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安心感・後編

 エヴグラフに連れられた場所は、会場から少し離れた部屋。

 家具などが置かれていない、広い部屋である。

「ここはダンスやマナーなどのレッスン室だ。王太子である兄上や、他国に婿入りした二番目の兄上、同じく他国に嫁いだすぐ上の姉上、それから妹もここで教育係からレッスンを受けていた。俺達五人全員同時にレッスンを受ける時は、とても賑やかだった」

 エヴグラフは懐かしむようにフッと笑った。

「エヴグラフ・アレクセーヴィチ殿下達五人同時に……! 確かにそれは賑やかですわね」

 ルフィーナはふふっと楽しそうに微笑んだ。

「ルフィーナ嬢、護衛や侍女がいるとはいえ、今は休憩中だ。堅苦しい呼び方はやめてくれ」

 エヴグラフは軽くため息をつき、肩をすくめていた。

「グラーファ様」

 ふわりと穏やかに微笑むルフィーナ。

 エヴグラフを愛称で呼ぶことに、ルフィーナは慣れてきた。

 すると、エヴグラフは嬉しそうに微笑む。

「ルフィーナ嬢、この部屋のバルコニーからは、月がよく見える。今日は満月なんだ」

 エヴグラフはゆっくりとバルコニーに出る。

 ルフィーナも、エヴグラフに続いてバルコニーに出た。


 夜空には明るく大きな満月が浮かんでいた。

 柔らかな光が夜の闇を打ち消すようである。


「とても……綺麗ですわね」

 ルフィーナはおっとりと穏やかに表情を綻ばせた。

 ペリドットの目には、大きな満月を映している。満月の光に照らされて、ペリドットの目は輝きが増しているようだ。

「ああ、そうだな」

 エヴグラフも満月に目を向ける。

 ルフィーナと同じように、そのラピスラズリの目には大きな満月はが映る。ラピスラズリの目も、輝きが増していた。


 バルコニーで黙って満月を見上げる二人。

 穏やかな沈黙が流れていた。


 ルフィーナは不意にエヴグラフの横顔を見る。

 月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪は、満月の光により更に輝いている。

 ルフィーナは思わずエヴグラフに引き込まれるかのようだ。

 凛々しく、いつもより神々しい雰囲気のエヴグラフにドキリとする。

 しかし、同時に安心感に包まれていた。

「ルフィーナ嬢、どうした?」

 ルフィーナの視線に気付いたエヴグラフは、フッと優しく笑う。

「いえ……何でもありませんわ」

 ルフィーナはほんのりと頬を赤く染め、ゆっくりエヴグラフから満月に視線を移した。

「そうか……」

 エヴグラフも再び満月に目を向けた。


 耳をすませば、会場に流れる音楽が聞こえた。

 ちょうどダンスの曲が切り替わるタイミングである。

「ルフィーナ嬢、ここからでも音楽が聞こえる。せっかくだし、俺と一曲ダンスを願えるか?」

 エヴグラフのラピスラズリの目は、凛々しく真っ直ぐルフィーナに向けられている。

 優しく力強い表情だ。

 ルフィーナは柔らかく表情を綻ばせて頷く。

(わたくし)でよろしければ、喜んで」

 ルフィーナは差し出されたエヴグラフの手をそっと取った。


 ゆっくりとダンスを始める二人。

 エヴグラフのリードは上手く、ルフィーナは今までの中で一番穏やかに舞うことが出来た。

(ダンスはこんなに楽しいものだったのね。……リュダがサーシャと楽しそうにダンスをする理由が分かったわ)

 ルフィーナの表情は明るくなる。

「楽しそうだな、ルフィーナ嬢」

 エヴグラフは嬉しそうにラピスラズリの目を細める。

「ええ。……グラーファ様とのダンスが、今までのダンスの中で一番楽しいと感じましたわ」

 ルフィーナはペリドットの目を真っ直ぐエヴグラフに向けた。

 ペリドットとラピスラズリの視線が絡み合う。

「それは光栄だな」

 エヴグラフは破顔した。

 それはエヴグラフの心からの笑顔だった。

 ルフィーナはその表情を見て、意外そうにペリドットの目を丸くした。

「グラーファ様、そのような表情もなさるのですね。いつも凛々しい表情ですから、意外ですわ」

 ルフィーナはクスクスと笑う。

「そうか? まあ、この国を治めるロマノフ家に生まれたから、隙を見せるなとは言われていた。でも、ずっと隙を見せずに気を張っていたら疲れるだろう?」

 エヴグラフは悪戯っぽい表情だ。

「確かにそうですわね」

 ルフィーナはエヴグラフにリードされながら、肩の力を抜いて舞っていた。


 ダンスが終わると、二人は再び満月に目を向けた。

「ルフィーナ嬢、気晴らしにはなったか?」

「え……?」

 エヴグラフの言葉に、きょとんと首を傾げるルフィーナ。

「いや、勘違いなら悪いが、今日はルフィーナ嬢の顔色が悪く感じた。どこか無理をしているような、何かに怯えているような感じだった」

 ルフィーナを案ずるような表情のエヴグラフ。

「それは……」

 ルフィーナは先程まですっかり忘れていた、見られているようなねっとりとした視線のことを思い出した。

 ルフィーナの表情は少し暗くなる。

「ルフィーナ嬢、大丈夫か? ……何かあったのなら、俺に話してくれないか? 俺は君の力になりたい」


 ラピスラズリの目が、真っ直ぐルフィーナに向けられる。エヴグラフは真剣な表情だ。本気でルフィーナを心配してくれていることがひしひしと伝わる。

「グラーファ様……」

 ルフィーナはエヴグラフを見て、ホッとするような安心感に包まれた。


「実は……」

 ルフィーナはずっと見られているような気がすること、帝都の屋敷(タウンハウス)の自室から見える場所にずっと辻馬車が止まっていること、夜会の帰りなどに辻馬車に後をつけられているような気がすることなど、全てエヴグラフに話してみることにした。

読んでくださりありがとうございます!

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同じアシルス帝国が舞台の作品はこちら→ 『幸せを掴む勇気』
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