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【死ぬほど頑張る】を極めてしまった 〜社畜は異世界でやり直す〜  作者: 汚醜
第二章 盗賊

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第30話 Monster kid

 流石に赤ローブも手を回していたようだ。後から追いかけてくる人数が少な過ぎると思ったら、いつの間にか挟み撃ちの形になっていた。

 複数人を相手取るのはマリーが強い。戦況を広く見て戦法を変えることが出来る。


「皆様、出口に集団があります。正面突破しますか?」


 バイヨンが縄を構えながら言う。

 

「作戦会議してる間にあのバケモノが戻って来るよりは間違いなく可能性がある方法だと思うよ。」

「では先陣を切らせて頂きます。」


 マリーが後ろのカバーをしてくれたので、出口側の集団をそれ以外で相手した。

 ソウが全員の足を土で固めたあと、バイヨンが縄で全員を拘束した。

 手早く片付けて建物から脱出する。村の獣人達が不思議そうな目で見つめてくる。無意味なのを理解しながらも、屈むように洞窟の外へ続く道に急いで走る。


「みんな。」


 最近聞いた声に足が止まる。

 振り返ると獣人の子ども、コロだ。こんな状況になっていても驚いている様子はない。元々俺達が味方では無いことを薄々感じ取っていたのだろうか。


「僕お母さんから聞いた事あるよ。ヒトと獣人は昔仲が悪くて喧嘩別れしちゃったんだって。騎士団しか洞窟の外に出れないのは、外にはヒトが沢山いるからだって。」


 コロは1歩こちらに近づく。


「勝手な事をした騎士団は外のヒトに罰せられる対象なのは正しい?まだ獣人は外のヒトに嫌われてる?」

「……そうだね。」


 少し遅れてやって来たマリーが答える。

 コロは下を向いたまま顔を上げない。


「選択を間違えないで。獣人の命運も、騎士団の未来も、みんなの手の中にあるんだ。」


 舌打ちをしながらソウがコロに接近する。

 

「……間違いなんかねぇよ。お前が言ってる騎士団ってのは俺達の敵にほかならねぇ。ぶっ潰すのみだ。」

「なら、みんなは僕の敵だね。」


 コロの一言に体が凍りつく。弁明しようとするも、言葉が何も出てこない。これは自分の意思で引き起こした事且つ、獣人の立場からすれば俺たちが襲撃者であることに違い無い。

 コロの腰から刃物が見えた。本気で戦う気なのか。

 面々が何とか宥めようとする。


「やめろ。それになんの意味があんだ?」

「そうですわ!貴方だって話し合いができればみんな仲良くなれるって……。」

「仲良くしようとなんてしてないじゃないかッ――!!本当にそうしたいなら、直ぐにここから帰っていた筈だ!」


 洞窟内で反響し、1度響いた音が追い討ちのように何度も頭に響く。


「そんな……!私たちの立場になって考えてみても欲しいですわ!自分の国を裏切るか、獣人の未来を取るかなんてとても決めきれない!」

「……僕は中途半端な人が1番嫌いだ。お姉ちゃん達とは違って、僕はここを守る為だったら人だって殺せる。」


 コロの手は震えている。多くもない食料が作り上げた細い足は簡単にストレスに負けそうに見えた。

 今は最早決意だけによって支えられている。

 その様子を見たソウが槍を構える。

 

「おう、立派な覚悟じゃねぇか。ここの盗賊団の真似事か?」

「盗賊団……?」


 ここの獣人からすれば、話の流れ的にありえない単語に困惑している。

 ソウは冷静に続けた。

 

「お前が言ってたお宝ってのはどんなもんだ?」

「……ペンダントだったり、宝石もある。」

「それは誰が作ってんだ?」

「……!」


 顔が唖然とすると共に、ナイフを持つ腕が大きく下に落ちる。コロの腕が完全に脱力した。


「お前らは俺達から物を奪って生活してんだよ。俺の騎士団は毎日何件も来る被害報告にウンザリしてたとこだ。勿論その奪われた物にはそれぞれ思い出がある。結婚指輪、自分の子どもから貰った宝石、詳細を聞く度怒りが湧くんだよ……。」


 俺の盗られたキーホルダーを思い出す。あの結果に満足した気でいたが、やはり時々思い出してしまう程未練はあった。

 しかしコロは被害者だ。騎士団がこのような手段をとったなら、それに従う他ない。

 だが、純粋無垢な子どもには大きく響いたようだ。


「そんなの知らない……!僕はただこの生活が続けば良いだけなのに!!」

「こっちだって別に獣人と仲良くしようとしてないわけじゃねぇんだ。ただそれで被害が及んでんなら共存じゃねぇ。だが盗賊団を倒せば新しい道を探せるはずだ。」


 ここまで言ってもコロの意思が揺らいだ様には見えなかった。何か大きな根拠があるのか。

 コロは再びナイフを持つ手の力を強めた。


「そんな道ないよ……!僕がメガネをかけてるお姉ちゃんの傷に気づいたのは僕の観察力が良かったからじゃない。隣に居た獣人のお姉ちゃんが酷い状態だったからだ!切られた痕に焼かれた痕!人間がしていい所業じゃない!!」


 バイヨンに注目が集まる。特に何も言うことは無いらしく、手を袖に持っていく。

 軽く袖を捲っただけだが、大きな傷の跡が幾つか見えた。全て古いものの様だが、惨い状況であったことを悲惨に語りかけてくる。

 しかしバイヨンの目に曇りは無い。

 

「私は心優しいヒトに救われました。その事実だけで十分許せます。この傷も、あの騎士団が起こしたクーデターの日、逃げ遅れてしまったのも私の責任ですから。」


 数秒の重い沈黙が空間を包む。お互いの考えに間違いは無い。そもそもこの問題に答えがあるとは思えない。だから誰もが迷ってしまった。


「皆さん!基地から煙が上がらなくなりましたわ!消火されてしまったのかもしれません……早く退避しましょう!」


 動かなくなったコロを警戒しながら、奥の道へと駆け始める。

 コロのプルプルと腕が震え始めた。


「ダメだ、ダメなんだよ……ッ!!それじゃあ!!」


 コロが震える手を大きく上へと動かした。握られていたのは縄だった。

 直後、地面に網目状の割れ目が発生して、そこから現れた縄に全員が縛られてしまった。四肢が動かない。

 バイヨンが言っていた、獣人に伝わる捕縄術があると。

 ――つまりこれは。


「これは……バイヨンと同じ……!」


 ソウの舌打ちが空間に響き渡る。

 腹の底が冷えた。このままでは後から来た盗賊団に殺されてしまう。


「……テメェも仲良くする気がねェってことだな?」

 

 コロの縄を握る手に涙が落ちた。

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