水曜日の12時
パパラッチと俳優がただ待ち合わせをする話です。
「――これから友達になろう。水曜の12時にここで待ち合わせ!」
なんて言われたから、俺は律儀にここへ来てしまった。
指定された時間の15分前。
べつに楽しみで来たわけじゃない。ただ、待ち合わせにはいつも早めに着く癖があるだけだ。
それに、仮にも俺はしがないカメラマンであり、相手は今流行りの俳優だ。
待つことがあっても、待たせたとなればファンにチクられて嫌がらせをされるかもしれないし、本人からどんな嫌味が飛んでくるかも分からない。
でも、「良いご身分ですね」と言われるのを承知で待たせて、
その瞬間を撮って使えば、熱愛ゴシップとしてでっち上げられるだろうか。
「………」
人通りがそれなりにある街の端で、静かに待つ。
仕事でネタになる芸能人を出待ちするのは苦ではないが、今この瞬間は正直肩身が狭い。
んぐっ……ギュゴゴゴゴゴ
「………」
…通り過ぎるじいさんの視線が痛い。
なんだよ、腹の虫がほんの少し鳴いただけだろう。それに仕方ないじゃないか。
時刻は昼。美味しそうな匂いが俺の胃袋を刺激するのだ。
でもまぁ、収入が低迷しているということもあり朝飯を抜いてきたのは浅はかだったと認めよう。
周囲にはサラリーマンやOLが吸い込まれていく飲食店が並んでいる。
昔ながらの喫茶店のドアが開くたびにコーヒーとバターの香りが漏れ、
パン屋の前には焼きたてのクロワッサンに釣られた小さな行列ができている。
道路を挟んだ向かいのファストフード店では、昔の上司に似た風貌の女性がハンバーガーを頬張っていた。
この近くは意外とオフィスが多い。
だから昼時は一気に人通りが増えて、会社員が空いている店に駆け込む様子がちらほら見受けられる。
そんなどこか忙しない空間でじっと道の傍らに立ち尽くしている俺が気まずくなるのも頷けるだろう。
行き交う人々を観察しながらうだうだと時間を潰し、退屈に耐えながら腕時計を頻繁に確認する。
ちなみにここに着いてから、分針はまだ4回しか震えていない。
「というか、本当に来るのかね…」
今さら、あんな突拍子もない約束を真に受けた自分のピュアさを疑い、
ハンバーガーを頬張り続ける女性を何の気なしに見ていた。
――待ち合わせの時刻まであともう少し。
自分で早めに来ておいてなんだが、ほんの少しだけ、いや、
かなり、とても、すごく、なまら帰りたくなっている。
この数分間も色々考えていたが、会って楽しめる想像が俺には全くできなかった。
それどころか、あまりの属性の違いに自らうちひしがれた。
悔しさやら悲しさが渦まく感情に、たまらず両手で顔を覆う。
「そもそも金銭感覚違うじゃん。それに俺金ねぇし。いや~~帰る?ばっくれる?まだ間に合……」
「わないかもねえ?」
…
…?
……え、いた?いつから?怖、恐、こわ……
「いや、えぇっと、お疲れさまです?」
どうにかこうにか声を捻り出し、取り繕えるはずもないまま聞き覚えのある声のほうへ振り向いた。
うわ、先週とはまた違ったヘアスタイル。
服装以外何も変わっていない俺との共通点などやはり見つけられない。
「うん、お疲れさま。待たせちゃってごめんね?コーヒー買ってきたけど飲む?」
「あ、はい」
俺は差し出されたアイスコーヒーを受け取り、ぎこちなく笑った。
それから彼は俺の腕を軽く引くようにして、「じゃあ、あっちに座ろう」と言い、飲食店が並ぶ通りを歩き出した。




