第17話:思い出の森に向かいます
「セイラ、おはよう。どこかに出かける予定だったのかい?もしかして、ラファエルに会いに行こうとしていたのかい?」
たくさんの荷物を持っているロイド様が、馬車から降りてきたのだ。それにしても、凄い荷物だ。
「おはようございます、ロイド様。凄い荷物ですね。ラファエル様に会いにですか?私、ラファエル様には特に用事はございませんけれど…今日はお天気もいいし、体調も随分と良いので、森に行こうと思いまして」
ロイド様との思い出の森に。
「そうだったのだね。すまない、ラファエルの事は忘れてくれ。それじゃあ、僕も一緒に行くよ」
ロイド様が、私に付き合って下さるだなんて。やはり余命あとわずかな私の為に、私と行動を共にして下さるつもりなのね。こういうお優しいところが、私は大好きなのだ。たとえ愛されていなくても、今だけは私の事を考えてくれていたら嬉しい。
「それでは参りましょう」
2人で馬車に乗り込んだ。こんな風に2人でどこかに行くだなんて、何年ぶりだろう。なんだかワクワクしてきた。
「セイラ、今日は少し顔色がよさそうだね」
「はい、今日は少し体調がよくて。どうしても森に行きたかったのです。ロイド様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、まだ婚約を結ぶ前に、1度だけ森に2人でピクニックに行ったことがあったでしょう?あの時の湖とお花畑がとても綺麗でしたので。もう一度行きたいと思いまして」
「あそこの森にかい?あそこは馬車で3時間もかかるのだよ。さすがに体への負担が大きいのではないのかい?」
「確かに時間はかかりますが、それでもどうしてもあの場所に行きたいのです。ごめんなさい、ロイド様はお忙しいのに、往復6時間もかかる場所になんて、急に出かけられませんよね。すぐに公爵家に戻って」
私ったら、つい調子に乗ってしまったわ。
「僕の事は気にしなくてもいいよ。公務はあらかじめ終わらせてきたし。僕もあの森に行きたいし。一緒に行こう」
「ですが…」
本当にいいのかしら?正直申し訳ないが、まあいいか。
こうやって2人で馬車に乗っていると、なんだか不思議な気持ちになる。まだ純粋にロイド様を好きだったあの頃、本当に幸せだった。
月に1回しか王宮に向かう許可が出なくて、その1ヶ月が待ち遠しかったな。
あの頃に戻れたら…なんて、たとえ戻ったとしても、また辛い日々を送るだけか…
ふとロイド様が大量に持っていた袋に目が留まる。
「ロイド様、その大きな袋たちは、一体何ですか?」
「これはセイラにと思って…」
ロイド様からのプレゼントですって。
まさかまた辛い物や苦いものだったりして…それとも、爬虫類の何かとか?一気に顔が強張る。
「セイラは昨日、甘いものが好きだと言っていたからその…王都中の人気のお菓子を集めて来たのだよ。あまり沢山は食べられないと言っていたから、食べたいものを選んで食べて欲しくて」
なんと、ここにあるものは全てお菓子ですって。
1つ1つ中身を見せてくれるロイド様。どれも可愛くて美味しそうなお菓子ばかり。
あら、これは?
「なんて可愛らしいお菓子なのかしら?これは最近王都で売り出されていると噂のお菓子ですね。フワフワな触感がたまらなく美味しいと聞いたことがありますわ」
令嬢たちが騒いでいたのを、聞いたことがある。ずっと興味があったのだが、体調が悪くて、それどころではなかったのだった。
まさかロイド様が、買ってきてくださるだなんて。
「セイラはこのお菓子が気に入った様だね。すぐに準備をしてくれ」
「承知いたしました」
隣に座っていたメイドが、準備してくれた。
早速小さく切り、口に運ぶ。
「なんて美味しいお菓子なのでしょう。口に入れた瞬間、口が解けてしまいましたわ。こんな美味しいお菓子、初めて食べました。本当に美味しい事」
口に入れた瞬間とろけ、甘みとうまみが口いっぱいに広がる。こんなに美味しいお菓子がこの世に存在しているだなんて。
「セイラが喜んでくれてよかった。君のその顔、もっと早く見たかったな…」
「ロイド様?」
今何かおっしゃったような気が…
「いいや、何でもないよ。このお菓子が気に入ったのだね。まだあるから、沢山食べて」
「ありがとうございます」
沢山食べたいのはやまやまだが、これ以上は食べられない。それでもロイド様の気持ちが嬉しくて、少しずつ口に運んだ。
まさかロイド様が、お菓子を買ってきてくれるだなんて、びっくりだわ。




