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【死ぬほど頑張る】を極めてしまった 〜社畜は異世界でやり直す〜  作者: 汚醜
魔女の追憶

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第12話 マリーの誕生2

「召喚魔法か。」


 手を置くことで、自然とこの詠唱を思い出すことができた。地面に魔法陣が形成される。

 そこから物凄い濃度の魔力が吹き出てきた。しかしヘドロを思わせるような腐った魔力で、不快感で脳が溶けそうになる。

 ゆっくりとソレは湧き出てくる。地獄の沼底からはい出てきたのは錆びた鎧を纏った剣士。禍々しい、まるで呪いのようだ。

 実際地獄から呼び寄せたのかもしれない。中にいる人物はまるで目に生気を感じない。


「原初の勇者か!?魔法だろうと死者が蘇ること絶対にない……。マリー、それがお前の恩寵なら世界をひっくり返すぞ!!」


 この不気味さは相手にもヒシヒシと伝わっていたようで、半ば狂乱しながら剣士に攻撃を加える。

 鎧の隙間から何度かナイフが肉体に到達した筈だが、うめき声をあげることも無ければ、出血もない。

 全く怯むことなく、ゆっくりとナイフ男の髪を掴み、持ち上げる。そのまま剣を鞘から取り出す。鎧より一層黒く、錆びついていた。血を浴びた後も手入れを怠ったのだろう。

 そのまま力任せに一閃。切れ味が鈍いため、とてつもない衝撃とは裏腹に剣は進まない。もう一閃、もう一閃。

 男の呻き声が徐々に枯れていく。最後の声は弱々しいモルモットのようだった。


「殺す必要があったのか?」

「止めようとはしたんだがねぇ。それにしても……フフ、中々興味深い。」


 呪いの勇者は、仕事を終えたのを理解して沼に戻って行った。

 人がより集まれば面倒だ。手早く後を去ろうとする。


「っ!?」


 暑い。いや、体が異常なまでに熱い。首が痛む。咄嗟に手で覆うと、血管が浮き出ているのを感じた。またあの時と同じ感覚だ。腕から湯気まで上がってきた。その場で膝をつく。


「マリー……?おい、マリー!!」


 この体の状態からして、頚椎の機能が失われているのか。魔素を魔力に変換できないまま消費したのか。魔力にしては消費量が大きいと思ったワケだ。魔素は人間の体に対して抵抗が大きすぎる。

 また意識がシャットアウトする。



 ……………………。

 


 知らない天井……ではない。バーバラの診療所だ。


「よお、調子はどうだ?」


 マティアスがベッドの側に座っている。


「凄く悪いよ。これはステーキ食べないと治らないかも……。」

「元気にしか見えないな。」


 勢いをつけてベッドから跳ね起きる。体は問題なさそうだ。


「マット。」

「誰がマットだ。」

「バーバラがそう言ってた。」

「……お前そんな性格だったか?」


 マットの甲冑の中にあるはずの目を見る。


「私が最初にここへ来た時、言ったこと覚えてる?」

「よく覚えてないな。」

「私も。」

「また記憶を無くしたか?バーバラも治療に手を焼いていたしね。」


 ただ、1つだけ。単純かつ、大きなパワーを持った言葉があった。

 聞くだけで心臓が震えるような、胃が噎せ返るような、心が冷え込むような、恐ろしさを感じた。

 だがそこに私の答えがある。私の魂がそう言っている。

 

「私、魔王倒しに行くよ。」

「……はぁ?」


 マットの腑抜けた声が響く。

 自分にとっても突拍子のない発言だった。しかし、妙にその決断に自信がある。自分は必ずそうすべきであったと。

 その日はバーバラの診療所で寝た。


 次の日、マットが大きな風呂敷を持ってきた。

 体積に見合った重さではない。重すぎるという意味でだ。一体何が入っているのだろうか。


「マリー。お前が魔王を倒すのは多分無理だ。」


 マットがベッドの傍に荷物を置きながら言った。

 私はただ無言でそれを見つめた。

 否定はしない。その恐ろしさはマットの声色で理解出来たからだ。

 マットも此方を見つめると、ため息を出した。


「はあ、その目だよ。トラウマになりそうだからやめてくれ。」

「なにそれ。」

「昨日、マリーと一緒にこの世界へ来た“何か”の調査をした。生物として成り立っていないデタラメな構造だったが、それは生きていた。死なない内に冷凍したけどね。」

「……!」

「マリーはそれ以上に謎だよ。だからこそ外れ値になってくれるかもしれない。魔王を倒すっていうなら稀代の大魔道士なんかよりも余程可能性を感じる。」

「えへへ。」

「別に褒めた訳じゃないんだけどな。実際どうやって戦うつもりだ?」


 考えていなかった。魔法を使うことすら出来ないのにどうするつもりだったのだ。

 頭を抱えている私の様子を見て、マットが豪快に笑った。


「どうせそんなことだろうと思って持ってきたんだ、私が考えつく中で1番良い策を。」


 マットが風呂敷の結び目を解く。

 中にある物は何かわからなかった。勿論目に見えるモノだ。しかし珍しい形の木の枝を秘密兵器と紹介されても困惑するのみである。

 分かることを挙げるならば、布の塊と小物、大きな箱がある。それだけ。


「まるで異世界の物質……。」

「勘が良いな。これは全部魔道具だ。全部で19種類。」


 手に取ってしっかり確かめると、確かに服の役割を果たす物、刃物、小型望遠鏡、全て意味のあるものらしい。


「面白いだろ。下着もあるぞ。」

「態々見せないで欲しいんだけど。」

「ここにあるのは全部俺が加工した魔道具だ。人間が持つ恩寵に負けない程強い力を持つ。その分反動はドギツイけどね。」


 とりあえず服だけ着替えさせてもらった。よく見ると所々ほつれがあったり、靴は先の方が少し削れている。


「えーこれ古着?」

「……。」

「ごめん。」

 

 文明がこの世界より進んでいるのか、着心地は抜群だった。何より面白いのが、着ただけで体が軽くなった感覚だ。体から少しずつ漏れ出る魔素を使って強化魔法のような役割を果たしているらしい。

 ポーチの中にも小物が入っている。興味深いのは底が無いことと、欲しいものが直ぐに見つかることだ。

 そして、大きな箱の中身を確認することにした。持てば分かる。風呂敷の重さはこれが入っていた為だ。

 中に入っていたのは、砂の色や黒い色をした鉄の塊。精密な造形に感嘆の声が漏れる。


「凄い……こんな細工どうやって。」

「異世界の弓、『銃』だ。火薬を使って矢を飛ばす。特殊な矢が使われてるみたいだけど、既に複製は完了している。」


 その中でも一際気になった物を抱えてみる。他のに比べて数倍大きい。レンズが付いていて遠くまで見渡せそうだが、ぼやけていて使うことができない。

 読み方は分からないが、『CheyTac』と刻まれている。


「そいつは失敗作なんだ。」

「え?」


 マットがもう1つの銃を取り出して動作を確かめる様に動かす。

 私も真似をしてみようと横のレバーを引っ張ってみる。

 しかし余りにも硬く、ピクリとすらしない。地面に置き、足で踏んづけてみるも意味はなかった。


「魔道具としては余りにも強い威力なもんで、魔法で丸ごと強度を上げてみたら常人には扱えなくなった。しかも操作と同時に膨大な魔素の吸収が始まるから、強化魔法を併用して動かすのも難しい。」

「使えないなら意味無いじゃん……。」


 そのときだった。

 地面を揺らす大きな衝撃、そして轟音。

 異常な魔素の流れ。大きな何かが近づいている。

 マットは素早く魔道具をポーチに仕舞うと、私の右手にそれを預けた。


「良い機会だ。見守っていてあげるから存分に試すといい。」

「……何を、というか何が起きてるの!?」

「魔王軍襲来だよ。」

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