初戦
ヒロは次なる訓練の過程へと進んでいた。
その結果、体力不足を痛感していた。
明日からは基礎体力作りに励もうと思うヒロであった。
その一方。
ロックは今、バーで飲んでいた。
「そこまでにしとけ」
ロックの背後から近づく人がいた。ジャッカルだ。
そして、ロックの隣へカウンターへ付いた。
「おやじ、俺にもくれ」
「ふん」
「どうだ、鍛えがいはあるか?」
「何とも言えねぇな」
「ふ、それなりの手ごたえはあるようだな」
「まぁな」
「お前に鍛えられたら、あの小娘、ヤバい事になりそうだな」
「それはヒロの才覚次第・・・だが」
実際の話。
ロックの指導は評価が高く、何人かの闘技者を育て、実際にはナンバー1の実力者を送り出している。
だが、反対に指導に付いていけず、潰されてしまった新人もその倍は出てるのだが・・・。
「潰れると思うか?」
「さぁな、言えるのはヒロは原石だ」
「ほう?」
「ヒロはダイヤになるのだから潰れん」
「まぁあの闘い見てたらそうだろう。
ただのファイアが最上級のフレイムクラスの強さになっていたからな」
「というか、ダイヤ以上になる可能性をも秘めてる」
「そこまで言うのか?」
ロックは動きを止めた。
そして静かに目を伏せた。
「俺はあの時に原石以上の輝きを見たんだ」
ロックの脳裏にヒロのあの攻撃が浮かんだ。
「それで、無理やりにトレーナーにか?
お前は確かあの時に引退したはず・・・だがな」
そこでロックはジャッカルを睨む。
「おぉ、怖・・・」
そして、ロックは一口、酒をあおる。
「確かに俺はあの時に何もかもすべてを失った」
静かに聞くジャッカル。
「だが、ヒロは、俺に目を開かせてくれた・・・、俺はヒロを最強の闘技者にするんだ」
「何にせよ、こうして、お前が復帰してくれたのはいい事だ」
「ふん」
「だが、それなら、せめて酒は減らせんのか?
あの小娘を最強にする前に、お前の体が逝かれるぞ?」
「ふ、酒は俺の回復薬だ、こうして飲んでると明日に活力が見いだせるのだ」
「でもな、今日はここまでにしておけ。
いくら、気分は良かろうが、明らかに今のお前は度を越してるぞ」
「あぁ、もう少し落ち着いたら帰るさ」
ロックがそう言うとジャッカルは席を離れた。
「今回はお前の復帰祝いに俺がおごっておく」
それを聞いたロックはジョッキを天井に向けて高く持ち上げた。
それから、一夜明けて・・・。
「ヒロ、お前のデビュー戦が決まった」
え?
アタシは耳を疑った。
あれから、訓練も一か月にもなる。だが、アタシ自身、強くなれた気がしない。
実際、コニー相手でもいまだに勝ったためしはない。
「そこでだ、俺との稽古を始める」
「冗談でしょ?」
ロックは酒浸りだから、稽古にもなるだろうか?
「酔っぱらってて、大丈夫なの?」
「心配無用、お前の闘技試合が決まった時から酒は抜いている」
「え?」
嘘~?
信じられない・・・。
「本気・・・なら、嬉しいけど、さ」
「お前の最大の武器は魔法だが、今は攻撃強化よりも、戦術を覚えろ」
「それで今日まで剣技を覚えさせてたのね?」
「うむ、が、魔法が当たれば一撃必中になるのも事実。
だが、今のお前には余計なものだ。
そこで、弓で相手を弱らせつつ、最後に剣でとどめをさすのだ。
そのために今、教えられることは教えておく」
「なるほど・・・」
「さぁ来い、最終仕上げだ」
アタシはそれを聞いて、久々に胸躍った。
「どうした?
斬ってこい」
アタシはそれを聞いて、横から斬りかかる。
が、剣で防がれた上に、カウンターされてしまう。
ロックの攻撃は鋭い、避けるので精一杯だ。
「まだまだ隙が多いぞ。
遠慮なく、斬りかかってこい」
不思議な感覚だね。
ロックと稽古してるにも関わらず、まるで遊んでるかのような気持ちになる。
真剣にやらなければ、稽古にならないのに、ね。
何度も斬りかかっているが、あざ笑うかのようにあしらわれる。
だが、苦痛ではない。
次はこうしろと、無言で動きまで、指導されているような気分だわ。
コニーと稽古してた時はただ悔しいだけなのに、だ。
「ここだと思った時に斬りに来るといい」
「むむ~っ」
その時、ロックがニヤっと微笑をしていたように見えた。
ようし、そっちがその気なら当ててやる!
アタシはムキになって、斬り込みを入れていった。
そこだ、と思って剣戟を入れてみる。
が、間一髪で避けられた。
「まだ早いぞ」
むむむ・・・。
「ねぇ、ロック」
「ん?」
「アタシ、強くなれる?」
「さぁな、判らん」
「そりゃね、自分でも強いとも思えないんだけどさ」
「まぁ、お前は弱い」
むっ、はっきり言われると少々ムカつく。
実際、その通りなんだけどね。
「今はな・・・」
ヒロが何か考え事していた時、ロックが静かに囁いた。
「え?
何て?」
「何も言ってないぞ、さっさと向かって来い!」
アタシはもう、がむしゃらに剣を振るしかなかった。
あれから、ヒロは稽古を付けてくれた嬉しさで、毎日一心不乱になって、訓練に励んでいた。
そして、しばらくして今は闘技前日。
アタシは眠れなかった。
あれから、気配を読んで、どうにか、どんぐりを落とすか避けれるようになった。
コニーとの稽古だって手応えはある。
だが、不安だった。
生き残れる?
判らない・・・。
でも、死ぬのは怖い。
だけど、アタシは強くなれた?
いや、自信がないのよ。
ロックは大丈夫だと言ってくれてるけど。
しかし、アタシはここまで来れた。
何のためか、未だに見えてはきていないのだけれど、ね。
この異世界へ来て、奴隷となって、色々とあった、あり過ぎた。
今は強くなりたい・・・。
弱い存在、ちっぽけな存在、いつかは飲まれていく。
そうなっても、おかしくはないくらいにアタシは弱い。
幸いながら、ここコロッセオに来てからは強くなる機会を得た。
思えば、色々あった・・・。
気が付いたら奴隷で、そこから始まったわ。
魔法・・・習得。
魔族襲来。
そして、再び奴隷。
そうだ、今のままではダメなのよ。
強くなって、逆にすべてを飲み込むくらいにならなければ・・・。
いつかは奴隷から抜け出して、自由になる。
自由になって・・・?
それから?
アタシは何をする?
そう言えば・・・。
あの時、降りてきた女神ディナ。
アタシはそれで力を得たぽいけれど・・・。
「力・・・何だろ?」
じっと手を見る。
アタシはこの世界で為すべき事がある?
その時に言われた事。
「勇者・・・」
そうだ、アタシにはやらなければならない事があるのだろう。
多分に・・・。
今はちっぽけで無力なアタシ。
だけれど、宿命を与えられたのかも知れなかった。
それなら、今は本当に強くならなければ・・・。
そして、何としても生きる・・・!
静かに目を閉じる。
まだ見えぬ未来を信じて・・・今は・・・眠ろう。
決意を一層固めて行くヒロ。
明日のデビュー戦で眠れぬ夜を過ごす。
だが、今は眠る時、明日からはさらなる上へと上るために。