第15話 サブミッション
数百メートル引きずっていると、豆粒のように小さかった城が、視界に収まりきらない程に大きくなっていた。ネズミのマスコットがいるテーマパークにこんな建物があったなぁ。
といってもあれよりデカいし、しっかり建築に合理性がある。
マティアスとマリーも見えた。表情までくっきりだ。マリーは俺の隣を見た途端、レモンを舐めた後のような顔に変わった。この青騎士の方は梅干しだろうか。
「なんで居るんだよ……。」
「俺も呆れたわ。視界に入んじゃねぇよ!!」
「よし分かった。視界に入んなければいいんだね?私は優しいからその目を潰してあげる。」
忘れてた。もともとマリー達と待ち合わせをしていたのだった。
面倒臭いことになってしまった。あーあ、俺知らね。と傍観しているつもりだったが、ヒートアップしていくばかりだったので流石に止めた。
「久しぶりに来たな、王城。かなり面倒臭い。」
「私は来たことないな。まあ貴族王族なんて腐ってるだろうし来たくもなかったかな。」
「キッ……またあのろくでなしに合わねぇといけないのかよ。」
「ギャー!!帰りたくありません!!」
俺以外が毒づいているなか、やや引きつった笑いの門番に通され城の中に入った。
すると、何ともエレガンスを感じさせる空間に出迎えられたではないか。
正直予想以上だ。前々からヨーロッパへ旅行に行ってみたくて、観光地の写真などを漁ったことがあるが、そんなのとは迫力が違う。
マティアスの慣れた様子とは対比的に、マリーは目をキラキラさせて周囲を見回している。そんなマリーを見つめていると、彼女がこちらに気づいて顔を赤くした。
奥へ進むと、一際大きな扉と直面する。
「どうぞ、お入り下さい。」
扉が開いた。お上品な赤いカーペットが奥まで伸びていて、奥の階段を3段登った先には玉座が据えられている。もちろんそこに座っているのは王様だろう。元社畜の俺から言わせてもらおう。多分この王様は俺と同類だ、積み重ねてきた苦労が違う。そんな負のオーラが周りに漂っている。
「我が娘よ……どこを歩いていた。外は危険と言ったであろう。いつもいつも抜け出しおって。」
「そんなことありません。一人で何とかできます!!私は強いですから……。」
頬を膨らませながら王女が反抗する。いやいや説得力ないよ。さっき盗賊に酷い目に合わされたばかりじゃないか。
「はぁ……まあよい。それよりもよくミザリーを連れ戻してくれた。騎士ソウ。そしてよく来た。我が国の英雄達よ。」
すごい緊張感だ。まるで社長室。
なんでもないはずの言葉に重みが宿る。そのせいか猫背気味だったマリーの背筋が完全に伸びて俺の身長を超えてしまった。
悔しい。
「なんでも命がけで臣民達を救ってくれたと。なんとも讃嘆の限りだ。この国の王として最大限の感謝の意を述べたい。本当にありがとう。」
今物凄く気分が上がっている。人に感謝されるとこんなに嬉しいのか。今までこんな気持ちにはなったことがなかった。
俺の武勇伝の1つにしよう。マリーも自慢げだ。
一番の功労者のマティアスが口を開いた。
「ええ、それはいいですよ王様。でも本当に言いたいことはそれじゃないでしょう?」
不思議な人だ。全く嬉しくなさそうである。照れ隠しだろうか。
いや、そんな気持ち悪いことをする人柄でもないだろう。何より、この一言で王様の雰囲気を変えてしまった。
「うむ、では単刀直入に言う。魔王を倒しに行ってくれ。」
王様は仏頂面を崩さない。
正直、今の自分のままだと絶対に無理だ。周りの反応が気になり、マリーの方を見た。
笑っている。この状況にワクワクでもしているのだろうか。隣のマティアスも顔は見えないが楽しそうに見える。
ソウからはツッコミが入った。
「こいつらが……!?正気で言ってんのかよ!!」
王様がソウを睨みつけると、ソウは目を背けて喋らなくなった。
「転生者なら可能性は低くない。倒せば賞賛の嵐、伝説になるだろう。そこまでの冒険も無茶をしなければそう難くない。」
王様はこういうが、周りの奴らはこの難しさをよく分かっているようだ。周りの兵士達の頭がやや下を向いた気がする。ミザリーも表情が微妙だ。
俺も自分の可能性を決めつけないようにしようとは思うが、正直厳しいと思う。簡単なら他の転生者が既に倒しているはずだし、魔王軍という言葉を聞いただけで、あのサイコ騎士の顔がフラッシュバックしてくるのだ。
他の転生者はこんな経験はしていないのだろうから、冒険に出てしまった数も少なくないはずだ。
だが、俺は元の世界に帰らなければならない。こんなところでは立ち止まっていられないのだ。
「勿論我々が魔王討伐に向けて最大限のサポートをすることを約束しよう。もし魔王を討伐したあかつきには、君を元の世界に戻してやろう。他のものにも多くの褒美を取らせる。」
この王が元の世界に戻す力を持っているのか。マティアスは不可能だと言っていたが。チラッとマティアスの方を見ると、首を小さく横に振った。
なるほど、この王様は嘘をついているわけだ。恩寵が多い転生者を魔王退治に向かわせるために。数打ちゃ当たるの考えで強い転生者が来るのを待っているのだろう。
「どうだ?引き受けてくれるか?」
魔王を倒す。自分で言ったことだ。元の世界に帰らなくては。
でも俺は弱かった、自然とマリーの方を見てしまった。自分の中では既に決定していたはずの魔王退治、最後の決断は彼女に任せてしまいたいと思ってしまったのだ。
マリーも俺の目を見た。私の選択についてこれるのか、最後の確認だ。そう伝わってくる。
――宝石を見紛う程に綺麗な桜色の目。自然と勇気が湧き上がってくる。
なので、目一杯の笑顔で俺は応えることにした。マリーもニヤリと口角を上げる。
「勿論引き受けますよ。最初から何ら変わっていません。魔王は私が倒しますから。」
マリーが拳を前に掲げると、王様は静かな笑顔を見せた。
「いいねぇ……そうだ。魔王討伐する片手間に盗賊団壊滅もやろう。」
……マティアス?何を言ってるんだ?
「本当か!?」
王様が玉座から大きく体を伸ばして見つめてくる。マティアスは淡々と話し続ける。
「そんなでかい目標掲げるんだ。こんくらい楽勝のはず。」
「いやいやいや、アンタどうせ手伝わないくせに何言ってんの!?」
場の空気が一気に乱れた。兵士達もざわつき始める。ミザリーは何も反応できていない。すかさずツッコミを入れる。しかしそれを止めるようにマリーが俺の肩を叩いた。
振り向くと、目をギラギラさせた狂戦士が立っていた。
「いいじゃん……魔王をぶっ倒す片手間で国が手を焼いた盗賊団を一瞬で蹂躙してしまった冒険者達……。かっこよすぎる。」
言いたいとこを言い切ると、意見を求めるようにキリッとこちらに向き直る。
段々マリーという人物像がわかってきただけに、これからのことを考えると溜め息が出た。
それはもちろんマリーにも見えていたようで、不満げな顔をしている。即座に笑顔で取り繕う。
「まあ、いいか。どうせ因縁もあるんだし。」
あるはずのないキーホルダーを求めて、ポケットの中を手が右往左往した。
こいつ肝心なとこで人任せなんだよな。




