第14話
握りしめたドア枠が木っ端微塵に砕け散る。
絶対的な怒りと絶望を纏ったミサリアが、ゆっくりと顔を上げた。
「アルト……あなたという人は……」
地獄の底から響くような声。
だが俺は全く動じることなく、無邪気な笑顔でぽんぽんと自分の隣のシーツを叩いた。
「あ、姉さんも一緒に寝る。少し詰めるよ。ほら、ここ温かいよ」
ピシリ、と。
部屋を満たしていた殺戮のオーラが、一瞬で凍りついてひび割れた。
「……え」
特等席である家族としての無邪気な誘い。
振り上げた拳の行き場を完全に失ったミサリアは、数秒の硬直の後、顔を真っ赤にして限界まで沸騰した。
「あ、う……そ、そう……。アルトが、どうしてもって言うなら……」
完全にバグ落ちしてしまった姉さんが、もじもじと毛布を抱きしめる。
だが極限まで高まっていた魔力は、急激な照れ隠しによって完全に制御を失っていた。
ズズズンッ。
漏れ出した超重力魔法の余波が、ギルドハウス全体を大きく揺らす。
その激しい縦揺れに、俺の腰にしがみついていた金髪の美少女が目を擦りながら身を起こした。
「むにゃ……なんじゃ、地震か。まったく、安眠もできぬのう。ほれ、世界樹の根で家を固定してやろう」
寝ぼけ眼の女神が、パチンと無造作に指を鳴らした。
次の瞬間、凄まじい轟音と共に、ギルドハウスの床下から規格外の巨木が突き抜けてきた。
太い幹が天井をぶち破り、部屋の中に巨大な緑の天蓋が生い茂る。
サクリアとユエルが悲鳴を上げ、タチアナが気絶したまま宙を舞うという大惨事の中、俺は一人で深く頷いた。
『おっ、いい木陰ができたな。マイナスイオンたっぷりでよく眠れそうだ』
俺は降り注ぐ木漏れ日の中で、再び極上のスローライフの眠りにつく。
この巨大な世界樹の急速な成長に伴って、ギルドハウスごと遥か上空の成層圏へと持ち上げられ始めていることなど、この時の俺は知る由もなかった――




