第41話:ラファエル様の決断
声の方を振り向くと、そこには穏やかな表情をしたラファエル様の姿が。
「ラファエル様、お久しぶりですわ。ラファエル様もお元気そうでよかったです。私、ずっとラファエル様にお会いしたいと思っていたのです」
王宮でずっと独りぼっちだった私、そんな私を唯一気にかけてくれたのが、ラファエル様だった。だからずっと、お礼が言いたかったのだ。
「私もセイラ嬢にお会いしたいと思っておりました。セイラ嬢から余命3ヶ月と聞いてから、何度も公爵家に足を運んだのですが、あなたに会う事は叶いませんでしたので、今日お会いできて私も嬉しいです」
「ラファエル様が、何度も我が家に尋ねて来てくださったのですか?申し訳ございません。私の耳には、その様な情報は届いておらず」
「殿下が私と君を会わせない様にしていたからですよ。本当に嫉妬深い男は嫌ですね。散々セイラ嬢の事を避けていたくせに、余命宣告を受けた途端ベッタリだなんて。調子のよい方だ…」
ラファエル様の言う事もごもっともだ。でも…
「確かにロイド様は、ずっと私を避けておりましたが、それには理由があった様で…それに今は、私の事をとても大切にして下さっておりますし」
「ええ、知っていますよ。あなたの病気についても聞きました。殿下のせいで発病した病気だったのですよね。そして殿下があなたの病気を治したとも」
なぜか切なそうに笑ったラファエル様。一体どうされたのかしら?
「私はずっと、セイラ嬢の事が好きでした。あなたが王宮で、辛そうにしている姿を見るのが辛くてたまりませんでした。私がセイラ嬢の気持ちを少しでも明るく出来たら。ずっとそう思っていたのです。あわよくば、私に好意を抱いてくれたら嬉しい、そんな下心であなたに近づいたのです。
ですがあなたは、ずっと殿下を思い続けていた。そんな中、セイラ嬢が不治の病を患い、余命3ヶ月とうかがったのです。正直ショックでした。セイラ嬢が命を落とすだなんて、信じられませんでした。
せめて残りの3ヶ月は、穏やかに暮らして欲しい。その手助けが出来たら、そんな思いであなたのお屋敷にむかったのです。
ですが、あなたの傍には、なぜか殿下がいた。今までセイラ嬢に見向きもしなかった殿下が。今更セイラ嬢に近づくだなんてと、殿下への怒りを覚えたものです。ですが、セイラ嬢と殿下の気持ちが通じ合った今、もう私の入る隙はありません。
だから私は…」
「私は隣国、シルバー王国に留学しようと思っているのです。でもその前に、どうしてもセイラ嬢と話がしたかったのです」
「隣国に留学ですか?そんな急に…あの、私…」
なんて答えればいいのだろう。まさかラファエル様が、私をそんな風に思っていて下さっていただなんて…
「私はセイラ嬢と殿下が幸せに暮らす姿を傍で見られるほど、強い男ではありません。ですが私は、セイラ嬢には幸せになって欲しいと思っております。セイラ嬢、どうかこれからは、笑顔で過ごしてください。私はあなたの幸せを、遠くで願っております」
ラファエル様が、悲しそうに微笑んだのだ。その瞬間、なんだか胸が締め付けられた。
「ラファエル様、私の事をそんな風に思って下さり、ありがとうございます。ラファエル様が傍にいて下さったから、王宮での日々も耐えられたのです。あなた様がいつも私を気遣って下さったこと、私は決して忘れません。
図々しいかもしれませんが、ラファエル様は、大切な友人だと私は思っております。ラファエル様、今まで支えて下さりありがとうございました。シルバー王国でのご活躍を祈っておりますわ」
ラファエル様が私に好意を抱いてくれていただなんて、全く知らなかった。せっかくラファエル様が気持ちを伝えてくれたのに、それに応えられないのは辛い。
それでも私にとって、ラファエル様は大切な人だ。その事だけは、伝えたかった。
「ありがとう、セイラ嬢。もし殿下が嫌になったら、いつでもシルバー王国に来てください。私がセイラ嬢をかくまってあげますから」
「まあ、それは頼もしいですわ。ですが私は、病気になるほどロイド様を愛しております。ですから、嫌になる事はないかと思いますわ」
「そうですね…殿下ももう、あなたを手放すことはないだろうし…それじゃあ、私はそろそろ行きます。セイラ嬢、どうかお幸せに」
「ラファエル様も!さようなら、今まで本当にありがとうございました」
笑顔で手を振ってくれるラファエル様。
私もラファエル様の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けたのだった。
次回最終話です。
よろしくお願いします。




