無常
魔物の襲来、その攻撃は容赦なく、村の人々の命を奪って行った。
ヒロはマスター、ジョゼと共に逃げるのだが、逃げ切れず襲われてしまった。
ジョゼは助かるのだろうか・・・、闘え、ヒロ!
が、ジョゼは虫の息であった。
まだ治癒術も使えない。
アタシは無力だ。
「マスター・・・」
「い、いいから、にげ・・るんだ・・・」
気付けば、辺りは魔物だらけになっていた。
「お、俺はも、もうだ・・・ダメ、だ。
に、にげろ」
そこで、オークが現れた。
ジョゼはヒロを突き飛ばし、オークに向かって行った。
瞬間、ジョゼは帰らぬ人となった。
「マスター!」
オークはアタシを見た。
ヤバい!
すぐ様、隠蔽魔法を使って隠れる。
オークは目標物を見失ったかのように辺りを見回す。
アタシはそれを見て、移動を開始した。
あちこちで騒ぎが起こっている。
そして、火の手が上がり、辺り一面、焼かれていく。
逃げながらも思った。
何故、アタシは転生したのに奴隷なの?
せめて、アタシがキャシーさんなら、冒険者であったなら、戦える。
もっと力があれば、魔物だって倒せる!
なのに、なのに・・・!
悔しい・・・。
キャシーに魔法を習うかたわらに知った世界の現実。
この世界には王国があり、対となる魔王の国があり、魔族や魔物と対峙しつつ、人々を守っているという。
それでも、王国の庇護は、辺境の小さな村までは届かない事が多いのだそうだ。
今、それが、正に今、魔族の襲来を受けてるの?
これがそうなの?
これがアタシの転生した世界。
もう嫌だ!
平和だった日本に戻りたい、帰りたい・・・。
アタシは悔し涙を流しながらも必死に逃げた。
魔物の姿を見ては必死の抵抗をし、走って行くのだが、今は焼け石に水だった。
魔物の数が多すぎて、キリがなかったから。
逃げ惑う人々を見て思う。
アタシは何も出来ないまま、ここで死ぬの?
そう思うと身震いがしてきた。
い、嫌だ。アタシは絶対に生きる、生きたい。
そして、こんな世の中を変えるんだ。
力よ、力を身に付けるのよ。
そのためにも生きねばならない。
そうだ、アタシは負けない。
絶対に生きて、力をつけるんだ!
そう思うと、何故か自然と足にも力が入る。
アタシはがむしゃらになって、力の限り走り続けた。
◆
気が付けば、アタシは馬車に乗って揺られていた。
が、その檻の中にだ。
周りを見れば似たような恰好をした人が何人かうずくまっている。
「君も捕まってしまったんだね」
振り向けば、少年がいた。
「ここは・・・?」
「奴隷商人が率いる馬車隊だよ」
「そっか」
まただ、と思った。
逃げようにも魔法無効がかかっていて、マナすら感じ取れず、無理なようだった。
あぁ・・・、アタシはどこまでも奴隷なのか・・・。
あれから、村は襲われた。
なのに、アタシは未だに奴隷だ。
何故、アタシは無力なのだろう。
アタシは力なく、うなだれるしかなかった。
「僕はコニー、君は?」
「ヒロ」
「いい名前だね」
そう言われても、力が沸かない。
「君はどうしてここに?
僕は父母と旅行してたら、盗賊に襲われてさ、奴隷にされてしまったんだ」
コニーはよくしゃべる。
こんな状況で、何故、明るくいられるの?
アタシはもはや元気すら出せないのに、な。
「今は奴隷でも、いつかは自由になれるはずだ。
だから、ヒロも頑張ろう」
「何を頑張るの?」
「え?
いや、だって、希望を持って・・・」
「アタシはね、ここにいる前も奴隷だったのよ。
そして今、またも奴隷として、ここにいるのよ。
そんなんで、希望なんて、一体どこにあるって言うの?
希望なんてね・・・。
奴隷、奴隷、奴隷・・・。
どこまで行っても、この奴隷の文様は消えてくれないのよ!」
アタシは肩に付けられた奴隷の文様を見せて、怒鳴ってしまった。
奴隷と言っても、希望があれば、マスターのように心優しい人もいる。
アタシだって判っている。
それでも、やりきれなかった。
コニーには申し訳ないけれど、この思いは・・・。
「え、、そ、それは・・・」
アタシにはもうどうでも良かった。
「ゴ、ゴメン、知らなくて・・・その」
「いいから黙っててくれる?」
「っ・・・」
ゴメンね、コニー。
アタシは今、ただ、何もしたくはなかったの。
何も考えたくはなかったのよ、だから・・・。
これ以上、考えても怒り・・・?
ううん、悲しみ?
複雑だった。
思いがそれぞれ渦巻いて、頭が重かった。
あれから、コニーは静かになった。
アタシはゴロンとなって眠った。
◆
馬車が止まった。
アタシはその揺れで目が覚めた。
次の売買先が決まるのだろう。
「おら、出るんだよ」
奴隷商人の部下らしき人たちが次々と奴隷を下ろしていく。
「お前もだ、さっさと出ろ」
アタシとコニーも一緒になって下ろされた。
そして誘導されてついていく。
その先も檻だった。
「どうですか?
新鮮な奴隷がたくさんいますよ」
奴隷商人と思える人と客が一緒になって現れた。
客は睨みながらもアタシら奴隷を見ていった。
「ふむ、全員買おう」
「え?
いいんですか?」
「あぁ、後で屋敷まで連れて来てくれ。
代金はその時だ」
「ありがとうございます、ウヘヘヘ・・・」
どうやら次の場所が決まったようだ。
「良かった、君と一緒だね」
コニーが後ろからふいに声をかけてきた。
アタシは鬱陶しいのでスルーさせてもらった。
それにしても、ここにいるだけでも数十人はいる。
それ全員買うとは・・・。
一体、どんな奴だろう?
アタシはそのことで頭がいっぱいになった。
悲しいまでの運命を進むのか。
いつの日か、ヒロに自由は来るのだろうか?
ヒロはもがきながらもこの世界を生きていく。