきたのは、絶対怒らせてはいけないミサリア姉さんの、極低温の声音だった。


「……ねえ。せっかくの温かいご飯の前で、アルトに怪我をさせようとする悪い子は、どこの誰かしら?」


室内の温度が、物理的に急降下する。

元魔王のサクリアも、剣聖のユエルも、そして一口食べたシチューの異常な回復力に気づきかけていたタチアナも、その声の前にカエルに睨まれた蛇のように硬直した。声音だった――

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