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第17話

ギルドハウスの床下から生えた世界樹の幹が、ドクンと心臓のように脈打った。


俺はサクリアの目を覆っていた手をそっと離し、部屋の隅にある園芸用のジョウロを手に取る。


『日当たりがいいから、一気に花が咲きそうだな。少し水を足しておこう』


俺は呑気に口笛を吹きながら、脈打つ世界樹の根元にたっぷりと水を注いだ。

ただの水道水のつもりだったが、無自覚に注がれたその水は俺の規格外の魔力が極限まで溶け込んだ超純度の神聖水である。


ズババババンッ


爆発的なバフを受けた世界樹が狂ったように急成長し、ギルドハウスの天井と壁を無惨に引き裂いた。

ポッカリと開いた大穴から、成層圏の真空が室内の空気を吸い出そうと牙を剥く。


「おっと、すきま風が。光熱費が跳ね上がってしまうな」


俺は引き出しからDIY用の木工用ボンドを取り出すと、見えない空間の亀裂にツーッとたっぷりと流し込み、両手で力任せに引き寄せて圧着した。

さらに、すかさずホームセンターで買ったタッカー(建築用の大きなホッチキス)を亀裂に押し当て、バチンッ、バチンッ! と空間の裂け目ごと強引に縫い合わせていく。


「あ、ありえない……。世界の理である空間の断層を、素手で引き寄せてボンドとホッチキスで塞いだというのか……!?」


窓枠にしがみついたタチアナが、血の気の引いた顔で叫ぶ。

だが、ただの市販の接着剤と針金も、俺の指先から無自覚に漏れ出す魔力コーティングを受けることで、次元の裂け目すら絶対に剥がさない最強の修復へと変貌していた。


俺がただの日曜大工の要領で空間を塞ぎ終えると、室内は世界樹が放つむせ返るような濃密な神気で満たされていた。


「おおっ、力が漲るぞ! 我、復活じゃ!」


俺のベッドで爆睡していた金髪の創造女神が、両手を突き上げて勢いよく跳ね起きた。

その凄まじい神気の波紋ビンタを浴び、タチアナも絶句したまま震えている。窓の外では、パジャマ姿のユエルがパルスのような衝撃波を放ち、星喰い竜を相手に朝の素振りを継続中だ。


「アルト様……もう、何が起きているのか……」


「まあ、落ち着きなよ。タチアナさんも、お茶でも飲む?」


俺がやれやれとジョウロを置いたその時。

世界樹の最も太い枝の先で、車ほどもある巨大な蕾が、ミシミシと音を立てて身震いした。


周囲の星々の光を吸い込むように、蕾がドス黒い輝きを放ち始める。

そして、物理的な質量を無視した芳醇な香りが部屋中に広がると同時に、その花びらがゆっくりと、しかし確実に開き始めた――。

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