第39話 雷撃の女神 見参
戦いは嫌い、とのたまうノエル。とは言いながら大好きな遊びでのイタズラならその魔力をふんだんに発揮して、途轍もない強さを垣間見せる天才魔法使いエルフ幼女だった。
しかし本人にはその強さも、そして戦う自覚もなかった。
[取り返し隊]の評判は瞬く間に広がる。
3人は周辺数ケ国を股に掛け大活躍、今日も救済を終え食事処へ。最近は断っても謝礼を渡され貯まるばかり。食事もいい物に有り付けている。
「のえるは~、おこさまランチ~、にひひひひ」
『ハイハイ飽きないね~』
と苦笑いのルナとルカ。不器用に握ったフォークでプチトマトと戯れて奮闘。そんなノエルの姿を微笑ましく眺めるのが大好きな癒やしのひと時だ。
隣の席では町の人が何やら深刻そうに話している。
「おい、最近の不穏なウワサ、聞いたか? 地下世界のヤバイレベルのヤツの件……」
「ああ、オレも聞いた、北方のギガダンジョンの衛兵クラスの魔人がこの国にも入ったってな。戦士ギルドのトップランク登録者を何人も葬った程だそうだ。そんなの来たら……」
ルナ達もその話題にそれとなく耳をそばだてる。
「それを聞いて功績を挙げようと腕に覚えがあるパーティーやハグレオオカミたちも我こそとやって来てるらしい。その人たちが守ってくれるといいんだけど……」
「ルカ、なんかすごい事が起こりそう。ちょっとボクらも参加してみよっか」
「今はノエルがいるからあまり突っ込んで行くのはどうかな……私はある程度安全が分かる迄はとりあえずこの子を見守りながらサイで指示するよ」
食べ終えたノエルは『ニシッ』と笑んでポシェットに入り、ルカのコスチュームの胸の懐の中へ収まる。
とはいえ退屈なので幽体離脱魔法によりミニノエルスタイルでルカの肩にチョコンと載って外界を見ている。もちろん実体性は無く安全である。
そこへ慌ててやって来た男が店の入口戸を壊さんばかりに勢い良く開けて叫んだ。
「おいっ、街の中央広場が大変だ! 噂の魔人が暴れ始めたってよ!」
魔人はわざと市街を選んだのか犠牲者に気を取られる二十組程のパーティーたち。黒いローブにフードの魔人。死神の様に薄気味の悪い無機質さ。
巨大な鎌状の武器を操り音と風で翻弄、吹き飛ばされる戦士達。迎え撃つ戦士達の反撃の剣と魔威弾、加えて別組術師の火焔も踊るが、魔人はその烈風で弾き全くダメージを受ける様子も無く逆に大技を返す。
〈衝撃波! インパクト・インフェルノ!〉
ドゴオオオオオオオオオオンッ……
僅か一撃の咆哮で遥か吹き飛ばされる戦士たち。 その一振りだけで半数のパーティー-が壊滅、余波で石造りの街の家が十数軒以上の崩落。
その惨状に一瞬で凍る空気。
無音の戦慄で満ちる街。
―――市民の命が!……
ルナは百倍の猛スピードで次々と救助に回り出す。瓦礫の中の人も探し出して治癒を施そうと疾駆しテレパスを飛ばす。
《ルカ! まだ生きてる人、サイで急いで探して! みんな死んじゃう!》
《その赤い屋根の下に二人、後、隣の青いカべの家にも三人!》
「魔人め! ならこの破魔の剣を受けてみよ!」
パーティーの戦士が特攻、激突するけたたましい金属音と追って放たれる剣からの光弾。大鎌で軽く受け止めた魔人はその戦士を仲間達へと弾丸並の勢いで弾く。
即死級の激突で十人程血みどろとなる。顰めるルナは致命を案じ救助を優先。全員を超高速で物陰に移し治癒する。
逃げ出し始める者達、最後に二組ほど残ったパーティーも敗色濃厚にたじろいで、
「やべえ……誰かジャミング持ってないのか! 皆殺しになるぞ、もう逃げるしか……」
治癒を終えたルナ。ヌンチャクを静かな怒りと共に握りしめ、スックと立ち上がる。
〈インパクト・インフェ……〉
―――― ピキャッ!
バリバリバリバリゴロオロロロッロロロオオオオオオオンンン――…………!
そこへ文字通りの晴天の霹靂と空間が破れたかの様な轟音に唖然となるその場の全て。
その落雷により塵立つ煙幕の中から姿を現した大剣を担ぐ見目麗しい女。
まるでスター女優のようなハデな美貌、ややウェービーな長い髪と自信に満ち溢れた不敵な表情。
ズザッと雷魔剣エレクトラを地に刺し、堂々たる仁王立ち。
「……お、おい!……あれは雷撃女神、エマ様じゃねえか?!」
「はぐれオオカミ最強クラスと名高い転生者!……連邦政府認定の最強魔術戦士の四天星に匹敵するとまで言われてるあの!……」
「やった―――っ、これで助かるぞ――っ!」
「みんなぁ~、エマ様が来てくれたぞ――っ!!!」
『うおおぉぉ―――――――――――!』
「なになになに、このカッコ良いおね―様は! まさに女装男子風女子っぽいカンジ! そしてこの有り得ない美しさ! ボクの目指す可愛さの果てに行き着く最終形態だ~!
ホレタ~~~っ、応援しちゃお~っ!」
片手を口に、もう一方をブンブンと手を振ってルナが叫ぶ。
「おね―様ぁ~~~っ! ガンバって―――っ!」
「フフッ、今日はファンぽい子もいるし~、ちょっとパフォーマンスも兼ねて戦うかぁ。で、お前が衛兵魔人か。こんなんじゃ手応えなかったろ、アタシが相手してやるからせいぜい楽しんで行きな。
どれ、先ずはお前の速さ見てやるよ。かかってきな」
「余程世間知らずな女だ、誰を相手にしてるのか分かっているのか!」
「スマン、知らん」
――と無表情でにべもなく返す美女。
うぐっ…… と面食らってキレる魔人。
「クッ、この身の程知らずが! 誰が来ても同じ! 」
〈インパクト・インフェルノォ〉
ドゴオオオオオオオオオオオンッ……
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