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VRMMOの世界で魔王が降臨したお話。  作者: あらまき


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 VRの中なのに酔うというのは、随分と不思議な感覚である。

 現実味はあるのだが、同時に少し浮足立つような、そんな感覚。

 例えるならば、異世界に居る感覚だろうか。


 自分はそのままだけど世界全部が違っているような、そんな違和感が酔いに混ざる。


 ただ、VRだからこそ一つ、良いことがある。

 それは二日酔いにならないこと。

 正しく言えば、この世界は二日酔いの予防も治療も出来る。


 バッドステータスの中でも軽度のものとされるため、簡単なポーション一つでポン。

 だから二日酔いに怯えることはなく、俺は心地よさのみの中で眠りに付いていた。


 早く帰りたいという気持ちもあるし、若者を早く元の世界に戻したいとも思う。

 だけど、この瞬間だけは現実よりこちらを選びたくなる。

 いくらでも酒が飲めて、二日酔いに怯えず、しかも人間ドックの数値に怯える必要もない。


 全くもって中年には、理想的な空間だった。


 そういう想いながら微睡んでいる時――。


「きゃあああああああああああああぁ!」

 絹を裂くような、悲鳴が響いた。


 俺は勢いよく身体を起こし、部屋を出て走った。

 途中、廊下で時計に目を向ける。

 針は『5』を示している。

 早朝五時。

 思ったよりも眠りは深かったらしく、もうほとんど朝となっていた。


 このVRは現実に限りなく近い。

 睡眠や食事は必要で、怪我や疲労で体調も悪化する。

 存在しないのはトイレくらいなものだ。


 だが、それは決して良いことばかりではない。

 現実に等しいということはつまり、現実に起きうる犯罪もこの世界では起こせるということを意味している。


 甲高い女性の悲鳴。

 これは久しぶりに聞いたものだが、VR当初期にはそれなりに耳にした。

 治安が安定するまでは、本当に酷いものであったからだ。


 正直、思い出したくもない。

 どれだけの被害者を見てきて、そしてどれだけの加害者を殺すこととなったか――。

 だから、俺は焦っていた。


 今このパーティーにそんな馬鹿をする奴はいない……はず。

 だが、隔離空間での精神変化というものは馬鹿に出来ず、自暴自棄になった可能性も否定できない。


 女性も心配だが、男の方も出来たら最悪まで行かずにいて欲しい。

 まだ、引き返せるところで居て欲しい。


 そう願いながら悲鳴が聞こえた部屋に向かう俺が見たのは――。


「き、きやぁあああああ! きゃあああああああ! きゃーきゃー!」

 悲鳴は悲鳴でも黄色い悲鳴。

 当然、女性は襲われた痕跡もなく傷一つない健康体だ。


 そんな女性が見ているのは、リーダーの『フリー』と副リーダーの『クレイ』。

 ただ、どうも二人の様子はおかしかった。


「困ります……。リーダー。人が、見てます……」

 無駄に頬を朱に染め逃げようとするクレイ。

 そんなクレイを壁に押し付け、その股に自分の足を入れ、動けなく拘束し、顎を優しく撫でるフリー。

「何が困るのかな? 可愛い眼鏡ちゃん」

 そのままフリーの手は鼻筋を撫で、おでこに触り、服のボタンに手をかける。

 クレイは抵抗しようとする。

 まあ、どう見ても本気の抵抗ではなくアクセント程度の抵抗だが。

 ボタンが一つ外れ、「んあっ」と喘ぎ声のような悲鳴を上げるクレイ。

 ちょっとぶん殴りたくなってくる。


「だっだめですっ。そんな……こんな場所じゃあ……」

「場所なんて関係ないだろ。クレイ。どこだって、俺達二人がいれば、そこがスペースウルフなんだからさ」

「で、でも……」

「始めようぜ。俺達の、青春の旅立ちを――」

「こんなの……拒否、出来ません」

「ああ、それで良い。二人で行こうじゃないか。だれも知らない、道を……。さあ、飲み込んで。俺のウルフロケットを……」

「は、はいっ……。優しく……いえ、激しく……」


 いちゃいちゃというより、ねちねち。

 見ているだけで吐き気がしてくる。


 一つだけ、わかっていることがあった。

 それはこの場に居る誰もが、正気ではないということだ。

 絡み合う二人は当然、それをさも当然のように見つめる女も。

 明らかに、何等かの精神汚染を受けている。


「お、落ち着けリーダー! いか同性愛を否定するつもりはないが、お前好きなタイプとかいただろ! クレイもだ! 許嫁がいるとか言ってなかったか!?」

 俺は慌てて二人の間に入ろうとするが……思ったより、力が強い。

 とはいえ若者な上に攻略チーム筆頭。当然と言えば当然か。

「俺達の愛の邪魔しないで下さい! 俺達はしじまの中に旅立つんです!」

「わけわからねぇよ……」

 無理やり引きはがしたいところだが、サポーターの俺が本気を出したところで攻略班二人に勝てるわけがない。

 ついでに言えば何故か見ているだけの彼女も攻略班だ。

 いやだったら手伝ってくれと言いたいが、真っ赤な顔のまま二人をガン見している。


 記憶が確かなら、フリーに片思いしていたような気がするんだが……。


「ちっ! まあ良い! 急がないと」

 俺は救援を呼ぶため、その場を後にする。

 急がないと……貞操? が……いやそういう問題なのかもわからないが。

 何かもう何を心配したら良いかわからないが、とりかえず俺は急いだ。


 確実に俺も混乱しているなこれは……。




 思い当たるのは、うち以外の攻略チームの妨害。

 だけど、この可能性は正直あまり考えたくない。

 他のチームとの連携も上手くいっているし、足を引っ張り合うようなことをする仲でもない。

 何せ黒幕から何の説明もないのだ。

 先に攻略したからと自分達だけ出られるとか願いが叶うとかもない。


 言ったらアレだが、攻略しても何のメリットもないのが現状だ。

 だから俺達第一攻略チームを嫌う人たちは少ないし、邪魔をするだけ損でしかないことも皆わかっているはず。


 それでも、リーダーと副リーダーが同時におかしくなったのなら、それしか考えられなかった。


 こういう時、頼れるのは誰か。

 それを考えるより先に、俺の足は動いていた。


 同期で、そして信用出来る二人。

 あの二人、酒善とライスパワーなら……。


 そう思い、俺は昨日訪れたのと同じ部屋を開く――。


「はっけよい! はっけよい! はっけよおおおおおい!」

 何か、女が鼻血を拭きだしながら叫んでいる。

 その前で、二人の男が半裸まわし姿にて取っ組み合っていた。


 俺の脳内は、認識するまで時間がかかった。

 というか、こんなもん認識したくなかった。


 相撲を取っている二人が、俺の友である酒善とライスパワーなんて……。

 昨日まで、一緒に馬鹿騒ぎした二人なんて……。


「はっけよい! はっけよいよ! ほらもっと残って! もっと複雑に、押し付けて! もっと絡み合ってえええええええええええ!」

 盛り上がっている女性を見たら、何故か涙が出て来た。


 昨日までの彼女は、お淑やかで、新婚だから早く帰りたいなんて、そんなことを言っていた。

「あいつ……結婚してから、同人とかには触れないって、言ってたのに……」

 だが、今の彼女は修羅と化している。


 くま系男子ガチゲイ漫画勢であった、若かりし頃のように……。


「もっと愛し合って。おっさん同士の愛こそが最も純粋で美しい愛なのよ!」

 汗だくでぶつかりあう太った中年二人。

 びたーんびたーんと叩き合い、ぜい肉が震え汗がまき散らされる。

 世にも悍ましき光景なのに、女性はこれでもかと興奮している。


 愛だなんだと言っているが、そんなものこの場には微塵も存在しない。

 おっさんのラブというより、《おっさんずデブ》だ。


「……行こう。ここはもう既に、腐海に沈んでいる」

 俺はあっさりと、仲間二人を見捨てる。

 自分が中年だからだろうか。


 二人が相撲を取り合う姿は、下手なホラーよりも悍ましく、気持ち悪いものだった。

 学生の頃見た、人と蠅が融合する映画の方がまだマシだったと思えるくらいに――。




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