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【死ぬほど頑張る】を極めてしまった 〜社畜は異世界でやり直す〜  作者: 汚醜
第二章 盗賊

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第29話 逃走

奥に居る赤ローブが立ち上がる。杖を踏んずけて、足から魔力を送り出す。

 縄近くに魔力の塊が形成されているようだ。次の瞬間に小爆発が起き、縄は解けてしまった。

 ストレッチの様に、背中側に両手を持っていき何かを探している。

 その何かを剥がした。『半額』と書いてある丸いシールだ。


「成程、魔力がこの魔道具に吸われていく。しかも放出量に比例して吸う量も大きくなっていく……か。」


 それを見たアネットが小声で語りかけてくる。

 

「むー、逃走推奨。」

「マリー!!ミザリー!!バイヨン!!」


 砂の猛攻を躱しながら、穴から3人が飛び出してきた。

 流石に騒ぎを察知したのか、奥から足音が幾つも響いてくる。さっきまでの道に人が少ないと感じていたが、どうやらこちらに人が集まっていたらしい。


「アネット、何をしている?」

「やー、槍の人が怖くて魔力が竦むの。」


 再び赤ローブの元に魔力が集中した。全員がヤツの視界に入っている。回避は不可能だろう。木でできている周りの障害物と、俺の柔らかい魔力装甲では防御すら無理だ。

 いやこの部屋は好都合だ。こんな大きな設備、そう簡単に設置することはできない。


「みんな!!本棚の裏だっ!!」


 それぞれ一番近い物陰に隠れる。この部屋を破壊すれば恩寵が手に入らなくなり、新しい世代が生まれたとしても戦力として数えにくくなる。相手にとってそれなりに不都合なはずだ。

 赤ローブは攻撃態勢を解かない。無闇に体を出すことはできない。しかし、相手も防御の準備はできていない。

 それに気付いたマリーが本棚の裏から拳銃を5回発砲した。赤ローブは咄嗟に杖で弾丸を防御する。

 俺も本を1冊燃やしておく。


「ふん……何か弾丸に仕込まれてるな。」


 10%の僅かな遅延だが、それを見逃さなかったマリーが半身出して、赤ローブの足元に機関銃を連射する。

 その隙を見て全員で走り出した。ほぼ壁を蹴っているように階段を駆け下りる。


「この先……とても危険なにおいがします。」

 

 バイヨンが静かだが緊迫した声で言った。俺も降りるたびに魔力が濃くなっているのを感じる。間違いなく庭にいた人物だ。

 警戒を解かないまま階段を完全に降りると、ソレは居た。狭い空間に閉じ込めて一方的に攻撃することもできたはずだが、態々空間を大きく取り、対等に戦えるよう空間をとっている。余程実力に自信があるようだ。


「お前、マティアスと森に居たカスだな……?」


 やや顔を引き攣らせながらソイツは喋った。

 よく見ると、一番最初マティアスにやられた盗賊だ。

 とてつもない圧の魔力が押し寄せてくる。

 足が竦む中、先に動いたのはマリーだった。拳銃で素早く弾丸を叩き込む。勿論魔力装甲に阻まれて当たることは無い。


「今、弾丸と大きな隙間が空いていたのに弾かれたぞ?」

「物凄い分厚さの魔力装甲……。並の攻撃は通じないと思われます。」


 俺の疑問にミザリーが答える。彼女は魔力探知に優れているようだ。俺には精々とてつもない魔力が渦巻いていることしか分からない。

 

「火力で言えば俺が1番だ。お前らは俺の援護をしろ!」

「待って!ソウ!相手の戦術も分かってないまま……。」


 マリーの静止を振り切ってソウが距離を詰める。何故かミザリーとバイヨンがその後ろに続く。マリーと俺はそれぞれ援護の準備をする。

 相手は不気味なまでに動かない。一瞬で距離が詰まっていく。


「おかしい……。魔法を使う素振りすら見せないなんて。柴又、絶対に警戒は解かないで。」


 直ぐに距離が詰まりきった。ソウが大きく槍を振りかぶる。腕から魔力を発散させることで、ジェットと同じ要領で加速しているらしい。強化魔法との相乗で、とてつもない速度を実現している。

 そのままノーガードの敵へと突き刺さる。

 と思ったのだが、時間が止まった様に槍も止まる。魔力装甲に阻まれているのだ。


「拳2個分は空いてんじゃねぇか!?ありえねぇ……!!」

「ソウさん!!何か来ます!!」


 ミザリーが警戒を勧告するも、そもそも何か分からないものに対処などできない。

 ソウがジグザグに曲がりながら距離をとっていると、突然二の腕辺りから出血するのが見えた。


「魔力“装甲”だぞ!?コイツ形を捻じ曲げて攻撃に転用してきやがったッ!!」


 ソウも装甲は纏っていた。しかし魔力による圧力だけでそれを破ったのだ。

 俺も完璧な装甲は纏えないが、距離が離れれば精度も硬度も大きく下がるのは分かる。周りの反応も相まって、人間離れした技としか思えない。

 

「俺はちょーっとばかり魔力の形成と硬化が得意でなぁ。下手に近づくと怪我すんぜ。ちなみについた異名はハリネズミだ。穿孔機に比べてちっとかっこ悪くねぇか?」

「確かにトゲトゲしていてネズミみたいですわ……。」

「普通ハリの方言うだろ。」


 ハリネズミさんのツッコミが冴え渡る。

 十二分に距離を取ったソウが間髪入れず地面から土魔法で攻撃を試みる。


「流石に下からの攻撃は想定してねぇだろ!!」


 木を破り大きく土の三角錐が形成される。

 靴の底を破った。しかし男はその上に立っている。例え強化魔法を使っていても足が裂けておかしくない攻撃だ。


「身長コンプが命を救ったな。ヘンス。」

「素でもお前よりはデカいんだが?」


 上から赤ローブが降りてくる。逆に今までモタモタしていたのが不思議なくらいだ。

 このヘンスという男は靴と足の間にも魔力装甲を張っていたのだろう。この世界の住人にしてはやけに靴底が厚いとは思っていた。

 こんな化け物2人も相手にしていられない。今度こそ終わったか。

 

「こんなカスども、俺一人で余裕だ。手出すんじゃねぇぞ。」

「そんなの分かっている。だがお前の水魔法が必要になったんだ。」

「……?」


 赤ローブが頭を掻く。やや斜め上を向きながら言った。


「上が大火事だ。俺じゃ手に負えん。」

「……早く言えよォ!!」


 焦げ臭い匂いが辺りに広がっている。黒い煙の方向へと2人は駆けていった。

 アイツが水魔法を使用している様子が運良く見られて良かった。俺が本を1冊燃やしておいたのはこの為だ。


「おい!そこで待ってろ!ぜってぇぶっ殺してやるからな!!」


 敵陣ど真ん中の筈だが、俺達だけがポツンと取り残される。暫く時間が立った後、全員が顔を合わせる。バイヨンが口を開いた。


「行きましょう。」

「……納得できねぇ。まだ勝負はついてねぇんだ。」

「ソウ。君も分かってると思うけど?」

「あ?」


 この状況でソウは何を言っているのか。マリーが溜息をつく。出口の方向へと体を向け、やや顔をこちらへと曲げる。

 

「明らかに負けだよ。君の。」

「……うるせぇな。」


 マリーはソウのことをよく分かっているようだ。正直に第三者の意見を述べれば納得する。突拍子もない行動を取ったり、俗っぽい口調ではあるが、ソウも馬鹿ではない。


「分かってんだよ。」


 言い切ると同時にソウがマリーを追い越して先へと走る。俺は只それに付いていった。

神「明らかに負けだよ。君の……(ボソッ)。かっこいいよね笑!!うおっ、……なんだこの銃弾?」

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