第5話:余命3ヶ月だそうです
“セイラ、あなたは愛する人とではなく、あなたを愛してくれる人と幸せになりなさい。いいわね、分かったわね…”
お母様の最期の言葉が、脳裏に浮かんだ。そうか、お母様は私が自分と同じ運命をたどる事を避けるために、ああ言ったのね。愛する人から振り向いてもらえない悲しさや寂しさを、お母様は誰よりも知っていたから。
お母様は、どんな気持ちであの言葉を私に言ったのかしら。考えただけで、胸が張り裂けそうになる。
結局私は、お母様と同じ運命をたどる事になるのね…
「それで私は、あとどれくらい生きられるの?」
「吐血されたという事は、知らず知らずのうちに病気が進行していたと思われます。奥様の容態から考えますと、あと3ヶ月くらいしか…」
余命3ヶ月か…
「はっきりと教えてくれてありがとう。余命3ヶ月という事ね。こうやってはっきり言ってもらえてよかったわ。これで私も、思い通りに動くことが出来るもの」
私はもう、3ヶ月後に命を落とす。私がこの世から消え去れば、ロイド様とミーア様は結ばれる。私も、別の人を愛しているロイド様の傍にいる辛さを、味合わなくてもいい。
好きな人が別の女性を思い続ける姿を、ずっと見るのはさすがに辛すぎるものね。
これでやっと、ロイド様を解放してあげられる。
ロイド様…
初めてロイド様に会った時、緊張する私に
“初めまして、君がセイラ嬢だね。セイラ嬢の銀色の髪、とても綺麗だね。まるで女神様の様だ”
少し恥ずかしそうに呟いたロイド様。その後2人で中庭を見て回ったりした。私の手を引き、色々と案内してくれるロイド様に、私はすっかり心を奪われてしまったのだ。
ロイド様に少しでも近づきたくて、苦手な勉強やマナーを頑張った。ただ、ロイド様はミーア様と仲が良く、私にはあまり話しかけてくれない事が不安だった。
それでもロイド様と言葉を交わすたびに、胸が弾んだ。
そんな中、ロイド様と婚約を結べることになったのだ。お父様からその話を聞いた時、嬉しくて興奮してその日、よく眠れなかった。これでやっと私だけを見てくれる、ミーア様に不安を抱く事もなくなる。
これからはロイド様の隣に並んでも恥ずかしくない様に、もっともっと頑張ろう、そう誓った。
でも現実はそううまく行かなかった。
ロイド様は婚約してからも、相変わらず私にそっけなく、ミーア様とは楽しそうに話していた。王妃教育はうまく行かず、周りからも私では役不足と言われた。
それでもロイド様の為にもっと頑張ろうと思っていたけれど、ミーア様とロイド様の仲睦まじい姿を見るたびに、心臓がえぐられる様な苦しみに襲われた。
いっその事、ロイド様と婚約を解消出来たら…そう思った事もあった。でも、そんな事は決して許されない。私は所詮政治の道具でしかないのだから…
これからずっと、孤独の中生きていかなければいけない、愛する人の傍にいるのに、決して愛される事のない世界。考えただけで、辛くて悲しかった。
でも、そんな未来を迎える事はもうない。そう思うと、なぜか気持ちが軽くなった。あと3ヶ月しか生きられないのに、不思議だ。命を落とすことが、ちっとも怖くない。むしろ…
「お父様が帰ってきたら、呼んでちょうだい。お父様に、この事を話さないといけないから」
お父様はきっと、私が死のうが生きようがどうでもいいだろう…いいや、私は大事な政治道具。もしかしたら、役立たずと罵られるかもしれない。
でも、それならそれで構わない。元々お父様から愛されていない事など、痛いほどわかっていたから。
「承知いたしました。それでは旦那様がお帰りになられたら、すぐにお嬢様をおよびいたします」
その時だった。
「お嬢様、旦那様がお帰りになられました」
「お父様が?こんなに早く帰ってくるだなんて、一体どうしたのかしら?」
ベッドから起き上がろうとしたのだが、まだめまいがしてうまく起き上がれない。
「お嬢様、無理は良くありません、旦那様にお部屋まで来ていただきましょう」
どうやらお父様が、私の部屋に来る様だ。お父様と顔を合わせるのは、いつぶりかしら?何だか緊張してきた。