表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

胎動

 ここは異世界。

 現実社会とは全くの別の次元にある世界だ。

 そこで一人の少女が奴隷として、生き抜こうとする物語が今、ここに始まろうとしている

 アタシはヒロ。現在まだ12歳。

 気が付けば、奴隷になっており、今は冒険者の集う酒場で雑用をやらされてるの。

 なんで奴隷かって?

 知らないわよ!

 アタシは元々普通にOLしてて、恋愛もしてて、充実してたのよ。

 なのに、友達と一緒にハイキングしてたら、友達からはぐれてね。

 そこで足を滑らしたばかりに気が付いてたら、そうなってたのよ!

 奴隷なんて、もう詰んだわ、アタシの人生。

 もうね、泣きたいわよ。

 でもね、ここのマスターは優しいからまだマシね。


「おーい、ヒロ、ジャガイモ持ってきてくれ」

「ハーイ」


 今、声がした人。

 マスターのジョゼって言うの、元A級冒険者なの。

 今はもう50過ぎてて、数年前に冒険者を引退して、ジョリィという店名の酒場でマスター始めたっぽいの。

 んでアタシを雇ってくれたって訳。

 う・・・、もちろん奴隷でね。


「ジャガイモ、置いとくね」

「おぉいつも悪いね」


 アタシは奴隷としては恵まれてるのかも知れない。

 よそではひどい扱い受けてるとこもあるようだしね。


「ん?」


 気付けば、視線を感じる。誰だろ?

 ジャガイモをいつものように置いていくと見られてる気がする。

 アタシは辺りを見回した。

 すると、いた。

 店の奥の方にひっそりと目立たぬように黒いフードで頭まで覆っている。

 不気味過ぎるわね。

 その人はじっとアタシを見てる、キモい~。

 アタシは構わず、店の外へ出て倉庫へ。

 今はここで整理整頓中だからね。

 ちなみに異世界っても、現実にいた社会と似たとこもあって、食物もその一つ。

 まぁ厳密に言えば、味わいも風味もちょっと違うってとこ。

 なので、普通にご飯もあれば味噌汁もあるのよね。

 なんでだろ、不思議~。


「ヒロ、お疲れ様、もう店じまいするから、先帰って休んでいいよ」

「はーい、お疲れ様です、マスター」


 そうこうしてるうちにもう時間が来たのね。

 アタシはさっさと大通りへ進んで行った。

 そこにはマスターとアタシが済む一軒家があり、そこの二階がアタシの寝室となっていた。

 玄関へと進み、家に入ろうとすると、後ろから妙な気配がしたので振り向いた。

 そこは先ほどの真っ黒なお客さんがいた。


「お嬢さん、あなた、すっごいのね」


 声からして女性のようだった。

 警戒していると女性はフードを頭だけ出して肩側に下した。


「あら、警戒しなくていいのよ。

 私はキャシー、これでもS級魔導士であり冒険者なのよ」


 そう言ってギルドカードを見せてくれた。

 アタシは胸を撫で下ろしてじっとキャシーを見た。


「ええっと、貴女はヒロだっけ?

 店主が話しかけるのが聞こえたから」


 アタシは頷いた。


「キャシーさんはアタシに何か?」

「貴女はとんでもない魔力があるわね、何か魔法は使えるの?」

「ううん、今はこの身だし、魔法ったって使ったこともないし」


 キャシーはヒロの身なりを見て思った。

 そして、右腕から見え隠れする紋章は奴隷紋だと見て取れた。


「あら、勿体ないわねぇ、もしそうだったら、メンバーになってもらおうかと思ってたのに」

「アタシが・・・?」

「そ、私はね、ヒロ、貴女をスカウトしに来たの」

「アタシが魔法を使える?」

「う~ん、どうかしらね、でも、魔力だけ見てたら並じゃないわ。

 通常、魔導士の持つ魔力の数倍もの量ががあるのが、私には見えるのだけれど」

「じゃあ、魔法はどうやったら使えるの?」

「うん、じゃあ、明日の昼は店休みよね?

 私が教えてあげるわ」

「本当?」

「うん、明日ここへ迎えに来るわ」

「うん、判った、宜しくね」

「こちらこそ宜しく、じゃあ、また明日ね」


 キャシーはそう言うとあっと言う間に闇に消えた。

 魔法で移動したのだろうか?

 それにしてもアタシに魔法ねぇ?

 使えると判ったら冒険者になれるかな?

 あ、でも、奴隷契約はどうなるのだろ・・・。

 そしたら、店だってマスターが困るだろうし・・・。

 う~ん。

 まぁいいや、明日は魔法教えてくれる事だし、今日はもう風呂入って寝よう。


      ◆


 今は村はずれのある森へと来ている。

 無論、キャシーとも一緒だ。


「ここでいいかな?」


 キャシーは周囲の安全を確認して言った。

 アタシはいよいよ魔法を覚えるんだとワクワクしていた。


「さて、最初は簡単に出してみてね。

 私に動きを合わせてやって見せて」


 キャシーはそう言うと手のひらを上に差し出すようにした。

 アタシも真似て手を動かす。


「炎よ、出でよ」


 そう言うと、手のひらに炎が灯った。

 凄い。

 アタシもやってみようとする。


「炎よ、出でよ」


 結果、何も起こらなかった。

 何度も繰り返し復唱しても同じだ。


「変ねぇ?」


 キャシーは首を傾げた。

 そう言うとじっとアタシの何かを見つめるようにしていた。


「な、何?」

「体内の中を流れる魔力の渦を見るので、もう一回やってみて」

「炎よ、出でよ」


 やはり、何も起きなかった。

 キャシーを見ると愕然としていたのは明らかだった。


「ど、どうしたの?」


 驚いてキャシーに話しかけてみた。

 キャシーはしばらく、呆気に取られてはいたが、アタシの声にわれ返った。


「非常に残念だけれど・・・」

「え?」


 アタシは不安になった。


「ヒロ、貴女は魔力だけはあっても魔法が使えないわ」


 って、え~?

 な、何故?


「呪文を唱えれば普通、魔力があれば発生するのよ。

 ところが、貴女の場合はその魔力に流れがない。

 あるところで淀んでいて動きがまるっきりないのよ」

「そ、それで?」

「残念ながら魔法の適性がないわ。

 魔力を操作する能力が全然ないのよ。

 魔力量だけは年齢的に見て、並の数倍以上はあるのに」


 ガーン!

 まるで鈍器で殴られたかのように全身を打たれた。

 ショックだった。


「じゃ、じゃあ、魔力の流れってどうすればいいの?」

「う~ん、それじゃ、言うとおりにやってみて?」

「う、うん」

「まずは心を静めてみてね」


 アタシは言うとおりに精神統一を始めてみる。


「そしたら、体内の流れを意識するように。

 どう?

 何かを感じる?」


 う~ん、一向に何も感じない。何故?


「感じないの?」

「で、でも何度かやれば感じると思うよ?」

「それじゃ、次は私の手を普通に握って見て?

 魔力の流れを教えるから」

「判った」


 キャシーの両手を握ってみるが変化はない。

 だが、キャシーは最初、驚いていた。

 まるで、興奮冷めやらぬと言った感情だ。


「どう?

 私の中にある魔力を私から貴女へ、そして貴方から私へとループさせてるけど」


 キャシーは真剣にアタシを見ている。

 が、そう言われても感覚のかの字も判らない。

 魔力そのものが見えて来ないのだ。


「判らないの?

 そうなると致命的ねぇ・・・」


 アタシは一所懸命に念じてはいるのだが・・・。


「すっごく勿体ないわぁ・・・。

 ヒロの強大な魔力が私には感じられるのに・・・」


 キャシーは残念そうに顔を伏せた。

 しかし、何か気付いたかのように、ふいにアタシをみた。


「ひょっとして・・・」

「なになに?

 何か判ったの?」

「魔導の知識がないのでは?」

「知識?」


 そういえば、考えてみたら・・・。

 ゲームとかでもよく聞くけど、魔法には知識が付き物よね。

 そうすると?


「うん、まずは魔導学を覚えないとダメね」

「そっかぁ・・・」

「まずはそこからとなると、どうしよっかな?」

「う~ん・・・」

「私が魔導学を教えてもいいのだけれど、残念ながら私、忙しいのよね」

「じゃあ、アタシはどうしたらいいの?」

「そうだね。

 とりあえず、村へ戻ろっか。

 私のお古だけれど、魔導書をあげる。

 それで一人で読んでみて?

 時間が取れたら、判らなかったところを説明してあげるわ」

「ほんとに?」

「いいのよ、教えると言った手前、最後まで面倒見るわ」

「ありがとう、キャシー!

 アタシ頑張るよ」


 そうして、アタシとキャシーは村へと帰るのだった。

 そこで、今はもう必要ないからと魔導書をくれた。

 アタシは店が始まるまで、無我夢中で魔導書を読み漁っていた。

 残念ながら、ヒロには魔法の素養がなかった。

 だが、原因が判ったヒロは魔導学を懸命に覚えようとする。

 キャシーは忙しい合間から、ヒロに魔導学を教えていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ