第37話:治療法が見つかりました
「公爵、気持ちは分かりますが、今日はそれくらいにしたらどうですか?セイラは一命は取り留めましたが、まだ症状が改善した訳ではありません。ある意味、予断を許さない状況なのですから」
「そうだね、セイラは完治した訳ではないのだから、あまり無理をさせてはいけないね。セイラ、こうやって君と話せる日がくるだなんて。これからはセイラの幸せを、傍で見守らせてほしい」
お父様が優しい眼差しで私を見つめている。まだお父様のこの様な表情を見るのが、不思議でたまらない。それでも、嬉しいのは確かだ。
「はい、もちろんですわ。きっと天国のお母様も、今頃喜んで…ゴホゴホゴホ…」
「セイラ!大丈夫かい?」
「セイラ、しっかりしてくれ。セイラが吐血した。すぐに医者を呼んでくれ」
少し前から、胸が苦しいと思っていたが、まだ完全に治った訳ではないようだ。なんだか体中が痛い。
「とにかく横になりなさい。可哀そうに、血を吐いて。殿下、あなた様の力でセイラは回復したのではなかったのですか?」
「ですから、予断を許さない状況だと、今説明したばかりでしょう。セイラ、大丈夫かい?苦しいね。可哀そうに」
ギュッと私を抱きしめてくれるロイド様。それでも苦しさは治まる事はない。次第に息遣いも荒くなってきた。
「お嬢様、どうされましたか?これは大変です。症状がまた悪化している様です。やはりあの病を改善させるのは難しいのかもしれません」
「それはどういうことだ。それではセイラは、命を落とすというのかい?そんな…」
フラフラと倒れ込むお父様。私の事は心配しないで、そう伝えたいが、異常なまでに胸が苦しくて言葉が出ない。命を落とす瞬間ですら、こんなに苦しくはなかったのに。
「セイラ、なんて事だ。一体どうすればいいんだ?」
「殿下、セイラ様が命を落とした時と、同じ行動をすればよいのではないでしょうか?」
「そうだね、やってみよう。セイラ、こっちを向いて。僕はセイラを誰よりも愛しているよ。だからどうか、僕を残して逝かないでほしい。ずっと一緒僕の傍にいて欲しい」
ロイド様、私もあなた様の傍にいたいです。そう言いかけた時だった。唇に温かくて柔らかい感触が。その瞬間、一気に息苦しさが和らいでいく。
もっとロイド様の温もりを感じたい。そんな思いで、ロイド様の首に手を回し、自ら求めた。どんどん体が楽になり、呼吸もしやすくなった。
「セイラ、大丈夫かい?どうだい、体の調子は」
「はい、その…ロイド様が口づけをしてくれた瞬間、体中の痛みがスッと引いていきました」
皆が見ている前で口づけだなんて、恥ずかしい。でも、本当に楽になったのだ。
「確かにお嬢様の体調も明らかによくなっている様ですし、恋焦がれ病の証でもあるアザも、再び薄くなっております。という事は、殿下からの口づけが治療法と言う事なのでしょう」
「口づけが治療法か…父親としては娘が男性と口づけをする姿なんて見たくないが…治療なら致し方ないな…」
お父様が肩を落としている。こんなお父様、初めて見た。今日のお父様の姿には、まだ慣れない。
「公爵、まずはセイラの治療に専念しましょう。この短期間でセイラの症状は一気に悪化するという事は、またいつセイラの症状が悪化し、命を落とす危険性を伴うか分かりません。今から僕は、セイラと一緒に生活します。客間なんかで寝ていたら、セイラの異変にも気が付けません。セイラの治療のためにも、今日からセイラの部屋で寝泊まりいたします。よろしいですね」
「…承知いたしました。とはいえ、節度は保って下さい」
「分かっていますよ、公爵。それじゃあ、早速部屋を整えてくれ。それから、セイラに何か食べさせたい。果物とか食べやすいものを準備してくれ。公爵、後は僕がセイラを見ますから、どうかお仕事をこなしてください」
「…殿下、あなたって人は…セイラ、また明日来るから、今日はゆっくり休みなさい。殿下に何か嫌な事をされたら、すぐに報告するのだよ。それじゃあ、お休み」
「おやすみなさい、お父様」
こんな風にお父様に、お休みが言える日が来るだなんて、やっぱり不思議だ。
「公爵め、散々セイラを避けていたくせに。こんな事なら、そっとしておけばよかったな」
「ロイド様?何かおっしゃいましたか?」
「いや、何でもないよ。さあ、夕食にしよう。果物なら食べられるよね。僕が食べさせてあげるよ」
そう言って私の口に、苺を入れてくれたロイド様。甘酸っぱくて美味しい。
その後ロイド様と一緒に、楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。




