第21話 不安の種
マリーを除く全員が一斉に強化魔法を使う。最初に動き出したのはマリーだった。スプレー缶を取り出して前に走る。
ケモミミメイドはいつの間にか消えていた。
「目ぇ瞑って!!」
辺りが煙で包まれる。煙幕のような魔道具だ。
「10時に5歩先!!」
眼鏡も魔道具なのだろう。マリーには周りの様子が分かるらしい。指示と同時にソウが煙の向こうに消えた。激しい衝突音。火花が散っていることだけ分かる。
「はぁっ!!」
魔族の気合とともに、ドサッとその場で何かが倒れる音がした。おそらくソウだろう。
マリーが言っていた。魔法を使う中での基本、魔力感知というやつだ。この魔族は魔素の動きを見ることで、煙幕の中でも多少動くことが可能なのだ。
マリーと俺が同時に動き出した。マリーからランタンが魔族に向かって飛んで行く。魔族はそれを剣で粉々にした。
中から油が飛び出す。
「柴又!」
「なるほど……でも本当にやるのか?」
「当たり前でしょ。」
バーバラから習った魔法の出番だ。両手を水晶を持つように掲げる。
手の中の空間に熱を作り出す。
「火よ、集い固まれ。」
小さな太陽にも見える火球が一瞬で完成した。
「ファイアボールッ!」
「――ッ!?」
バーバラから教わった内容の1つ。魔法使いは魔素の動きが分かる。そして優れた魔法使いは空気中から取り込む魔素が多い。つまり体の周りに魔素が集中するのだ。魔法使いとして日が浅い俺の周りにほぼ魔素はない。
つまり今の状況、魔力感知をアテにしている相手からすれば、見えないところからいきなり炎が突撃してきたのと同じだ。無能は眼中にないだろうが、状況次第では、“最弱”が最も恐ろしい。
油に引火。魔族が瞬く間に燃えだした。マリーはすぐさま機関銃を取り出すと、弾薬箱だけを投げつけた。
「全員下がって!!爆発するよッ!!」
直後、周囲の空気が全て焦げた。炭と化した土が舞う。弾丸の火薬では有り得ない威力。
しかし、俺は大体分かっていた。これでは足りない。
「はぁ……はぁ。髪が焦げちゃっただろ……!」
爆発により煙幕が吹き飛ぶ。魔族は直立したままで、ダメージを感じさせなかった。
「ちっ、足りないか。」
マリーが再び臨戦状態になる。
「いえ、あなた達が気を逸らしてくれたおかげで私の攻撃が通りました。」
今まで姿を消していたケモミミメイドの手には縄が握られていた。
煙幕が吹き飛び初めて気づいた。周りの木々に縄が張り巡らされている。メイドが縄を引くと、魔族がぐるぐる巻きになった。
「獣人の間で古くから伝わる捕縄術です。特殊な縄なので魔族でも抜け出すのは難しいでしょう。」
魔族が縄を解こうと必死にもがくが、直ぐにその試みが徒労だと理解したようだ。今回の魔族戦は、割と呆気なく終わった。
ソウがワシャワシャと頭を掻いている。その横でしょぼくれているミザリー、すまし顔のメイド。奥にはイモムシ状態の魔族。掻くのを止めると、半ば吹っ切れたような感じで口を開いた。
「周囲に敵影無し。こいつの単独行動と見て間違いねぇな。さて……。言いたいこと、大体分かりますね?」
数秒間が空く。ミザリーの視線があちらこちらへと移ろった。メイドはスルーを決め込んでいる。
周囲の様子を現実として受け入れたのか、半泣きで喋り始めた。
「あの、本当に申し訳が立ちませんわ……。」
間髪入れずにメイドが喋り出す。
「姫様は悪くありません。私が連れ出しました。皆様、どうぞ私に切腹なり服毒なり命じてください。」
「黙ってバイヨン。」
「仰せのままに。」
このバイヨンというメイドはミザリーを盲愛しているらしい。この後喋っていいと言われるまで、他の人が話しかけても1日中黙っていた。
ソウの視線が更に凍りつく。
「ま、それは置いておいてよ。次、お前らな?」
正座している俺と不機嫌そうに突っ立っているマリーに視線が向けられた。
「私、なんかしたっけ?」
またソウが頭を掻きむしり始めた。焦げた髪がポロポロと抜け落ちる。
俺の頭が自然と地面に落ちる。
「はい、すみません。」
綺麗な土下座が決まった。我ながら心の底からの誠意が現れている。
ソウは魔族と近接戦闘をしてぶっ倒れた。魔族の近くでだ。そんな中俺は容赦なく魔法をぶっ放してしまった。
ソウの口撃が加速する。
「しかもイツキお前俺に気づいてたな。本当にやるのか?って言ってたよな。」
「はい。」
「お前が憎い。」
「はい。」
「反省してる?」
「はい。」
「本当はしてないだろ。」
「いいえ。そんなことはありません。」
チッ……と舌打ちしながらマリーに向き合う。
「お前は論外だな。クズめ。」
「この程度で死ぬ訳ないと思ってたよ。」
「お前それ感動のクライマックスのセリフとかで使うもんで、自分で燃やしたり爆破した相手に言うもんじゃないからな?」
「ハイ。」
「反省してる?」
「ハイ。」
「本当にしてるよな?」
「イエ。ソンナコトハアリマセン。」
「殺す。」
ごめんマリー。ソウの気迫に負けてマリーを燃やした。
もう一度ソウの視点が変わる。
「で、何か言いたいこととかあるか?魔族。」
「言いたいことしかないわ!!いきなり戦いになって燃やされては縛り付けられて……!!」
「じゃあお前何で俺らを付けてたんだ?」
「王の勅命で冒険者の監視だ。」
こいつの王って魔王のことだよな。
ゴリゴリやばいやつじゃないか。これにはもちろんマリーも黙っていない。
「殺す。生かしておけない。今後の危険分子を潰すための監視。魔王を倒す上で今後害になるなら処理すべき。」
マリーの言ってることは至って現実的で合理的。特に転生者なんて不安分子が冒険者になったら、俺が魔王だったら放っておけない。この魔族はここで殺しておいた方が後々得だろう。申し訳ないが死んでもらうしかない。
何も抵抗できない状態。半泣きになってしまっている。こんな姿を見てしまうと良心がどうしても傷む。しかしこんな状況でそんなことを口に出せるはずがなかった。
「ねぇ、この子助けてあげてもいいんじゃないの?」
気づいたら口が動いてしまっていた。そんな顔をしているミザリー。マリーの声が一段低くなる。
「どういうこと?何かそう思う理由でもありました?」
鋭い眼光。ミザリーこの後言い出すことで、この空気が更に険悪になるのがとてつもなく恐ろしい。
「あの……この人、絶対悪い人じゃないって私の勘が言ってるの!」




