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気が合う二人

 その後、すぐに紅茶とジャムとお菓子が運ばれて来た。

「まあ、苺のカスタードパイですのね」

 ルフィーナは運ばれたお菓子を見て、上品に表情を綻ばせた。ペリドットの目はキラキラと輝いている。

「ああ。ルフィーナ嬢の好みに合えば嬉しいが」

 フッと表情を綻ばせるエヴグラフ。

「蜂蜜のケーキと同じで大好物ですの」

 おっとりとしているが、ルフィーナの声は弾んでいる。

「おお、偶然だな。何となく苺のカスタードパイが食べたい気分だったから、シェフに頼んで作らせた」

 エヴグラフは早速苺のカスタードパイを食べる。


 その所作は皇帝一族らしく洗練されており、優雅だった。

 サクサクとした咀嚼音が聞こえる。


(わたくし)も、いただきますわ」

 ルフィーナはフォークとナイフを丁寧に使い、苺のカスタードパイを一口サイズに切る。

 ルフィーナの所作も、エヴグラフに負けないくらい上品である。

 クラーキン公爵家の淑女教育の賜物だ。


 ルフィーナの口の中に、苺の甘酸っぱさとカスタードクリームのまろやかな甘味が広がる。そしてパイ生地のバターの香りがルフィーナの鼻奥を掠めた。

 ルフィーナはうっとりとした表情である。

「お気に召したようで光栄だ」

 エヴグラフは満足そうな表情だった。

「ええ。今まで食べた苺のカスタードパイの中で一番美味しいです。用意してくださりありがとうございます。宮殿のシェフは素晴らしい腕をお持ちですわね」

 ルフィーナは紅茶を一口飲む。

 口の中にふわりと薔薇の香りが広がった。

「この紅茶は……」

 ルフィーナは思わずペリドットの目を見開く。

「ローズティーだ。……もしかして、お気に召さなかったか?」

 やや不安そうなエヴグラフ。

 ルフィーナはゆっくりと首を横に振る。

「いえ。ローズティーも、紅茶の中、特にフレーバーティーの中では一番好きですわ。まさかローズティーが出されるとは思っておらず、驚いたのでございます」

 ルフィーナはふわりと上品に表情を綻ばせた。

「そうか。ルフィーナ嬢の好物を出すことが出来て良かった」

 エヴグラフは安心したようにフッと笑い、ジャムを舐めた。

「そのジャムは……もしかして、苺と薔薇のジャムでございますか?」

 ルフィーナはまじまじとジャムを見ていた。

「ああ。今日の俺の気分で出してもらった」

 エヴグラフは優雅な動作で紅茶を飲む。

「左様でございましたか。実は、このジャムも(わたくし)、大好物ですの」

 ルフィーナはゆっくりとジャムを一口舐めた後、紅茶を飲んだ。

 エヴグラフに負けず劣らず優雅な動作である。

「今日は偶然にもルフィーナ嬢の好物揃いだったか。ルフィーナ嬢に満足してもらえて俺も嬉しい」

 エヴグラフはラピスラズリの目を真っ直ぐルフィーナに向けていた。


 その後、ルフィーナとエヴグラフは紅茶やお菓子を楽しみながら、お互い読んだ本について語り合った。


「ルフィーナ嬢に教えてもらったこの本だが、表現方法が独特で面白いな。特にこの一節が」

 エヴグラフは本を開き、気に入っている部分を指で示す。

「ええ。(わたくし)もその表現は一番気に入っておりますの」

 ルフィーナは品良く楽しそうに笑っている。

「それから、今日宮殿の図書館で読んだこちらの本ですが、この部分の表現方法が詩的で感動いたしました」

 今度はルフィーナが本を開き、好きな部分を示していた。

「ああ、この部分か。俺も独特で引き込まれたよ」

 エヴグラフは深く頷いていた。


 ルフィーナとエヴグラフは感性が合うようで、話は弾んでいる。

 気付いたら日が傾き、空はもぎたてのオレンジを一気に絞ったように染まっていた。

「あら、もうこんな時間ですのね」

 ルフィーナは窓の外を見て驚いていた。

「そうだな。ルフィーナ嬢と読んだ本について語るのが楽しくて夢中になっていた」

 エヴグラフは満足そうな表情である。そして、改めてルフィーナに体を向けるエヴグラフ。

「ルフィーナ嬢、今日は楽しい時間を過ごせた。ありがとう」

 エヴグラフのラピスラズリの目は真っ直ぐルフィーナに向けられていた。

 ルフィーナはドキッとしつつも、安心感に包まれる。

(わたくし)の方こそ、宮殿の図書館への常時入館許可証の発行だけでなく、こうして読んだ本について語る時間まで設けていただけて、本当にありがとうございました。お陰で非常に充実した時間が過ごせましたわ」

 ルフィーナは肩の力を抜き、ふわりと微笑んだ。

 胸の高鳴りはあるが、エヴグラフと過ごす時間は不思議と心が安らぐルフィーナだった。

「今後もこうしてルフィーナ嬢と二人で読んだ本について感想を語り合いたいと思っている。また誘っても良いだろうか?」

 凛々しく端正な顔立ちのエヴグラフだが、その表情は穏やかで優しげだった。

「はい。(わたくし)でよろしければ、喜んで」

 ルフィーナは柔らかに品良く微笑み、頷くのであった。

読んでくださりありがとうございます!

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同じアシルス帝国が舞台の作品はこちら→ 『幸せを掴む勇気』
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