第8話 ルナ、異世界へ そして出撃
自己成長した姿を天国の兄に見せる――――前生でのやり残しをリトライさせて貰える。それに打ってつけの場を与えられる事になったルナ。
異世界の転生先では救世主を望んでの大召喚術が行われており、そこへ忽然と転移して現れたルナは、早速その世界で役立とうと住民の困りごとに耳を貸した。
だがそこでは難敵の魔物と対抗出来るだけの大魔法使い、或いは大超能力者の存在が望まれていた。
ところで―――と言ってシゲシゲと見つめてくる村長。
「ルナ様はこう言っては失礼ですが、とっても可愛らしい。なのに今回の神の子レベルの大召喚術で招かれたと言うことは、相当な魔法使いか超能力者サイキッカーですか?」
思わず不敵な笑みを溢して胸の前で拳を作るルナ。
「いや、ボクは武術の達人デスヨ! とにかく戦闘やって見ます?」
「へっ?! ご冗談を……こんな魔法使いでもない可憐な少女をイキナリ戦場にだなんて!」
そこへ突如バタンッ、と入口戸が開き、息せき切って報告する伝達係の姿が。
「大変だ! 監視班の報告で、秘密保護地区に人拐い武装集団20人が向かってるって! それも殺戮を楽しんで拐ってくあの最悪の集団『ディアボリ』だ、 あと5分もすればと!」
「えっ、それじゃ間に合わん、とにかく全員で加勢だ! すぐ馬車を廻せ!」
「ではともあれルナ様はこちらにお着替え下さい」
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駆けつける道中で受けた説明では、ここは五千人程の小規模村で、保護地区には護衛団が50人程度。村の将来を繋ぐ子供達の殆どがエリアの最奥で守られている。
「敵は異形や怪物、地底人など様々ですが、最近では魔に操られた人間も増えて。でも今回は単に欲に目が眩んだ連中。敵への人身売買目的の性根の腐った脱走兵等です」
到着と共にその惨状に目を覆う。『早く奥へ』と地に伏す負傷者が叫ぶ。
機関銃、ランチャー砲で護衛団は既に半壊し侵攻を許していた。ルナ達は地区の広場で対峙する。
それを見たルナはいつものように心中でボヤく。
ああ、この世も罪なき人が酷い目に。こんなの虐めより酷い。神は一体何がしたい?! ……
でもあの人は常に守ってくれた。そしてボクは救われ、憧れた。あの人の様に強い男の人に……
だから守られるだけの女の子じゃなく、あんな風に真に誰かを守れる人になるんだ!
「さあ、行くぞ異世界!! (なんでも、とてつもない力の割増があるとか……) 早速肩ならしだ!」
広場の木々やモニュメントなど障害物の陰に素早く飛び移り、一気に接近戦に持ち込む。その鍛え抜いた回し蹴りと正拳突きで声を上げさせる間も無く3人打ち倒す。
「ダメだね、ボクまだ『2倍』なのに。じゃ、貰った力、試そうか! 意志で力を何倍にもコントロール出来る、ってそう神官から教わった。まずは5倍から!」
等倍速でさえ余りに俊敏だったルナ。だがその『5倍速』でチョロチョロ動きまわってみる。狙撃を面白い様に翻弄。
では更にと『10倍速』を試す。速すぎて目も追いつかせない。
「おお~、これは相手がスローに見えるじゃん! ホラホラこっちこっち~!」
瞬く間に広場を一周。更に3人を手刃で倒す。威力も10倍。しかしそれでもまだ全然本気を出さないのには訳があった。
確かめる様に動きながら得心するルナ。そう、ルナが異世界で特段に得た能力、
それは剣術や魔法等よりも『パワーとスピード』だった。
ルナは戦いながら寸時、神官から能力を授かった時の事を思い返していた。
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「よく聞け、次の世界では誰も皆、超能力、魔法と言った通力、つまり超常的な力を有し、地位情報として表される。
更に徳の評価分で能力が何倍にもなる。しかもソナタは非常に多くの人を助けその気持ちを救った故、既に驚くなかれ最初から『最大百倍』 迄を選び与えられる」
「えっ、いい事した分だけ割り増しで?! いいね! そんな世界があったらって思ってた!」
不運の連続で歪んだ価値観に囚われたまま気付かず生きているのは良くある話しだ。
「しかも最大百倍までってどんだけ~ ?! ボク、いい事して来て報われたって事?」
「素直にそう受け止めても良いのじゃ。ただし倍率を高めて能力を上げる道を選ぶと、背負う宿命も大きくなる。楽に生きるなら多くを望まないことじゃ。どうするかの」
「最大で構わない。その力でまた更に人助け出来るなら能力は高いほどいい……」
救えぬものを目の当たりにする虚無と絶望――――つい兄との事故のフラッシュバックをしてしまう。これはもうどうしようもない深い心の傷。
「ウム。最大倍率『百倍』で付与しよう……もっとも転生先で鍛えたり更に徳を積んでステータスを上げる事も出来る。
さすれば今迄は馴染みの無かった超能力や魔法とかで攻撃やら防御も実用レベルで使えて便利じゃぞ。ま、皆この魔法に憧れるのじゃがな。前世で言うアニメとかいうヤツの影響やも知れぬの。
では初期ステータスの設定じゃ。
前世の才能等が引継がれる。ソナタは非常に運動能力が高かったようじゃな……強い精神力スピリッツもある。それは来世では『サイキック(サイ)』と言われ、精神力が生む霊的な力も含まれる。
して、引継がれる三大ステータスの基礎評価…… ウィザードリ(魔力)1、サイキック(超能力)5、フィジカル(物理)……なんと10かおぬし!……スゴいのう」
片肘を張って拳を握り、『フィジカルなら負けない!』 と鼻息を荒くする。
「次にソナタは自分の命を賭して三人も人命を救ったが故、『最大級の治癒魔法』と先程とは別の『報奨の倍率』も付与される。
これは救助した人数分、つまり3つの指定した能力に対して10倍に出来る。ソナタなら三大ステータスそれぞれを10倍すると良い」
「ん~でもボク超能力とか要らない。 だって魔法があるんでしょ! その分を物理に廻せない? サイの分もら物理に割り当てて、10×10で百倍に~、なんちゃって!」
「普通そこは魔法につぎ込みたがるのじゃが、本当にいいのか? 皆、憧れるのじゃぞ?」
「ボクは物理がいい」
「ではその報奨倍率を基礎に掛けて魔力10、超能力5、物理は千じゃ。
で、更にこれらが徳倍率で百倍となる故、総合ステータスは順に『千、五百、十万』じゃ。にしても物理に偏重し過ぎよの。まあそれも一興」
「だって悪者ブッ飛ばすにはそれが一番! ……でもそれってスゴいの?」
「まあな。ソナタの基礎力10の才能の物理を1万倍まで任意の倍率でコントロール出来ると言うこと。 速さも、そしてパワーも」
「それはスゴい!」
「じゃが所詮は能力値。持ち腐れも多い。結局活かせるかは心掛け次第なのじゃ」
「確かに武道でもパワーが有る人が必ずしも強いとは限らなかった。適切に活かす……か」
「そう言う事。では次の選択……」
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――― 回想から戻るルナ。
……うん、約束通りだ! パワー、スピードだけじゃなく体の耐性や速度感もちゃんとアップしてる!
だから10倍速からの急停止でも足が軋しまない、痛くない!
報奨と徳の倍率・百×百=物理力1万倍にした時、体がもたないんじゃ話しにならないからね……
徐々に感覚を掴んで行くルナ。
「それじゃ、そろそろギアを上げてくよっ!」
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