第19話
俺の腕の中から飛び出したポチが、小さな口を大きく開けた。
その喉の奥で、星を消し飛ばすほどの極大ブレスが圧縮されていく。
「こら、室内で暴れちゃダメだろ」
俺はため息をつき、ポチの額に軽くデコピンを放った。
パチン、という乾いた音が響く。
ポチは目を回して気絶したが、行き場を失った規格外のエネルギーが暴発した。
ズドォォォンッという轟音と共に、俺が先ほど直したばかりの壁と天井が、さらに広範囲にわたって吹き飛んでしまう。
「あああっ」
俺は、成層圏の冷たい風が吹き込む惨状を見て、そのまま膝から崩れ落ちた。
「ギルドハウスの修繕費が!しかも宇宙のすきま風で冷暖房費が破滅する!」
宇宙の脅威には全く動じなかった俺だが、リアルな金銭問題と生活の危機には勝てない。
ただでさえ大所帯になりつつあるのに、これ以上の出費はスローライフにとって致命傷だ。
頭を抱えて絶望する俺を見て、サクリアが優雅に微笑みながら肩に手を置いた。
「気に病むことはないわ、アルト。隣の国を一つ滅ぼして、王家の金庫を奪ってくれば済む話よ」
「何をスケールの小さいことを言っておる。我の力で、金貨など山のように創り出してやろう」
創造女神もふんぞり返り、得意げに胸を張る。
最強の存在たちは、総じて金銭感覚がバグっていた。
俺は立ち上がり、二人の額に順番にチョップを落とした。
「痛っ」
「あうっ」
「そんな犯罪まがいのこと、ポチの教育に悪いだろ!お金は汗水流して稼ぐものなんだ」
俺が真面目に生活態度の説教を始めていると、背後からドンドンと窓ガラスを叩く音が聞こえてきた。
「開けてー!息が続かないよー!」
真空の宇宙空間で、ユエルが涙目で窓に張り付いている。
だが、白熱する深刻な家計会議のせいで、俺の耳には全く届いていなかった。
その時、吹き飛んだ天井の向こうから、ありえないはずの電子音が鳴り響いた。
ピンポーン。
こんな成層圏のど真ん中で、ギルドハウスのインターホンを押した人物の正体とは――




