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お年玉をもらいに

作者: あずき

クリスマスの次に思いついたのがお年玉で、書いてみました。


クリスマスがおわり、1月になったころー。

赤い三角屋根の家にすんでいる三兄弟は、来たるべき日に胸をおどらせていた。


「もうすぐだね」

三男のベンディがつぶやいた。

「もうすぐだな」

次男のウィルヘルムが同じようにかえした。

「もうすぐ、ロビンおじさんがお年玉をくれる!」

長男のアーサーが高らかにいった。


ロビンおじさんは三兄弟の父親の兄ーつまり、三兄弟のおじにあたる人物だ。

ロビンおじさんはここから遠くはなれた田舎にすんでいるが、正月になると、毎年三兄弟にお年玉をあげにやってくるのだ。

もちろん、今年も来るはずだ。

まだはたらくことができないねんれいな三兄弟にとって、おじさんからのお年玉はかなり大きい収入になるのだ。

だからこそ今年のお年玉を楽しみにしていたのだがー。


その夜、三兄弟のもとにふくろうがやってきた。

伝達屋の鳥だ。くちばしに手紙をはさんでいる。

「なに?手紙?」

アーサーが手紙をうけとると、ふくろうは羽根をひろげ、とびさっていった。

手紙をひろげ、よみあげる。


「わが愛しきおいっこたちへ

たしかきみたちはもう十才をこえているはずた。

アーサーが十二才、ウィルヘルムが十一才、ベンディが十才だったかな。もうおおきくなった。

だから、きみたちに試練を与える。

地図をいっしょに送っておいたから、わたしの家まできなさい。

ぶじにたどりつけたのなら、お年玉をあげよう。

    きみたちの大好きなおじさんより」


「…たった今、ちょっときらいになったけどね」

ウィルヘルムがしぶい顔をしていった。

「ええ〜!めんどくさいよ〜」

「なんで?楽しそうじゃん!行こうよ!」

めんどくさがりなアーサーと好奇心のつよいベンディでは、反応が対照的だ。

「そりゃぁ、いくけども…」



「こんなに遠いなんて、聞いてないよ〜!」

アーサーが大声でなげいた。

しかし大声をだしても、「うるさいよ!」とさらに大声で怒鳴る近所のアンおばさんはいない。

ここは人里はなれた山で、辺りには木々が鬱蒼と生い茂っている。

日差しがさえぎられていて、昼間なのに周囲はほの暗く不気味だ。

「なんか、おばけでもでそうだな…」

ウィルヘルムが小さくぷるりとふるえる。

次男は二人とくらべしっかり者だが、いちばん怖がりなのだ。

「この山のてっぺんにおじさんの家があるけど…あとどのくらいなんだろ…」

先はまだ見えない。少しばかり遠いようだ。

「しかたない、もっとのぼるしか…」

「あ、おにいちゃん!あっちになんかあるよ」

ベンディが「あっち」を指さした。少しすすんだところに、なにかがみえた。

「ほんとだ、なんだろう」

「それに、甘いにおいがする」

ベンディがくんくんとにおいをかぐ。ベンディは嗅覚がするどかった。

「よし、いってみようか」

アーサーを先頭に、三人は山を登っていった。先へすすむと、それの全貌が少しづつあらわになった。


「あれって…」

「まさか…」

三人は足をとめた。

そこには小屋ぐらいの大きさの、お菓子でできた、お菓子の家があった。

長方形のクッキーでかべがつくられ、屋根はチョコレートなどでコーティングされている。


「これ、お菓子の家だよね!?すっご〜い!ホントにあったんだ」

「おじさんのいってたとおりだな…」

三人はロビンおじさんからお菓子の家のお話を何回か聞いたことがある。


「…でも、だとしたらやばいんじゃ…」

お話のつづきを思いだしたウィルヘルムがつぶやくが、ベンディとアーサーはまったく聞いていない。

さっそくお菓子の家に近づき、ほんものかどうかたしかめている。


「ねぇおにいちゃん!これほんものっぽいよ」

「ぽいなー。でも、食べるのはやめとこうな。外にこんだけどーんと放置してたら、いたんでるだろ。くさってるかもしれないし」


「おい、二人とも…あんまりそれに近づかないほうがいい…」

「ねぇねぇ!入ってみようよ!」

ウィルヘルムの忠告を全く聞かず、ベンディがのほほんといった。

「だからやめろって!」

「うん。おれもウィルヘルムに賛成。そういうの不法侵入っていうんだぞ」

「いや兄貴、それもあるけどそうじゃなくてな…」


しかしベンディは好奇心をおさえられず、一人で入ってしまった。


「おい、ベンディ!」

「だいじょーぶだれもいないよ!それに、ここすっごく広い!」

「広い…?」

アーサーがいぶかしげにお菓子の家を見る。どう見ても、お菓子の家は一人入るのが限界とういほど小さな外見だった。


「おいベンディ、早くもどってこーい」

「……」

「ベンディ?」

返事がなくなった。二人は顔を見合わせ、嫌な予感を感じていた。



しばらく待ってみたが、ベンディはいっこうにもどってこない。

「おそいな、ベンディのやつ」

「なんかあったのかも。おれちょっと見てくるよ」

「兄貴、おれもいく」

アーサーはしんちょうにドアをあけ、ちらりと中をのぞきこんだ。


「うわっ!」

「どうしたんだ兄貴」

「これ見ろよ」


お菓子の家の中は、同じようにお菓子できた広い空間が広がっていた。しかし、明らかにあの小さな外見では収まりきらない広さだ。おまけに、向こうには階段が見える。まだ部屋があるらしい。


「なんだ?魔法でもかかってるのかな?」

「ああ。そうだろうな。ってことは、やっぱり魔女がいるんじゃ…」

「魔女?」

アーサーが首をかしげると、ウィルヘルムはやれやれといったばかりに肩をすかして説明した。


「兄貴は覚えてないのか?ロビンおじさんが言ってたじゃないか。自分の住んでる山には、お菓子の家を作って人をおびき寄せては、お菓子の家に入ってきた人間を食っちまうっていう、わるーい魔女がいるから、気をつけろって。ヘンゼルとグレーテルみたいだよな」


「そういえばそんなこといってたっけ…っておい!

その話の通りなら、おれたち食べられるじゃん!」

「そういう…ことになるな」

「おまえ、なんでベンディがここに入るのもっと強く止めなかったんだよ!」

「すまん。その話のことあんま信じてなくて」


「…ってか、ベンディ!あいつひょっとしてその魔女に捕らえられてるんじゃ…」

「その階段は地下に通じるようだし、その先にベンディがいるはずだ。」

「早く助けないと!」

こうして二人は階段を下っていった。

階段はポッキーで出来た螺旋階段だった。



一方、その頃ー


「ヒッヒッヒッヒッ」

地下には老婆のしゃがれた笑い声が不気味にひびいていた。白い髪はボサボサで、鼻は高くとがっている。顔つきもとても恐ろしい。

年寄りの魔女は大鍋をグツグツと煮ていた。しかし鍋の中は緑色の液体で満たされていて、悪臭もただよっている。


「久しぶりに人間がやって来たな…それにしても愚かな坊やだ。こんなところにノコノコとやって来るとは」

魔女はチラリとベンディを見た。ベンディは小さい檻に閉じこめられていた。

「それにしても、ぶくぶくと太ってまぁ…とても美味しそうだ」

「ぼ、ぼくはおいしくなんかないよ!」

「そんなわけあるかい!そんなに肥えて、肉づきが良さそうだ」

「おばさん、ぼくのこと食べちゃうの?」

恐る恐るといった様子でベンディが聞くと、魔女は恐ろしい顔をして答えた。

「ああ。お前を食べてやる!そのために、まずはあっつ〜いお鍋で茹でてやろう」

「そんなぁ…やけどしちゃうやよぉ…」



「やけどってレベルじゃないだろ…」

壁に隠れ、こっそり魔女の様子をうかがっていたウィルヘルムが小さく呟いた。

「言ってる場合か!早く助けないと…」

「でも、どうやって…」

「見てウィルヘルム。あそこにドラゴンがいる!」


アーサーの言う通り、ベンディの横に、さらに頑丈そうな檻に入れられた、青いドラゴンがいた。

子どもなのか。ドラゴンにしてはまだ小さく、ベンディとほぼ同じ大きさだった。元気がないのか、ぐったりしてしまっている。


「炎とか吹けばいいのに、なんで抵抗しないんだろう。飼われてるって訳でもないだろうに」

「あの魔女のことだ。あの檻にもなにか特殊な魔法をかけているんだろう」

「うーん…たすけられないかなぁ」

アーサーが言うと、ウィルヘルムがなにか閃いた。

「たすける…?そうだ、あのドラゴンを助けて、魔女をやつけてもらうんだ!」

「どうやってたすけるの?」

「ほら見ろ兄貴、あそこにカギがあるだろ?」

ウィルヘルムが、近くの本棚の上にある、金色に光るカギを指で示す。


「あれはたぶんドラゴンの方の檻のカギだ。あれで檻を開けて、解放したら良い」

「わかった!おれ、やってみるよ!」

アーサーが長男としてたちあがった。



一方、とらえられてションボリと落ちこんでいたベンディは、ふと、壁にかくれている兄たちに気がついた。

(おにいちゃんたち!たすけにきてくれたんだ!)


その時、二人もベンディの方を見ていたので、静かにするように動きで伝えると、ベンディはこくこくと大きく頷いた。

魔女は鍋をかきまぜるのに夢中で、まだアーサーたちに気づいていない。今の魔女からではカギは見えないはずだ。


アーサーは慎重にそうっと、棚の上のカギを取った。幸い魔女は気づいていないらしい。見守っていたウィルヘルムもこっそりガッツポーズをする。

そのままドラゴンの檻へ素早く行き、カギを開けようとする。

「今たすけるからな」 

小声でそう告げ、カギを差し込む。

しかし、解錠するときに、カチャカチャと金属音がしてしまった。


「ん?…コラ!そこのガキ!何をしとるんじゃ!」

「やべ!」

とうとうバレてしまった。魔女は素早くアーサーの肩をがしりとつかんだ。


「ヒッヒッヒッヒッ。そんなことしても無駄じゃよ!ワシの聴覚は一キロメートル離れた音だって聞き取れるし、視力は両方二.〇じゃ!」

「そんな!おれよりいいじゃないか!」

「ヒッヒッヒッヒッ。ところでお前はあの太った坊やの兄貴だろう?たしか、長男のアーサーだったかな?」

名前を呼ばれ、アーサーはギョッとした。


「な、なんでおれの名前を…」

「そりゃ知っとるよ。有名じゃからな」

「うーん、魔女に有名って言われても嬉しくない」

「だまらっしゃい!お前はあの忌々しいロビンのおいっ子だろう!」


「なんでおじさんのことまで知ってるの!?」

「知ってるもなにも!わしは今まであいつにさんざんひどい目に遭わされたんだ。あいつ魔女の家系だからか、変に強いし…」

魔女がブツブツと呟き出した。

ロビンおじさんはたしかに魔法が使えた。アーサーたちにもよく見せてくれていたのを、今さらのように思い出す。


「まぁいい…今までの仕返しに、お前らを人質にとってやる!」

「そこをなんとか…」

「するわけないだろ!図々しい子だね!」

アーサーの努力もむなしく、魔女によって、無理やり檻から引きはがされそうになった時―。


「兄貴をはなせ!」

ウィルヘルムが飛び出して、魔女に体当りした。

不意を突かれた魔女はそのまま床に倒れてしまった。


「今だ!」

アーサーはその隙に、カギを開けた。

ドラゴンは鳴き声をあげると檻を蹴って飛び出した。そのまま魔女の方を鋭く睨み、ジリジリと追い詰める。

「ちょ、ちょっとお待ち…!」

後ろへ退いていく魔女は後ろの鍋に気づかず、グツグツと煮えたぎった鍋の中にドボーン!と盛大に落っこちてしまった。


「やったぁ!よし、待ってろベンディ!今助けるからな!」

そう言ってアーサーはもう一つのカギで、ベンディを解放した。ベンディはがばっと、勢いよくアーサーに抱きついた。


「おにいちゃ〜ん!こわかったよぉ!」

「よ〜しよしよし。よくがんばったな」

頭をなでてあやしてやり、まだ倒れたままのウィルヘルムに手を差し出して起こす。


「ウィルヘルム、さっきはありがとな。おかげで助かったよ」

「気にすんなよ。兄貴たちがぶじでよかったぜ」


そうして安堵しているのもつかの間ー。

魔女が滅んでしまったせいか、お菓子の家がバラバラと崩れはじめた。

「うわぁ、ヤバいヤバい!」

「早く出よう!」

慌てていると、ドラゴンが3人の前にひざまづいた。




山のてっぺんー。

小さくたたずんでいる小屋の屋根にロビンおじさんは寝転がっていた。

「ふむ。やはり外の風はきもちがいいな」

のんびりとしているところに、ふと、空の上からこちらへ向かってくる影が見えた。

「ンンン?なんだあれは…」

目をこらすと、ドラゴンに乗ったアーサーたちが「おじさーん!」

と手を振っていた。そのまま、ロビンおじさんの隣へ着地する。


「おやおや、よくここまで来たね愛しきおいっ子たち。それにすてきなお友達もついてきて…」

「この子は魔女にとらわれてたんだ。おれたちがたすけたの!」

「魔女…ああ、アレね…けがはなかったかい?」

「けがはないけど文句ならあるぞ」

しかめっ面でウィルヘルムがすかさず言った。


「なんなんだあの魔女は!おじさんも知ってたのなら言ってくれよ!おかげでおれたち大変な目にあったんだからな!」

「それも含めて試練だよ。ウィルヘルム」

「やれやれ、いつも以上のものすごい大金をもらわないと、わりにあわないんだから」

にやりと、アーサーが笑った。


「ってわけで、ロビンおじさん!さっそくお年玉ちょーだい!」

「アーサー、おまえのその遠慮なさ、わたしは高く評価しているよ。ほら、受け取りなさい」

おじさんは懐からお年玉を三つ取り出し、三人にわたした。


「やった〜!おっとしだまー!」

アーサーがワクワクしながら封をあけ、掌で受け止めようとすると―ー


コロン


一枚の金貨が掌の上で転がった。


「………………五百円………?」


「実はわたしは先週退職してね。ほぼ金が無いんだ。そのお年玉はわたしのなけなしの金だ。大切に使うんだよ?」



「ドラゴン…はかいこうせん!」

アーサーが命令すると、ドラゴンがロビンおじさんに向かって炎を吹いた。




 


お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
最後まで読んで……。 3人、あれだけ頑張ったのに♪(v^_^)v
2025/02/03 17:38 退会済み
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