第27話 作成開始
秘密基地。子どもならワクワクが止まらない最強の空間なのだろうが、今の俺達は胃が噎せ返る思いで楽しむ余裕なんてなかった。
「まあ……色々ありましたけど、結果的に作戦会議にはおあつらえ向きの空間を作れましたわね!」
暗い雰囲気を打ち壊すように、元気に振舞ってみるミザリー。そうだ、迷ってる暇なんてない。俺達に任されたことを今はやるべきだ。
「そうだね。今はやれることを頑張らないと……。」
「……分かった。とりあえず作戦を立てようか。」
マリーを主導に作戦会議が始まった。
建物が意外と大きかったので、2手に分かれて捜索し、早めのスピードで切り上げるという方針になった。
チーム割は俺、ソウのペアとその他3人で分かれることになった。
ミザリーが居るので頑丈なソウが守るという案もあったが、全員生還という点で考えると、魔道具での妨害による逃げに特化したマリーが組んだ方が良いという結論だ。
しかし決まったのはそれだけ。今できることがないか、個々が頭を捻らせた。ミザリーが奥にあった、古びた棚を開ける。
「こ、これは!?」
ミザリーが中身にあった物を机に置いた。割り箸を寄せ集めて作ったような模型だった。
しかし、この形は。
「すごい……!こんな何でもない棒切で盗賊団の拠点を再現してる!」
自分から自然と感嘆の声が盛れた。入るときに特別存在感を感じさせたあの拠点だ。よく観察すると、周りは接着剤のような物で固定されていたが、屋根と階間は固定されていなかった。ソウが屋根を外すと、部屋が区切られていて、階段まで再現されているのが分かった。
「これを参考にすれば、より細かく突入時の動きを決められるね。」
マリーもご機嫌な顔持ちでこちらを見つめる。
この拠点には階段が3つあるようだ。
正面から2階に上がって、この建物で一番大きな部屋にたどり着く階段。
個室がいくつも連なっている横の廊下を進むとたどり着く、これまた違う大きな部屋にたどり着く階段。
円を描く廊下を進んで、広い庭のような場所を経由すると見える、建物横に備え付けられた階段。
色々話し合い、ルートを決定した。俺とソウは一階の全ての部屋を捜索した後、庭を経由して階段を登り2階の捜索に移る。
他3人は個室が連なっている場所を調べて階段を登る。その後、各自探索を進めながら、正面の階段からたどり着ける大きな部屋で落ち合い、そのままその階段で帰還する。
そして、作戦会議の勢いそのままに突入することにした。
フードを深く被り深呼吸をする。
さっきまで歩いていた道を戻っていく。2度目になって気づくが、やはり獣人しかいない。
今度は顔をよく見てみる。今の生活に何一つ不満なんてなさそうだ。そうなると、自分がやっていることに疑念を抱きそうになる。全員その気持ちに気づいているようで自然と早歩きになった。
早く歩くと早く目的地に着く。当たり前のことがこんなにも憎ましい。敵の本拠地を目の前にして、誰一人歩みを進めない。
「じゃあ、作戦通り。ヘマすんなよ。」
「そっちこそ。」
なるべく怪しまれないように、視線を動かさず。ただ歩くことに専念する。
――やはり、中には人間しかいない。まるで村と拠点で仕切られているように全く違った相観を見せていた。
マリー達と無言で分かれる。それぞれの道を歩み始めた。
思ったより人は少ない、20歩あたり1人すれ違う程度。とりあえず円状の廊下を1周してみた。
1階は生活するための空間という感じだ。あったのは巨大な厨房、食物庫、武器庫。そして書斎。
とりあえず、一番情報を得やすそうな書斎に入った。本の背文字も異世界の文字なので、中身を予想することは不可能だった。ソウだけが納得しながら視線を右往左右させる。
俺も色々見ていると、とある一点で目が留まった。
特段特別な本では無いが、手に取ってみると綺麗な包装が二重に施されていて、他の本に比べてとても大切にされているように思える。
「ソウ。この本、重要な情報が記されているかもしれません。」
「……何だこりゃ、日記か?こんな見やすい場所に置くたぁ、相当自分を見せたいナルシストなんだか。」
ソウがアルバムほどある本を開く。勿論、俺には読めないので、面倒くさがるソウに小さく音読してもらった。
「以前から計画していたことだが、いざ始まると自分の選択が疑わしい。これを見ている皆には私の選択を肯定する権利も否定する権利もある。なのでここに魔道士フィンの日記を置く。」
あの赤ローブの男の日記か。何が記されているんだ。
「2月3日。今日は団長とお出かけをしたよ♪」
おい、普通の日記じゃないか。いや、書いているのはあのおっさんであるはずだ。キモすぎる。
文字としては何が書いてあるかは分からないものの、紙1枚を贅沢に使い、デカデカ雑に書かれているのは伝わる。ソウも呆れながらページを捲る。
1枚、2枚、3枚……16枚。ソウの顔から察するに、恐らく同じような内容が続いている。
17枚。ここで漸く手が止まる。先程と比べて妙に文字が整っている。
「3月12日。酷い光景を見た。女の獣人が人間に襲われている。ソイツら曰く、『獣人だから』と。一瞬耳を疑った。不仲な種族間、俺も獣人が嫌いだ。しかし理由も無く痛めつけるのは狂気の沙汰ではない。俺とヘンスは即刻処罰してもらおうと、騎士団の基地に連れて行った。現行犯且つ残虐極まりない行為。対応を急いでくれるだろうと思った。だが、いつの間にか騎士団まで淀みきっていたようだった。」
「……。」
そこからは人間が獣人にしでかした所業、クーデターに至るまでの心情の変化が細かく綴られていた。
「3月26日。団長に髪の毛を毟る癖がついた。ネガティブなことしか言わなくなっている。俺もこの国の真実に気付いてからは、どうも胃が気持ち悪い。今日は獣人の子どもがヒトの子どもに攻撃されていた。純真無垢な心には毒な光景が続いているからだ。全て腐る前に何とかしなくては。」
「4月6日。獣人を庇ったヘンスが牢獄に送られた。団長と抗議したが、聞く耳を持ち合わせていない様だった。団長が反乱を企てるノートを書いていたのに今日気が付いた。アンタ、ヴァーナとソウはどうするつもりだ?」
1つ進む度、ソウの声も低くなっていく。とても心を持った生き物が犯したとは思えない罪。
「9月25日。クーデターは完了した。全てを率いた団長はぐったりしている。ただ疲れているだけでは無いだろう。国には愛する妻と息子を置いてきたのだ。気が気でないはずだ。もともと作っておいた洞窟のシェルター。カゲクイソウを潰して得た泥のような水を飲み、人間だけでジパランへ駆り出して盗賊行為を行う。そこで得た物を闇市へ売り得た金を食料に当てる。途中の森で果物を取りながら帰れば、村の住人の食料をギリギリ賄える。獣人にやらせる訳にはいかない。種族のイメージが地の底まで落ちれば、今度こそ修復不可能な傷となるだろう。こんなことをしておいて言うのもおかしな話だが、いつか皆一緒で暮らせるようになる日を願う。」
これで決まった。騎士団は盗賊団となり、獣人を率いてクーデターを起こした。盗賊団が人間のみで構成されているのは、これ以上獣人への印象を下げないため。何とかして獣人と人間の関係を取り持とうとしているからだ。
「チッ、やっぱり気分悪ぃ。」
ソウは乱暴に本を本棚へと押し込んだ。
一瞬、隣にあった本にも手をかけたが、少しでも早く出たい為にそれを止めた。




