過程
気分も新たに訓練に励むヒロ。
しかし、ロックの妙な動きにとまどってしまう。
何が何だか判らぬまま、ただ闇に向かって行くだけなのか?
仕方ないので、アタシはコニーに会いに行く事にした。
そして、アタシは稽古の相手を頼みに行こうと思ってる。
先日、集合した小屋がアタシたち奴隷闘士の宿舎となっている。
無論、ちゃんとした一人部屋だ。
今はコニーの部屋まで来ていた。
ノックをしてみる。
「誰?」
「アタシ、ヒロ」
そう言うと、ドアが開きコニーが出てくる。
「ヒロ?
どうしたの?」
「最近の訓練どう?」
「順調だよ、今は攻撃の仕方なんかを教わってるんだ。
毎日、進歩してるのがよく判るよ。
おかげで今、少しづつだけれど、自信が付いてきてるんだ」
「そっかぁ」
「ヒロもだろ?」
「アタシは全然よ、あの飲んだくれ、何も教えてくれないもの」
「マジ?」
「うん、だから、疲れてるとこ悪いんだけど、稽古に付き合ってくれる?」
「うん、いいよ」
「ありがとう、それじゃ、後であの広場で」
「OK」
アタシは徳利を持って酒屋に向かう。
あれから、アタシは広場に向かって、それから、コニーが何度か稽古の相手をしてくれていた。
「ねぇ?」
「何?」
「ヒロは魔法があるのに、剣術を学ぶ必要あるの?」
「魔法は覚えるなと言われたのよ」
アタシは首輪を指差し、魔法が使えないことを伝えた。
そもそも、魔法を封じなくても、アタシは逃げる気はない。
今はね・・・。
剣術を学び強くなりたいから、残る事に決めたんだ。
だから、今はそれはもうどうでも良かった。
「へぇ何で?」
「知らない」
稽古していたら、夜になりそうだから、アタシたちは帰路についていた。
結果は散々たるものだった。
アタシの攻撃が当たらず、逆にアタシが倒される始末だった。
「大丈夫だよ、時間見て、僕が教えるから」
「本当?」
「うん、だから、頑張ろう」
「ありがとう、コニー」
アタシはコニーの手を取って言った。
ありがたい。
これで少しはマシになりそうだし。
夜陰に隠れて、ドギマギしていたコニーの顔に、ヒロは気付けなかった。
そして、あくる日の事。
今日も訓練があるのだが、アタシは憂鬱だ。
あの酔っ払い、何も教えてくれないし、嫌がらせしてくるしさ。
訓練場へ着くと、ロックは酔っていて寝ていた。
「ロック、始めるよ?」
ロックはそれを聞くと酒を一口飲みつつ起きた。
「始めろ」
それを合図にアタシは素振りを始める。
またしても、あのどんぐり・・・。
いいかげんに嫌になってきたが、飛ばしてる方法も見えないし、判らない。
ふとした時だった。
アタシの右目に汗が流れて来て、右目を閉じた刹那。
左目がそれを捉えた瞬間だった・・・!
ロックが右手でどんぐりを弾いていた。
だが、次の動作に移ると、途端に見えなくなる。
どういう事?
でもこれで間違いなくロックが木の実を弾いていた。
だが、見えてなかったのは何故?
もしや・・・。
まばたきしてる時?
何度か、確認してみよう。
まばたきを我慢してると飛んでこない。
逆にまばたきをすれば、飛んでくる。
そこでロックには見えないよう片目だけつむる。
そして、案の定、どんぐりは飛んできた。
やはり、まばたきしてる瞬間だった。
そうか、戦闘中にまばたきは命取り、だけれど、どうすれば動きを読める・・・?
たとえ、動きが読めたとしても、どこを狙ってくるのかも判らない。
やみくもに体をすばやく動かしたとしても、うまく当てて来てるし・・・。
対策は?
ロックの動きを読むのは難しいし、当てる瞬間が見えないのだから。
それなら、どうやって読むの?
フェイントで片目を閉じる?
それでもタイミング的に対処は難しいようだった。
「よし」
「え?」
「素振りはもういい、次の段階へ進める」
「ロック・・・?」
「戦闘中は目に頼るな。
まばたきしてると、それが命取りだ。
だったら、周囲の気配を体で感じ取れ」
ロックにしては珍しく饒舌だった。
そして、彼はアタシの動きをきちんと見ていたようだ。
「それならそう教えてくれればいいのに」
だが、ロックは黙ったきりだ。
仕方なく、ロックの後を追った。
森に続く小道を進むと水音が聞こえて来た。
次の訓練場は滝の下のほとりぽかった。
「次は滝の下で素振りだ」
「え?
マジで?」
「さっさとやれ!」
「ひぇっ」
しぶしぶ、滝の下で素振りを始めた。
こんな事なら、タオルとか用意したかったな。
「ダメだダメだ!」
「何が?」
「滝の水を斬るつもりでやれ」
「えぇ~?
意味判んなぁ~い」
「出来るまでやるんだ!」
滝の水を斬ると言ったってねぇ・・・。
何度かやってみるが、これが難しい。
滝の圧力がかかって、しっかり、木剣を握ってないと弾き返ってしまう。
それを見たロックがヤレヤレと言った感じで、アタシの傍まで近づいてきた。
「貸せ、こうするんだ」
そして、アタシから木剣を奪うと、構えから目にも止まらぬスピードで滝の水を斬った。
すると、一瞬だけれど、本当に斬れた。
水の流れが一瞬止まったかのようにそれは見えた。
すごい!
酔っぱらっていながら、あの動き!
やはり、ロックはただ者ではないのだろう、か。
「判ったか?
判ったらさっさとやれ!」
ロックは木剣を手渡した後、また、酒を飲みに切り株に座り込んだ。
「どうやったら、出来るのよ、そんな事」
「何も学ばんな、お前は」
ロックに聞くだけ、時間の無駄だった。
こうなったらやるしかなかった。
何度か挑戦してみるが、水が重い。
足元から動きが制限されるし、思った以上にすばやく振れない。
さっきのあの動き、ヒントはスピードだろう。
体力も限界に近い頃だった。
「今日はもういい、出来るようになっておけ、いいな?」
ロックはそう言うと去って行った。
「あ、ロック、酒は?」
「今日はいい、今のお前じゃ歩くのもきつかろう」
確かにその通りだった。
今のアタシでは体力が圧倒的に足りないのが判った。
木剣を杖代わりに進むのがやっとだった。
明日の朝からでも体力作りを始めよう。
部屋に着くとバタングーだった。
体力不足を痛感したヒロ。
次からは体力を上げなければ・・・。
そう思いつつ、深く眠りにつくのであった。