第20話
「お前は今日からレムリアだ。長ったらしいからレムって呼ぶからな」
俺が適当に名付けると、創造女神は頬を赤らめて両手を組んだ。
「おお、世界を創りし我が真名が、いとも容易く上書きされたぞ。アルトの完全な所有物になったようで胸が高鳴るのう」
偉そうな態度の裏に隠れていた、強者特有の『圧倒的な力で支配されたい』という依存属性が完全に露呈している。
「はいはい。じゃあレム、そこの散らかった瓦礫でも片付けておいてくれ」
俺が適当にあしらっていると、再び呑気な電子音が鳴り響いた。
ピンポーン。
吹き飛んだ壁の向こうへ視線を向ける。
現在、我が家は急成長した世界樹と共に遥か上空へと持ち上げられている。しかし息苦しさはなく、世界樹が放つ濃密な魔力が、家の周囲に快適な神域の結界を作り出していた。
だが、その神聖な結界を強引にこじ開けるように、空間に四角い『ギルド専用・強制転移ゲート』が開いていた。
そこから姿を現したのは、漆黒のギルド制服をシワひとつなく着こなし、冷徹そうな銀縁眼鏡をかけた女性だった。
しかも彼女は、世界樹の太いツタに絡まって窓の外で身動きが取れなくなっていたユエルの背中を、物理的な踏み台にして直立している。
「ぐえっ……あ、アルト、助け……じゃなくて、私をもっと見て」
踏みつけにされながらも俺へのアピールを忘れないユエルをスリッパ代わりにしつつ、女は手元の魔導バインダーをめくった。
「ギルド税務局の特級調査官です。アルト様ですね」
天空の浮遊島というファンタジーな光景よりも、俺は『税務局』という言葉に心臓を鷲掴みにされた。
「あ、はい。確定申告なら先月きちんと済ませたはずですが」
俺が冷や汗を流しながら答えると、調査官は眼鏡をクイッと押し上げる。
「ええ。ですが、先ほど当方の魔力レーダーに、無申告の超巨大固定資産である『世界樹』の建造、および神話級危険指定生物の無許可飼育が確認されました」
調査官の冷たい視線が、室内の巨木と俺の足元にいるポチを順番に射抜く。
「待ってください。これは勝手に生えてきただけで俺のせいじゃ」
「言い訳は税務署で伺います。本日の追徴課税の総額ですが――」
調査官がバインダーから取り出した振込用紙のゼロの数を見た瞬間、俺の意識は完全に真っ白になったのだった――




