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【死ぬほど頑張る】を極めてしまった 〜社畜は異世界でやり直す〜  作者: 汚醜
第二章 盗賊

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第17話 大凶

そろ、そろと、本に向かって歩く。不思議な魅力だ。あの神とやらと似た雰囲気を感じる。神聖な雰囲気だが、触れれば一発アウトの呪いともとれる何か。ダメだ、吸い込まれていく。


「おい、何……か?おい!!」


 ぴと、指先を触れる。脳の中で1つの波紋が揺らいだ。水面に雫が1つ落ちるように。

 一瞬隣にあの神が見えた。幻覚だろうか。一瞬で消え去った。


「大丈夫か!?何があった!!」


 無理矢理正面を向かされ肩を激しく揺すられる。


「いや……3つ目が……。」

「3つ目?なんで……。」


 マティアスは明らかに動揺している。珍しい。周りを見ると、マリーは目を丸くして軽く飛び跳ねている。

 ソウは呆気に取られているような、怒っているような、悲しんでいるような、なんとも言えない表情だ。


「私も長らくこの仕事をしているがこんなことは初めてだ。とりあえずおめでとう……かな?」

「凄い……!!3つも恩寵があるなんて……この世界でも異例中の異例。聞いたことない。」


 興奮して顔面を思い切り近づけてくるマリー。相変わらず握力はありえないくらい強い。

 肩が歪んでいるのはまだ視界がおかしいからだろうか。


「チッ……!!」


 そんな様子を見ていたソウが突然協会の外へと走り出した。いつもならマリーは『なんだアイツ』とか言いそうだが、今は無表情だ。


「イツキ。分かる限りのことを説明してもらおうか。」


 マティアスが深刻そうな声色に変わる。

 と言っても俺には何も分からない。そういえばさっき、恩寵は世界ごとに1つと言っていた。俺がもう1つ別の世界へ行ったことがあるということだろうか。

 異世界……きっと現代日本ではありえないようなことの数々。そんなことが起きる世界なんて……。

 いや、1つだけあった。雲のような床。やけに大きい太陽、すり抜けるコーヒー、いきなり無くなる床。


「神と会ったところ……。あそこも1つの世界で、あそこの分の恩寵も俺に宿ったのか?」

「ほう?神と会う。教会の人間としてとても気になりますが……。」


 神父が眉を上げる。

 マティアスは硬直して3分程動かなかったが、吹っ切れた様子で言った。


「ま、神様がなんだかは知らないけど、恩寵は多い方がいいことに変わりは無い。深く考えなくてもいいだろう。」


 やはりマティアスはマティアスだった。


 その後協会で、瓦割り、相撲などをやらされた。何故こんなことをしているのかというと、恩寵の内容は分からないらしく、突発的に理解するものらしい。ちなみに全て神父の圧倒的勝利。

 

 外も暗くなり、俺は宿屋に戻った。


「恩寵の特定に6年かかった奴もいるとか……本当に大丈夫なのか?なんだかマティアスもふざけているような。」

 

恩寵の儀式は、この世界での成人、つまり15歳になると行う許可が出るらしい。あまりに問題児だと拒否される場合もあるそうだ。

 夜だがあの転生した日よりも明るい。雲はひとつもなく星が全て見える。向かいの酒場からは絶えずに笑いが聞こえてきた。


「寝るか。」


 つい星が綺麗で眺めていたら、かなり時間が立っていたようで眠気が凄い。ふと道の先へ目線をやると、向こう側から歩いてくる人の中に、1人見覚えのある騎士が俺と同じ宿屋に入ろうとしているのが見えた。


「ソウ!何やってたんだ?いきなりどっか行って。」


 ソウは明らかにこちらに気づいていたが、俺を無視して宿屋に入っていった。呆気にとられたが、気がついて追いかける。


「居ない……。」


 いつから俺のことが嫌いになったのだろうか。肩を落として部屋に戻ろうとすると、前の受付の少女が話しかけてきた。今回は何故かメイド服だが。


「ソウさんと秘密の修行ですか!?確か王様に盗賊団討伐を依頼されたとか……凄いです!!」

「いや〜それほ……。」

「例え全身が矢に貫かれようと前進を止めず、サキュパスの誘惑にも負けない、死んでもアンデッドとなって敵を討つ……と!!」

「うん言ってないね。」


 えー!!と大袈裟に驚いたかと思うと肩を落とした。悲しみの感情は怒りへと変わり、突如後ろを向く。


「もー!!おじいちゃんの嘘つき!!」


 奥からファッファッと笑いが聞こえてくる。『ゆうべはおたのしみでしたね』も、メイド服も全部この爺さんの仕業か。


「じ、じゃあ!秘密の特訓は!!」

「……してないね。」


 キラキラした目が曇った。まずい、申し訳なさすぎる。なんとか軌道修正しなくては。


「あー……ソウは修行だったのかな!?」

「うん。お城の訓練所で1人だけずっと……だから私も遅くまでお仕事がんばろう!って思って……。」

「本当に偉い!偉すぎる!!」


 ヨシヨシヨシヨシ。犬と同じ勢いで撫でてしまったため髪が滅茶苦茶になってしまった。しかしまあ、こんな笑顔がこの世にあったのか。永遠に守りたい。俺この宿屋の騎士になる。

 改めて部屋に戻ろうとしたとき、裏から出てきた爺さんに引き止められた。


「人間関係とは難しいものじゃ……ワシも親友だと断言できる男を失ってしまったことがある。相手を傷つけるときというのは、例え悪意がなかったとしても、偶然起きたことであっても、相手にとっては嫌なことは嫌なんじゃ。例え自分が知らなかったことだとしても、相手は知っている。それを心がけなさい。人との関係を続けるというのはそういう事じゃ。」


 誰だよお前。いや何様という方が近いのか。

 いきなり話しかけてきたかと思えば、まるで仏のような顔で、全く脈絡のない教訓を話してきた。

 困惑している俺の手を取って、手の中に何かを入れてきた。手の中を見ると異世界の文字が入った10円チョコのパッケージみたいなものを渡された。この世界にもお菓子はあるのか。包み紙を開けると。


「空じゃねぇか……!クソじじぃ!」


 翌日、俺はとうとう魔法の訓練を始めた。今日はソウも一緒である。マティアスが口を開いた。


「さて、今日で大体できることを終わらせるぞ。」

「今日?なんでそんなに急いでるんですか?」

「早けりゃ早いほどいいだろ。明日にはお前ら3人には盗賊団を倒しに行ってもらうからな。」

「あぁ!?明日ァ!?早すぎんだろ!!」


 当然の反応だ。今までの急展開から一切休まる雰囲気が無い。正直疲れる。

 そんな俺達を煽るようにマティアスは続けた。

 

「なんだ?ビビっちゃってんの?」

「ンなわけねぇだろ!!俺は今すぐ行ってもいいんだぜ。」

「もっと文句タラタラ言われるかと思ったが……チョロ。」


 簡単にソウが懐柔されてしまった。まともなのはお前しか居ないんだ。もっと粘ってくれ。そしてマリーこれを当然と思っているのか無反応だ。なんでマティアスとマリーが友達なのかよく分かった気がする。

 そしてマティアスの魔法講習が始まった。


「魔法の使い方だが……まあ基礎が出来れば冒険の途中でできるようになるだろ。強化魔法は使えるな?」

「もちろん。俺の1番得意な魔法です。」

「それしか使えないだろ。ま、使えるなら魔力の感覚は多少掴んでるはずだ。じゃあまずこの世界での魔法について軽い説明だけする。細かいルールは後々覚えてくれ。」

「はい!」


 最初に強化魔法を習った時を顧みると不安しかないが、マリーは魔法を使えず、ソウとはなんとなく気まずい感じなので、ここはマティアスに任せるのが一番だろう。

 

「よし、じゃあまず属性からだ。人によって使える魔法の属性が違う。基本的なのは火、水、土。この属性で全人類の75パーセントくらいだな。次に闇、光。これらが10パーセントづつくらいだ。あと5パーセントちょっと変な人達がいる。多分イツキはあの時燃えてたから火だな。稀に属性を複数持ってるやつがいるが……まあほとんどない。あとは属性がない魔法なんてものもある。強化魔法とか治癒魔法とかだな。これは誰でも習得可能だ。とりあえずイツキは火が出せるようになることを目指そう。」

「うっす。お願いします。」

「チッ……呼び出されたかと思ったら魔法の訓練かよ。くだらねぇ……。」

「仲間なら常に一緒で当然でしょ?あ、でも私はアンタを仲間だとは思ってないから。」

「俺も思ってねぇよ!」


 よくよく考えたらこれは俺の為だけの訓練のはず。マリーとソウまで居る必要はないのだ。魔獣に襲われた時、マティアスが魔法学校初等科だか言っていた。おそらく俺は今から小学校で習うようなことをやるのだろう。そもそも魔法が使えないマリー、既に戦う能力が身についているはずである騎士のソウ。マリーがソウを好んで呼び出すとは思えない。


「マティアスはなぜ他の2人をわざわざ呼び出したんです?」

「ま、イツキの訓練も兼ねて全員の実力を測っておきたかったんだよ。」

「あ?あんたそんな格好でマトモに戦えんのか?」


 ソウはマティアスを芸人だとでも思っていたのだろうか。まぁ無理もない。俺も戦う様子を見ていなかったらそう思ってた。

 

「え……君この町に住んでてマティアス知らないの?こんな変な格好してるのに気づかないわけ?」

「私だけじゃなくてマリーも十分変だからね?まあいい、言葉より行動の方が分かりやすいだろう。お前らをボコボコにするから頑張って足掻いて。」

「えぇ……。」


 こうして地獄の講習が始まった。

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