最終章
いよいよ最終回となりました!最後は感動するお話です!
あれから何週間か過ぎてもコズモスの関係はほとんど変わらなかった。
相変わらずどこかへ出かける時はいつも三人だった。
ある日次のライブの打ち合わせに行った。次のライブ会場は海辺の広場らしく、コズモス史上最も規模が大きいものになる。今日は企画から演出までのスケジュールを話し合うらしい。
ライブの企画は実咲の古い友人の広田康介という人がいつも担当をしている。
俺たちは彼を‘‘こうさん‘‘と呼ぶ。
「皆さん、お待たせしてしまってすいません」
いつも会議は雑居ビルの三階にある事務所の一室で行う。
三人はソファーに腰を掛け、こうさんと向かい合う。
「実咲も、今日はありがとうございます」
こうさんは俺達には大抵カジュアルな話し方をするが、たまに敬語を挟む。
俺を含めコズモスは彼の演出を気に入っていた。
彼の演出を一言で表せば‘‘独特‘‘だった。
聴いた歌詞をどう可視化するかはその人の感性による。
「前ならえの社会」
と聴いて、それは前例主義な社会、いつでも常識や周りの行動に合わせる社会と多くの人が想像するが、それを歌に合わせ実際に目に写るものにするのは非常に難しい。
「演出の方は後程検討します。さて、次は全体的なライブの構想ですね、今回は十曲ですね。どれも素晴らしい曲だと思うよ」
今回ライブで歌う曲はどれも過去にシングルやアルバムで出した曲だった。
「うん、曲はこの順番で行きましょう。この‘‘なつぞらと奇跡‘‘が最後でいいですかね」
‘‘なつぞらの奇跡‘‘はドラムが強く出る非常に盛り上がる曲だ。
二人の男女がまるで駆け落ちのように鎖がついた社会から逃げるというストーリーの歌詞で、最後のクライマックスにふさわしい曲だとこうさんは言った。
「うん、いいと思う」
実咲はライブの企画書を机に置き、こうさんにそう言った。
優菜もそれに同意をし、今日のところは解散となった。
「今度のライブも面白くなりそうだね」
帰り道、俺と優菜の二人っきりになった。
「うん、悔いは残らないよ」
俺は思わず意味深なことを言ってしまった。最近もし今すぐにでも月に帰るとしたら・・・という想像をする癖がついてしまい、思わず口にしてしまったのだ。
「悔い・・・?どういうこと?まさか、どこか行っちゃうの?」
少し怖い顔で優菜を俺を問い詰めた。俺も口を滑らせたなと反省した。
「俺はこの三人でいたいと思ってるよ」
俺がそう言うと優菜は微笑んだ。
ある満月の夜、実咲に公園へ呼び出された。
公園のベンチに座り、二人で話したいことがあるらしい。
「どうしたの、?」
心当たりというか、いきなりすぎて困惑した声で言った。
あえて見当をつけるなら優菜のことかもしれない。
「今日は満月だけど体調は大丈夫なの?」
実咲は一度深い息を吐いてから言った。何か言いたいことを我慢しているようだった。
「この光を見ていると、この前言ったあの女性のことを思い出す」
「心がチクチクする」
俺はまだ月光が苦手だった。どうしてもクルルの事を思い出してしまう。
「そっか。それは月に行きたいってことなのか?」
こういう満月の辛い夜に実咲のキラキラした優しい目を見ていると本当に安心できた。
「うん、月の事が知りたい」
俺は自分の心に従って本当の事を話した。息を少し吸うと公園の木と実咲の香水の匂いがした。
「実は優菜と話し合ってね、月に行く列車のチケットを買ったんだ」
実咲がそう言い終わると、俺は何も言えなくなっていた。
月に行く列車のチケットは数百万円ほどし、主に役人しか利用できなかった。
そんな貴重なチケットを優菜と話し合って買ってくれた。
実咲の香水が鼻に入るのと同時に俺は実咲に泣き崩れてしまった。
あまりの勢いで実咲の真上ににある電灯は揺れ、光に集まったカナブンはビックリしたのか逃げてしまった。
「ありがとう、本当にありがとう」
実咲は小さく微笑んで、「いいんだよ」と優しく言った。気づいたら俺はまた狼になっていた。
出発日は8月23日ーライブの二日後だった。
その日はなかなか寝つけなかった。
あと20日後に月へ行ける。
それだけじゃなく、実咲と優菜への感謝と愛は膨れ上がり、寝るなんてことはできなかった。
こんな寝れない夜は嫌いじゃない。頭に過る色々な思いをただ、ただありのままに受け入れた。
次の日、三人はハイキングに出かけた。途中で寄った蕎麦屋で俺はほんの小さなお礼ということで生そばを二人に奢った。
「月で生まれたってことはさ、雅人は神様かなんかなの?」
実咲はそばをすすりながら、隣に座っている俺に訊いた。向かい側に座っている優菜も雅人を見て不思議そうな顔をした。
「うん、どうなのかな。月には悲しみも苦しみもない、さらに不老不死の世界だけど・・・‘‘死‘‘って呼ばれる生きることを大切にできる魔法がかけられている人間こそが神様なんじゃない?」
雅人は眉間にしわを寄せて言った。自分が仮に神様だとしても、地球で生きる人たちは‘‘神様‘‘以上に輝いているのだ。
ライブ当日、会場には多くの人が集まっていた。
「実咲、優菜、今日は最高の日にしようぜ」
楽屋で二人に意気込みを伝えた。
実咲と優菜は自信に溢れた目でうなずいた。
ステージのバックには海が広がっていた。
ライブの開園時刻は夜の七時だが、海はライトで照らされ、波の形がくっきりと見えた。
「皆さん!今夜はお集まりいただきありがとうございます」
実咲は開演の挨拶を始めた。
俺は・・・緊張というよりかは興奮していた。こんなに多くの客を一度に見るのは人生で初めてだからだ。
コズモスのファン層は若い女性が多いが、今回は家族連れも多く見られた。
最初の曲は恋に敗れた人への悲しみ溢れる曲だった。
自分でも演奏しながら感動してしまった。クララと俺のように。もう会えないかもしれないと思いつつ恋心を抱くのは本当に辛いことだ。
ただ巡り合えた奇跡を祝うことしかできない、そんな男の気持ちを歌った曲だった。
演奏が終わった後の拍手は未だかつてないほどに盛大だった。
この曲は実咲が作詞作曲したもので、後で聞いた話だが雅人とクララを元にしたらしい。
二曲目は珍しく優菜が作詞をし、実咲が作曲を行った曲だ。穏やかなメロディーでどこまでも広がる自由な土地に独り、まるで狼のような人がいた。そんな人に‘‘ある思い‘‘を寄せた素敵な曲だった。
「この曲を聞けば誰でも優しさに浸れます、皆さんとお約束しましょう」
優菜は曲が始まる前にそう自信を持ってい言った。
実咲の声とギターとキーボードの静かな音、応戦のフルートとハーブが混ざったこの曲を聞いて泣く人もいた。
三曲目は生命の尊さを歌った曲だった。
「僕ら人間とて無数にある生命の一つなのです。言葉は通じないかもしれない、でも僕らと同じ思い、僕らと同じ世界を生きている仲間はたくさんいます」
実咲がそう言うと最後に「神様もね」と少しだけ笑って言った。
四曲目は俺が作詞、実咲が作曲した曲だ。
それは簡単に言えばいつまでもこの三人でいたい。という曲だった。
例え天国や楽園と呼ばれている場所でも自分がいるべき場所には、敵わないほどの魅力がある。もしそこに悲しみや苦しみがあっても、その感情や思いはその人を成長させ、その人をもっと、より良い人にしてくれる。
アダムとイブもエデンを離れて初めて生きることを知った。
俺はそう思った。
五曲目は一人だけ周りと違う‘‘自分‘‘を歌った曲だった。雅人が一人で作詞作曲をし、自分の生々しい思いを書いた。
「時々複雑な気持ちになるんです。恋ってのは本当に恐ろしくて、もう会えないとわかっていても思いは大きくなるんです」
「僕が月の光を嫌ってしまう理由もそこにあったのかもしれません」
そう言って雅人がギターを弾くと実咲が歌い始めた。
その後はニ十分休憩となり、各自自由に過ごすことになった。
「雅人、いい調子だぞ」
実咲は階段にひっそり座っていた俺の隣に座り、缶コーヒーを渡した。
俺は微笑んで「本当にそうだな」と頷いた。
「雅人さん!お呼びですよ」
ライブのスタッフが雅人を大きな声で呼んだ。
誰が読んでいるかちっとも見当がつかなかった為、少しだけ重い足取りで向かった。一度振り向いて「これ、ありがとね」と缶コーヒーを持ち上げて実咲に言った。
「どこですか?」
俺は当たりを見渡してスタッフに聞いた。
「こちらへ」
スタッフはそう一言言って、人がいない小さな林を指さした。
俺は少し困惑したが、とりあえずついて行くことにした。
林は真っ暗で僅かな電灯だけが頼りだった。
「あの、どちら様ですか?」
恐る恐る訊いてみた。先を歩くスタッフは聞こえなかったのかサクサクと黙って前を歩いた。
「はあ」
スタッフは大きなため息をついて、大きな切り株に腰を下ろした。
「君も座っていいよ」
スタッフはそう言って手を膝に乗せた。
俺は一度ぺこりとお辞儀をし、遠慮しながらも腰を下ろした。
「月へ行くのか坊や」
聞き覚えのある声でスタッフは言った。
あの時の女の人だった。
「あ、え、はい」
俺は慌てて返事をした。うまく状況が読み込めなかった。
女の人は被っていた帽子を取り、深く息をした。
「月は再び戦争に突入した」
女の人は目を細め深刻な顔で言った。
悲しみや苦しみのない世界での戦争ほど悲惨なものはないだろう。
「女王クララはどうなったんですか」
月への列車はもう出ない。そう悟った俺は先に質問をした。
女の人は下を向き、また深く細い息を吐いた。
「悲しい話になる。世には知らなくていい事もある」
女の人は俯いてそう言った。会場の方は賑やかだが、ここはまるで別世界だ。
俺は小さく頷いて「話してください」と言った。
「二年前の二月ごろ、月は戦争の時代へと突入していった、君も知っているだろ」
女の人は声を低くして言った。
「思い出せないんです、俺は戦争が始まった時何してたんすか」
俺は戦争を止めるはずの監察官であった自分への怒りと共に言った。
「監察官は皆、戦争の波に飲まれていった。悲しむこともなく、苦しむこともなく」
「ただ坊や、君を除いてだ」
女の人は顔を上げ、雅人の顔を見た。
「君は月でただ一人、生きようとした神様だった。そんな君を見てクララは君を地球へと送った」
「我々は知らぬうちに裏の月の人間を傷つけていた」
クララが俺を地球に・・?
一瞬意味が分からなくなったが、とあることに気がついた。
俺たちはいつも裏の月の人たちを‘‘悪魔‘‘と呼んでいた。
彼らは争い、喧嘩をし、時には傷つけあう。
しかし表の月も昔はそうだった。人々が神になる前、人はみんなそうだった。
死を失った表の月はいつの間にか生きることを失ってしまった。
欲しいものがなんでも手に入り、時間が好きなだけ使えるようになった人達はいつの間にか大切なものを失っていた。
「クララは君に感銘を受けた。彼女は一つ、生きる道を選んだ、彼女は停戦の為に戦った」
「やがて戦争は泥沼化し、事実上終わった。クララは戦争が終わった後も幾人もの人を助けた。しかし・・・」
女の人はそこまで言うと、一瞬しゃくり上げ、
「娘は死んだよ、クララは死んだ。無理をし過ぎたんだろうね、元々弱い体なのに」
彼女は肺炎を患い亡くなったらしい。俺は言葉を失った。
「でもいいんだよ、月で死ぬなんてね、あの子は女王としていつも仮面を被っていた。友達も少なく、本当に寂しい人だった。でも彼女は最後まで必死に生きた」
「最後にね、「それでも人‘‘生‘‘は素晴らしい」って言ったのよ」
女の人・・・いやクララのお母さんは涙を溢した。
休憩が終わり、ライブステージに立つと一気に興奮が蘇ったが、クララの事も頭から離れなかった。
六曲目、七曲目、八曲目とあっという間のように過ぎていった。
今夜は十三夜だった。
いよいよ最後の曲がやってきた。実咲が最後の挨拶として歌う前に話し始めた。
「皆さんのお手元にあるプログラムにはですね、十番になつぞらの奇跡と書いてあると思います。それをね変えちゃおっかなと思っています」
実咲がそう言うと俺は思わず「え?」と言ってしまった。
そんな事は一切聞いてないからだ。
「いやあ、未来ってのは何が起こるかわかりませんね、時間は常に過ぎているんです。時間もまた魔法みたいに人を変えさせる、いや無数に起こる変化を時間をというのかな?」
実咲がいくら説明しても俺には意味が分からなかった。
「雅人、歌ってくれないか?」
実咲はそう言ってマイクを俺に向けた。
実咲の後ろにはクララの母が立っていた。
「話は聞いたよ、雅人、俺は雅人と最初に会った時、君の声に惚れたんだ」
実咲は下を向いて少し恥ずかしそうに言った。
「雅人くんファイト」
優菜もオルガンの前で雅人にエールを送った。
俺はいつの間にか涙を流していた。
「生きるって、本当に素晴らしいね」
‘‘狼な‘‘俺は今までの人生で起きた楽しかったこと、悲しかったことを全て思い返しそう言った。
「狼はいつも月を見ているんだ。独り、生きようとする狼はね」
「じゃあ私たちが月に行ったらどうなるの?」
優菜は疑問をぶつけた。
「生きるのを忘れちゃう、死がない限り生きることなんて無理なんだよ」
終わりがあるからこそ経過が輝く。
雅人はそう思っていた。
ライブ当日、会場には多くの人が集まっていた。
「実咲、優菜、今日は最高の日にしようぜ」
楽屋で二人に意気込みを伝えた。
実咲と優菜は自信に溢れた目でうなずいた。
ステージのバックには海が広がっていた。
ライブの開園時刻は夜の七時だが、海はライトで照らされ、波の形がくっきりと見えた。
「皆さん!今夜はお集まりいただきありがとうございます」
実咲は開演の挨拶を始めた。
俺は・・・緊張というよりかは興奮していた。こんなに多くの客を一度に見るのは人生で初めてだからだ。
コズモスのファン層は若い女性が多いが、今回は家族連れも多く見られた。
最初の曲は恋に敗れた人への悲しみ溢れる曲だった。
自分でも演奏しながら感動してしまった。クララと俺のように。もう会えないかもしれないと思いつつ恋心を抱くのは本当に辛いことだ。
ただ巡り合えた奇跡を祝うことしかできない、そんな男の気持ちを歌った曲だった。
演奏が終わった後の拍手は未だかつてないほどに盛大だった。
この曲は実咲が作詞作曲したもので、後で聞いた話だが雅人とクララを元にしたらしい。
二曲目は珍しく優菜が作詞をし、実咲が作曲を行った曲だ。穏やかなメロディーでどこまでも広がる自由な土地に独り、まるで狼のような人がいた。そんな人に‘‘ある思い‘‘を寄せた素敵な曲だった。
「この曲を聞けば誰でも優しさに浸れます、皆さんとお約束しましょう」
優菜は曲が始まる前にそう自信を持ってい言った。
実咲の声とギターとキーボードの静かな音、応戦のフルートとハーブが混ざったこの曲を聞いて泣く人もいた。
三曲目は生命の尊さを歌った曲だった。
「僕ら人間とて無数にある生命の一つなのです。言葉は通じないかもしれない、でも僕らと同じ思い、僕らと同じ世界を生きている仲間はたくさんいます」
実咲がそう言うと最後に「神様もね」と少しだけ笑って言った。
四曲目は俺が作詞、実咲が作曲した曲だ。
それは簡単に言えばいつまでもこの三人でいたい。という曲だった。
例え天国や楽園と呼ばれている場所でも自分がいるべき場所には、敵わないほどの魅力がある。もしそこに悲しみや苦しみがあっても、その感情や思いはその人を成長させ、その人をもっと、より良い人にしてくれる。
アダムとイブもエデンを離れて初めて生きることを知った。
俺はそう思った。
五曲目は一人だけ周りと違う‘‘自分‘‘を歌った曲だった。雅人が一人で作詞作曲をし、自分の生々しい思いを書いた。
「時々複雑な気持ちになるんです。恋ってのは本当に恐ろしくて、もう会えないとわかっていても思いは大きくなるんです」
「僕が月の光を嫌ってしまう理由もそこにあったのかもしれません」
そう言って雅人がギターを弾くと実咲が歌い始めた。
その後はニ十分休憩となり、各自自由に過ごすことになった。
「雅人、いい調子だぞ」
実咲は階段にひっそり座っていた俺の隣に座り、缶コーヒーを渡した。
俺は微笑んで「本当にそうだな」と頷いた。
「雅人さん!お呼びですよ」
ライブのスタッフが雅人を大きな声で呼んだ。
誰が読んでいるかちっとも見当がつかなかった為、少しだけ重い足取りで向かった。一度振り向いて「これ、ありがとね」と缶コーヒーを持ち上げて実咲に言った。
「どこですか?」
俺は当たりを見渡してスタッフに聞いた。
「こちらへ」
スタッフはそう一言言って、人がいない小さな林を指さした。
俺は少し困惑したが、とりあえずついて行くことにした。
林は真っ暗で僅かな電灯だけが頼りだった。
「あの、どちら様ですか?」
恐る恐る訊いてみた。先を歩くスタッフは聞こえなかったのかサクサクと黙って前を歩いた。
「はあ」
スタッフは大きなため息をついて、大きな切り株に腰を下ろした。
「君も座っていいよ」
スタッフはそう言って手を膝に乗せた。
俺は一度ぺこりとお辞儀をし、遠慮しながらも腰を下ろした。
「月へ行くのか坊や」
聞き覚えのある声でスタッフは言った。
あの時の女の人だった。
「あ、え、はい」
俺は慌てて返事をした。うまく状況が読み込めなかった。
女の人は被っていた帽子を取り、深く息をした。
「月は再び戦争に突入した」
女の人は目を細め深刻な顔で言った。
悲しみや苦しみのない世界での戦争ほど悲惨なものはないだろう。
「女王クララはどうなったんですか」
月への列車はもう出ない。そう悟った俺は先に質問をした。
女の人は下を向き、また深く細い息を吐いた。
「悲しい話になる。世には知らなくていい事もある」
女の人は俯いてそう言った。会場の方は賑やかだが、ここはまるで別世界だ。
俺は小さく頷いて「話してください」と言った。
「二年前の二月ごろ、月は戦争の時代へと突入していった、君も知っているだろ」
女の人は声を低くして言った。
「思い出せないんです、俺は戦争が始まった時何してたんすか」
俺は戦争を止めるはずの監察官であった自分への怒りと共に言った。
「監察官は皆、戦争の波に飲まれていった。悲しむこともなく、苦しむこともなく」
「ただ坊や、君を除いてだ」
女の人は顔を上げ、雅人の顔を見た。
「君は月でただ一人、生きようとした神様だった。そんな君を見てクララは君を地球へと送った」
「我々は知らぬうちに裏の月の人間を傷つけていた」
クララが俺を地球に・・?
一瞬意味が分からなくなったが、とあることに気がついた。
俺たちはいつも裏の月の人たちを‘‘悪魔‘‘と呼んでいた。
彼らは争い、喧嘩をし、時には傷つけあう。
しかし表の月も昔はそうだった。人々が神になる前、人はみんなそうだった。
死を失った表の月はいつの間にか生きることを失ってしまった。
欲しいものがなんでも手に入り、時間が好きなだけ使えるようになった人達はいつの間にか大切なものを失っていた。
「クララは君に感銘を受けた。彼女は一つ、生きる道を選んだ、彼女は停戦の為に戦った」
「やがて戦争は泥沼化し、事実上終わった。クララは戦争が終わった後も幾人もの人を助けた。しかし・・・」
女の人はそこまで言うと、一瞬しゃくり上げ、
「娘は死んだよ、クララは死んだ。無理をし過ぎたんだろうね、元々弱い体なのに」
彼女は肺炎を患い亡くなったらしい。俺は言葉を失った。
「でもいいんだよ、月で死ぬなんてね、あの子は女王としていつも仮面を被っていた。友達も少なく、本当に寂しい人だった。でも彼女は最後まで必死に生きた」
「最後にね、「それでも人‘‘生‘‘は素晴らしい」って言ったのよ」
女の人・・・いやクララのお母さんは涙を溢した。
休憩が終わり、ライブステージに立つと一気に興奮が蘇ったが、クララの事も頭から離れなかった。
六曲目、七曲目、八曲目とあっという間のように過ぎていった。
今夜は十三夜だった。
いよいよ最後の曲がやってきた。実咲が最後の挨拶として歌う前に話し始めた。
「皆さんのお手元にあるプログラムにはですね、十番になつぞらの奇跡と書いてあると思います。それをね変えちゃおっかなと思っています」
実咲がそう言うと俺は思わず「え?」と言ってしまった。
そんな事は一切聞いてないからだ。
「いやあ、未来ってのは何が起こるかわかりませんね、時間は常に過ぎているんです。時間もまた魔法みたいに人を変えさせる、いや無数に起こる変化を時間をというのかな?」
実咲がいくら説明しても俺には意味が分からなかった。
「雅人、歌ってくれないか?」
実咲はそう言ってマイクを俺に向けた。
実咲の後ろにはクララの母が立っていた。
「話は聞いたよ、雅人、俺は雅人と最初に会った時、君の声に惚れたんだ」
実咲は下を向いて少し恥ずかしそうに言った。
「雅人くんファイト」
優菜もオルガンの前で雅人にエールを送った。
俺はいつの間にか涙を流していた。
「生きるって、本当に素晴らしいね」
‘‘狼な‘‘俺は今までの人生で起きた楽しかったこと、悲しかったことを全て思い返しそう言った。
「狼はいつも月を見ているんだ。独り、生きようとする狼はね」
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