異変
キャシーと出会い、新たな局面を迎えたヒロ。
彼女はヒロの魔導講師となり、魔法を教えていく事になった。
ヒロは確実にキャシーのパートナーとなれる日は来るのだろうか?
あれから、週に何度かキャシーはアタシの職場へ来てるの。
無論、魔法を習うためよ。
仕事が終わった時に魔法の何たるかを教えてくれるわ。
キャシーもS級魔導士なのに、時間を見つけては来てくれるので、ほんとに申し訳なく思う。
だから、尚の事、アタシは頑張らなければならないわね。
ジョゼは魔法なんて習ってもいい事ないよと最初は渋っていたが、今では応援してくれているし。
ほんとにいい人ばかりで、アタシはマジ恵まれてると思うわ。
そのおかげで、今では初動魔法なら少しは使えるようになったよ。
前回、アタシが魔法を使えなかった原因は魔法を使う性質にあった。
魔法には大きく分けて、2つあり、魔導による魔法と精霊による魔法とがあるらしかった。
大きく違うのは、魔導による魔法は魔法式の構築によって発生させるのに対し、精霊魔法は精霊を仲介する事によって発生するのだ。
アタシはその後者に当てはまるそうで、自然を信じ、崇拝する心が大事なんだそうだ。
それによって、より高位な精霊の力を借りられるようになるらしかった。
なので、今のアタシではより大きな威力のある魔法は使えないのであった。
ただ、どちらも長所短所があり、一概にはどちらが上かははっきりとは比較出来ないのだそうだ。
でも、アタシはキャシーからはきつく言われてる事があるの。
魔法はほんとに強大で使い方を誤ると危険なものだわ。
なので、不必要に使ってはダメと普段は止められているのよね。
なにしろ、アタシ魔力だけは大きいので、キャシーも驚いていた事。
元来、精霊魔法の威力はアタシと精霊との相性に比例して、大きくなるらしいのね。
アタシは精霊に愛されてるみたいでね。
魔力の放出時にその補正がかかって、小さな精霊の力でも威力が数十倍以上になるそうなの。
なにしろ、炎よ出でよと最初に教わったアレ。
通常は拳大くらいの大きさの炎が灯るんだけど、アタシのは体よりも大きく発生したから。
それを見たアタシはパニクってしまい、前髪の一部を焦がしてしまったよ。
そんなこんなで、キャシーからは魔導士の心得だけは、念押しされているという訳なのだ。
まぁアタシだって、とんでも威力の魔法を村の中でポンポン使いたくないしね。
それでもね、精神力に依るところがあって、威力は制御出来るそうなので、ぶっちゃけ、アタシはまだまだ子供過ぎて、精霊の持てる力を使い果たしちゃうらしい・・・。
まぁ、それについては、キャシーが対策があるとか言っていたのだけれど。
とりあえずアタシは、今日も忙しい居酒屋の手伝いを済ませ、店の明かりの下で魔導書を読んでいたわ。
そこへキャシーがやってきた。
「キャシーさん!」
「はい、これ使って」
見ると指輪だった。
「でも、キャシーさん、これ指には大きくて入らないよ?」
「ほんとだ、じゃあ、こうすれば首にかけれるでしょ」
指にはプカプカのそれをキャシーがどこからか紐を出して、首飾りにしてくれた。
「だけど、これはなぁに?」
「これはね、魔法放出時に制御の補助をしてくれる魔道具よ。
今の貴女は魔力が大き過ぎるばかりか、制御もまだまだ出来てないからね。
これで、ヒロも魔力を制御出来るようになるわ」
「へぇ~」
「これでいいわ、やってごらんなさい」
「うん」
キャシーはその首飾りをかけてくれた。
そして、アタシは周囲を確認して唱えてみた。
「炎よ出でよ」
制御出来てるようで、拳大より少し大きめの炎が灯る。
「これで安心ね。
いい事?」
アタシはキャシーを見る。
「魔力制御出来るまでは、その指輪は絶対に外しちゃダメよ?
約束だよ」
「うん、ありがとう」
「ううん、私も嬉しいわ。
一歩づつ、ヒロが私のパートナーに近づいてくから」
「うん、アタシ、キャシーさんの助けになれるように早くなりたい!」
アタシたちは互いの顔を見て笑った。
そっか、アタシはまだまだ魔力の制御が出来てなかったんだね。
こうして、次の日からはたくさんの基礎魔法を教えてくれた。
◆
今日は魔法を使って魔物を狩る練習だ。
あれから、アタシは自然を見守るように祈りを始める事によって、小さいけれど、様々な精霊が見えるようになり、その力を借りれるようになったので、少しは使えるようになっていった。
さらには側にはキャシーがいてくれて、細かく指示してくれてる。
「じゃあ、まず、感知魔法を使ってみて」
「うん!」
アタシは手を広げて、精霊を呼び出し、魔法を念じる。
すると、頭のビジョンに様々な情報が入ってきた。
「見える?」
「うん、ウサギとか鳥さんたちがたくさん」
「危険な物はない?」
「今のところはないみたい」
「では、感知範囲を少しづつ広げてみて」
「うん、あ・・・」
「見つけた?」
「うん、南西の方向、およそ3キロ先」
「どんな魔物が見える?」
「ゴブリンらしき魔物が数体いるよ」
「OK、行きましょうか、隠密魔法を」
「はい!」
アタシたちは隠れて、ゴブリン達を追った。
同時に、互いが見失わないように意思疎通を自らかけていく。
いた!
ゴブリンが5~6体。
「さぁ行くよ、ヒロは右側を私は左側よ」
「はい!」
それぞれに狙いを付けて、火の矢を放つ。
あら、外した・・・。
急いで、狙いすまして、何発か魔法を再び撃った。
終わってみれば、結局、キャシーがほぼ倒してしまった。
アタシがようやく当てたのは2体のみだ・・・。
「まぁでも、上出来だわ」
「ほんとに?」
「こ~ら、調子にのらないの!」
「え~・・・」
こうして、アタシは魔法のイロハをキャシーから覚えていった。
◆
夜になり、アタシは酒場ジョリィへと向かっていく。
その時に黒い影が素通りした気がしたんだけれど・・・。
何だろう?
何気に空を見たら、って、え~?
ド、ドラゴン!?
そして、あちこちで村人たちが騒然となった。
「ドラゴンだ」
「飛んでるぞ」
冒険者たちも慌てて武装をし、外へ出ていた。
だが、ドラゴンはそのまま東の山へと向かって飛んで行った。
何も起こらなかったの?
しかし、異変は既に起きていた。
どこからか地鳴りと共に唸り声が響いてきた。
ドラゴンが飛んで行った反対側から、それらは聞こえてきているようだ。
「大変だぁっ、魔物が大群でこっちへ向かってくるぞ~!」
その声で反応した冒険者たちが、次々と西へと向かっていった。
アタシは茫然となっていた。
「ヒ、ヒロ!?」
店からマスターが飛び出してきた。
「マ、マスター?」
「す、すぐに逃げるんだ、は、早く」
マスターは直ぐさま、ヒロの手を引いて東へ向かった。
だが、既に魔物の勢力は村へ到着していた。
冒険者と激突するが、いかんせん、数が違い過ぎた。
あちこちの家から火の手が上がり、悲鳴が続いていた。
ヒロは懸命に走るが、転んでしまった。
マスターが振り向いて、ヒロを助け起こそうとする。
が、オークが現れて、マスターを殴り倒してしまった。
「マ、マスター!」
その後、ゴブリンの群れが現れ、マスターを叩きだす。
「ヒ、ヒロ、に、にげる・・ん・・・」
マスターは必死にもそう伝えていた。
「ひ、火の矢!」
ヒロはゴブリンに向けて、火の矢を何発か撃った。
突然、降りかかった魔物の襲来。
為すすべもなく、蹂躙されるヒロ。
ヒロのいた村はどうなるのだろうか。