覚醒
いよいよ、デビュー戦前だ。
様々な事を思い浮かべては消えて行く。
アタシは新たな決意を胸に闘技場へ向かって行こうとしていた。
闘技場控室。
装備は動きやすいよう鎖帷子の上に肩当、右に小手、左にバックラー、胸当て、腰当、ブーツのみだ。
今日のために、アタシの体に合わせた装備だ。
防御は肌を露出してる面が多く、ほとんどゼロに近い。
小柄なアタシでは、重装備だと動きの妨げとなるのだから、仕方がない。
武器は短剣を背中、腰、ブーツと何本か備えている。
長剣はアタシには重くて扱えないのだから。
後は弓矢。
バックラーの裏側に弓があり、すぐにでも構えられる仕様だ。
相手はまだ決まっていない、というか、本番までは知らされないルールだ。
何があろうと・・・アタシは生きる、生き残る。
もう相手がなんであろうとどうでも良かった。
「おい、ヒロ、出番だ」
来た・・・。
アタシはすくっと立ち、闘技場へ足を運ぶ。
「さぁ、見えてきました、小柄な少女の闘技者ヒロで~す」
アタシは観客に応えるよう手を挙げた。
「続きまして、対戦相手は・・・」
その時に低く唸る声が聞こえた。
アタシは自然と構える。
出てきたのは、シルバーフォックス。
出てきた途端に威嚇するかのように吠える。
「な、なぁ~んと、シルバーフォックスだぁ~」
アタシの倍はある巨体。
敏捷性のある魔物だ。
今のアタシで捉えきれるだろうか?
否、攻撃をどうにか防いで、魔法をぶち込む。
それがアタシの戦闘スタイル。
ならば、やる事は一つ。
決して、気配を逃さないこと!
シルバーフォックスは警戒して、アタシの周囲をゆっくりと回り出す。
しばらくは睨み合いだ。
そして、目をまばたいた時、シルバーフォックスは牙を向いて向かって来た。
アタシはバックラーで軽くいなした。
大丈夫だ。
気配が読める!
だが、押されてしまい、わずかに後退してしまった。
パワー差があり過ぎる。
長期戦はまずいわ。
間違いなく、今のアタシでは体力が削られる。
そう思うと、間髪入れずにまたシルバーフォックスが飛び出してきた。
今度は受けずに避けた。
とりあえず、弱らせないと・・・。
アタシは短剣を弓矢に持ち替えた。
シルバーフォックスはそれを見て、連続攻撃に切り替えた。
アタシに的を絞らせないためね!
シルバーフォックスは前に横に次々と移動しながら、攻撃してきている。
なんとか、バックラーを駆使して避けてはいるがジリ貧だ。
「連続攻撃をラーニングしました」
え?
ラーニング?
何それ?
すると、シルバーフォックスの動きが急に遅くなった。
これは連続攻撃スキル効果?
それならば、すかさず、弓を射る。
何本かはシルバーフォックスの体に刺さったようだ。
そして、スローモーな動きが解除されたようで、通常通りになった。
「おぉ~、目にも止まらぬ速さで弓を放った~!
シルバーフォックスに早くもダメージだぁ~!」
一方。
今のは?
ロックが驚きの目でヒロを見た。
訓練中でも見ない動きだ。
これが出来ていたなら・・・。
シルバーフォックスは動きが鈍くなったようだ。
闘技場ではヒロが短剣に持ち替えて、攻撃に出ていた。
「ば、馬鹿!
まだ早い!」
ロックは思わず席を立ち叫んだ。
次の瞬間、ヒロは逆に飛ばされていた。
ヒロは倒れたまま、何があったのか呑み込めないでいるようだ。
シルバーフォックスは瞬動スキルでヒロめがけ、体当たりしていたのだ。
ロックはそれを見ていた。
アタシは飛ばされながら、例の声を聴いていた。
「瞬動をラーニングしました」
え?
今のは?
瞬動・・・?
それって、動きを早くする・・・?
そっか、それで体当たりしてきたって訳か。
それなら、アタシだって!
瞬動!
そして、シルバーフォックスの前脚を斬った。
今度はシルバーフォックスが怯んだ形になった。
またしても、ロックは驚きの目で見ていた。
あいつ、何かあるなとは思ってはいたが・・・。
ヒロはかなり余裕を持てるようになったようだ。
ダメージは残っているとはいえ、シルバーフォックスは前脚を斬られ、従来の動きがもう出来ないだろう。
が、アタシもヤバい状況であるのも変わらないのだった。
そう、先程の体当たりで左腕が痺れているのだった。
ちょっとヤバいけれど、今はチャンスだ。
アタシはシルバーフォックスを見て思う。
次に攻撃してきた時が最後。
数分の睨み合いが続く、が、あせらずに攻める!
シルバーフォックスはじっとアタシを見つめていた。
そして、勝負を決めに牙を向く。
来た!
瞬動!
避けつつ、横から、いっけ~!
そして、今こそ連続攻撃よ!
こうして、横から弓矢を何本か射って行く。
ヒロは左腕がしびれて、思うようには射てない。
だが、至近距離で射つので、今は関係ないようだ。
シルバーフォックスの体に何本かそれが食い込んだ。
次の瞬間、シルバーフォックスは転びながら倒れていく。
「今よ!」
そして、ヒロは瞬動でシルバーフォックスに近付き、まず前脚、後脚と続けて短剣を使って攻撃を繰り出す。
連続攻撃が決まったのだ。
ヒロは最後にシルバーフォックスの胴体へ斬りかかった。
そして、ゆっくりとシルバーフォックスから離れて行く。
無論、警戒はまだ解かない。
眼前のシルバーフォックスは既に満身創痍だ。
すでに立ち上がる力もないようだった。
とどめに頭へまっすぐに弓で射ぬく。
そして、シルバーフォックスは倒れた。
「やった・・・」
大きな安堵とともに座り込んでしまった。
今回、アタシが勝てたのは・・・ラーニング・・・!
もしや、これが女神ディナに授かった力?
ラーニング、うまく使えばチトにもなるだろう。
なにしろ、相手の攻撃をコピーするようなもんだし。
まぁいいや。
今はこの勝利を素直に喜ぼう。
そして、控室へ向かって行った。
その頃、闘技場の上段入り口から、ヒロを見つめる人物がいた。
「ヒロ・・・、やっと、見つけたわ・・・」
そして、無事に勝利を収めたヒロ。
そんなヒロを見つめる女性の姿が・・・。
この女性は何者だろうか?




