第29話:奇跡~ロイド視点~
「セイラ、僕は本当にどうしようもない男だ。僕はミーア嬢の言葉を鵜呑みにし、君とラファエルの仲を疑い、君との関係を避けていた。自分が傷つくのが嫌で、セイラに関わらない様にしていた。君が王宮で辛い思いをしていたのに、僕は何もしなかった。病気になった時もそうだ。君が婚約解消を望んだのに、僕は自分の気持ちを優先し、君の望みを聞き入れなかった。
君の最期の瞬間ですら、僕は傍にいる事が出来なかった。本当にどうしようもない男だよ。
それでも僕は、誰よりもセイラを愛している。僕は君がいないと生きていけない程、君の事を強く思っている。だからどうか、1人で逝かないでくれ。僕を置いて逝かないでくれ。どうか僕も、連れて行ってくれ」
そっとセイラの唇に自分の唇を重ねた。暖かくて柔らかな感触が、唇から伝わる。セイラ、愛しているよ。僕も後で君の元に向かうから、だからどうか待っていてくれ。
心の中で何度も何度も呟いた。
その時だった。
かすかにセイラが動いた気がしたのだ。びっくりして唇を離すと、ゆっくりとセイラの瞼が上がり、真っ赤な瞳と目があった。
「ロイド様?」
「セイラ…本当にセイラなのかい?これは夢なのか?」
あり得ない、既に息を引き取ったセイラが、目を覚ますだなんて。こんな奇跡があるのか?いや、そんな奇跡がある訳がない。きっとこれは、幻だろう。僕はきっと、セイラの幻を見ているのだ。
でも、たとえ幻だったとしても、それでもいい。
「セイラ、僕は君を愛している。どうか僕を残して、1人で逝かないでくれ。僕も連れていってくれ。もう二度と、離れたくはない」
再びセイラを強く抱きしめた。
「今のお言葉は本当ですか?その…私の事を愛しているというのは…」
「本当だよ。セイラ、君は僕の事を好きではいないのかもしれない。でも僕は、君を誰よりも愛している。セイラは昔言っていたよね。自分を愛してくれる人と結婚したいと。僕は君の理想にぴったりだとは思わないかい?」
だからどうか、僕の傍にずっといて欲しい。たとえ君が僕を愛していなくても、僕は君だけを愛し続けるから…
「ロイド様は、ずっとミーア様の事がお好きなのではなかったのですか?」
ミーア嬢…あの女、セイラにあることない事吹き込んでいたのか?
「ミーア嬢は今、地下牢にいるよ。セイラとラファエルを陥れようとした罪でね。僕もあの女の嘘にすっかり騙されていたよ…セイラ、僕はずっと君が、ラファエルの事を好きだと思っていたのだよ。好きでもない僕と婚約させられたセイラが、少しでもラファエルといられる様にと、僕は君を避けていた。でも、それは間違いだったんだ!本当にすまなかった」
愚かな僕のせいで、セイラはきっと、辛い思いをたくさんして来ただろう。もう二度と、セイラに辛い思いをさせたくはない。
「ロイド様、私もあなた様を、愛していま…」
何かを言いかけたセイラが、そのままゆっくりと瞼を閉じてしまったのだ。
「セイラ、どうして瞼を閉じるのだい?嫌だ、逝かないでくれ。セイラ!!」
やはり今までの出来事は夢だったのか?嫌だ、せっかくセイラに自分の気持ちを伝えられたのに。
「殿下、失礼いたします」
公爵家専属の医師が飛んできて、セイラの様子を確認している。
「これは…奇跡です。まさかこの病気を克服なされるだなんて…いえ、まだ克服した訳ではないのかもしれませんが…それでも、一度止まった心臓が動き出すだなんて。ただ、あのアザは薄くはなっているけれど、まだ残っているし」
医者が何やらブツブツと話している。
「しっかりしてくれ。それで、セイラはどういう状況なのだい?」
「取り乱してしまい、申し訳ございません。結論から申し上げますと、セイラお嬢様は生き返った様です。あの時、間違いなく心臓は止まっておりましたが、今は心臓が動いておられます」
「それならどうしてまた、セイラは瞼を閉じたのだい?」
「それは私にもわかりかねます。ですが、どうやら眠っておられるだけかと…」
「眠っているだけだって?それじゃあセイラは、生きているのだね」
「はい、生きておられます。まさに愛の奇跡です。まさか恋焦がれ病を克服なされるだなんて」
ん?今なんて言った?




