遭遇
霧深く覆われた森林の奥へとさらに踏み込むヒロたち。
たよりは精霊の案内のみであった。
意を介して、ヒロ達はわずかばかりのメンバーだけで大森林の奥へと踏み込んでいく。
未開の森とはいえ、人の歩く道は多少はあるので、突き進むのは苦でもなかった。
だが進んでいくにつれ、霧は深くなり、下手をすれば、互いに見失ってしまうだろう。
目印にと松明を灯した明かりだけが救いだった。
ちょうど、霧が少し晴れ、互いに姿が見え始めた頃。
その時だった。
「どうしたの?」
精霊が怯えだして、前へと進まなくなったのだ。
それを見たキャシーがヒロへ訪ねたのだった。
「う、うん、精霊たちが怖がり始めたの」
「変ね、この先には・・・うっ!」
キャシーがむせかえるような異臭に顔を歪ませ鼻を抑えた。
「う・・・」
ヒロにも匂ったようで思わず顔面を歪める。
「う、これは・・・」
霧に交じって僅かに匂ってきた。
「こ、これは血の匂いだ」
ベスが思わず叫んだ。
キャシーたちは互いに顔を見合わせ、血の匂いがする場へと足を進ませた。
ヒロは精霊をなだめるようにして後からついていく。
「大丈夫よ」
すると、精霊はヒロの胸にしがみついてきたようだ。
それを見たヒロはゆっくりとエリーの後をついていった。
鬱蒼としてる森林は相変わらずではあったが。
そして、ふと森が切り開かれたところでキャシーたちが固まっている事に不思議に思い、横から辺りを見たヒロは驚愕した。
「酷い・・・」
アタシが一言発すると、エリーが前へと進む。
「これはホーリーウルフの・・・」
辺りにはホーリーウルフの屍骸がおびただしいほどに散らばっていた。
「な、何があったんだ?」
ベスが周囲に警戒しつつ一歩前へ躍り出た。
そこで、気を取り戻したヒロ達はゆっくりと警戒しながらも歩みを進める。
「これは・・・何の傷だろう・・・?」
木に残された傷を見てキャシーが言う。
「判らないわ、ね・・・」
「ふ、副団長!」
ベスが驚き、剣を身構えた。
先を見ると黒い物体がある。
「ダークウルフ!」
だがダークウルフは我関せずかのように静かに立ち去った。
「まさか、これはダークウルフの仕業か?」
「かも知れないわね・・・」
「へ、変だぞ!」
驚きを隠せぬベスに注目が向いた。
「ここにダークウルフがいるはずがない!」
「それが?」
「いや、だって、そもそも、ここは聖地だぞ。
邪なダークウルフがいるなんて・・・」
そこで堪らないようにヒロがベスに聞く。
「それが異変なの?」
「つまり、どこからかダークウルフが入り込んだのか?」
そして、ベスがエリーに尋ねた。
「それこそ、ありえないわ、ね。
邪なものの侵入を断ち切るように結界があるはず・・・、よ。
そもそも、この霧がその現れなの、よ」
「何年もずっと立ち入っていないのだから、何かがあってもおかしくはないわねぇ」
「だ、だからって・・・」
「落ち着いて、ベス!」
エリーに強く言われたベスはハッとする。
「ねぇ、どうするの?
アタシたちは調査に来たんだよね?
ダークウルフをそのままにしておくの?」
「そうねぇ・・・」
考え込むエリーにキャシーが提案する。
「そうね、だとしたら、他にも被害があるのかもね。
そこも調べましょう」
「うん、そうね、報告はそれからだわ、ね。
現状では何があったのかも判らないし、色々と調査を進めてみましょう、か。
ベス?
大丈夫?」
ベスは静かに頷いた。
そうして、ヒロたちはまた歩みだした。
精霊はまだ怯えたまま、ヒロに抱き着いたままではあった。
「でも、不思議ですね」
ようやく落ち着きを見せ始めたベスが歩きながらかしげる。
「何が、よ?」
「だって、副団長、ダークウルフと言えば凶暴な魔物ですよね。
何故、あのまま立ち去ったのでしょうか?」
「そりゃあ、満腹だった・・・とか?」
不思議がってるエリーとベスを横にキャシーがはさむ。
エリーとベスが互いに顔を見合うと笑いだす。
「いやいや、あり得ないですよ」
「そうよ、いくらなんでも満腹だったからって、ねぇ」
さらに奥深くへと進むと霧が深くなっていく。
松明の炎が役に立たなくなっているのか、いつのまにかヒロの周辺にはキャシーたちが見えなくなっていた。
「あれ?」
異変を感じたヒロは立ち止まって周囲を見る。
まるでホワイトアウトのように霧で周囲が見えなくなっていた。
「キャシー?
エリー?」
声すらこだましてるように反響している。
ヒロの声がキャシーたちに届いていないかのようだ。
無論、返事もなかった。
ヒロは焦った。
あらん限りの声を大にして名前を呼び続ける。
一方・・・。
「ちょっと待って」
キャシーの声にエリーとベスは足を止める。
「どうしたの?」
「ヒロがいないのよ!」
その声で周囲をあらためて見回る。
が、ヒロの姿は見えない。
「もしかして、迷ったの?
私たち・・・」
精霊なきキャシー一同はそこに気付く。
精霊と共にいるのは他でもないヒロだけであったから。
森の奥には異変があったようだ。
だが、原因が判明しない今、さらに奥へと進んで行くのだった、が・・・。




