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EX2

筆がのったのでもう一つ書きました。最初は長くても3万字くらいと思ってたのにEXが本編より長くなってしまった所為で倍くらいになってしまった。今度こそ完結。

「一分一秒でも早くお姉ちゃんの声を取り戻してよ!!!!!」



 隣の部屋から妹の怒鳴り声が聞こえた。

 考えてみればこうなる事は必然だったと思う。


 幸助さんは、声を出せる状態の私を知らない。

 対して(もみじ)はずっと私の声を、ううん、心を癒そうとしてくれている。

 このままでも困らない幸助さんと、現状を変えようともがいている椛で意識に差が出るのは仕方ない事。


 幸助さんも私も、現在が楽しすぎて私が病気で声を出せないということを忘れていた。

 椛が私を案じてくれていなかったら、ずっとこのままだったかもしれない。


 私が今平静でいられるのは、これが初めてじゃないからだ。



「お姉ちゃんは病気なの!」

「お母さんだって、私が熱出したら下がるまで心配するよね!」

「お姉ちゃんは今声も出せないほど苦しんでるの!」

「心にできた傷が、目に見えるほど酷い状態なのにどうしてそんな事が言えるの!?」


「私は! お姉ちゃんがこのままで良いなんてちっとも思わないよ!!!!!」



 確か、(らん)ちゃんが来て手話をできるようになって、しばらくしてからのことだったと思う。

 椛がお母さんに叫ぶ声を廊下で聞いた。


――バタン!


 すぐに椛が部屋を飛び出して、目が合って怖くなったのを覚えてる。

 興奮状態の人は、いくら家族でも怖い。


 『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』


 一番最初に覚えた手話を繰り返したのを覚えてる。

 幸い椛はすぐに落ち着いてくれたんだけど、当時の私は今にも爆発しそうな劇物を扱うように接してしまった。


「ごめんね、お姉ちゃん。今、お姉ちゃんは自分の心が擦り切れてることにも気づけないほど傷ついてるのに、私は何にもできてない。こんなこと言うと余計お姉ちゃんに気負わせてしまうのもわかってるけど、それでも何回も言うよ。ごめんなんて言わせて、ごめんね」



 私が妹の優しさに気づけたのは、実は最近になってからだ。

 ずっと怖かった。

 ずっと嫌われてると思ってた。

 ずっと憎まれて当たり前だと思ってた。


 でも今、私は椛が良い娘だって知っている。

 ずっと必死に私の助けになろうと頑張っている事を知っている。



 ――――。

 ――――。

 ――――。

 ――――。

 まずは幸助さんのフォローかな。

 椛はきっと、今頃部屋で一人反省会をしてるだけ。


 正直椛は悪くない。

 悪いのは、声を出せなくてもいいと、私でさえ思ってる事だろう。

 幸助さんも私がこう考えているから焦ってないだけ。


 なんてこんな風に自分が悪いと考えてたら椛に怒られ、……ないでまたごめんって言わせちゃうかな。


「ここまで聞こえたよ。とりあえずもう今日は勉強にならないだろうし帰って良い。私も椛には叱られてばかりなんだ。一晩経って思考がまとまったらまた連絡お願い。こんなことが起こったけど、私も椛もキミには期待しているんだ。それは今も変わってない」


「ありがとう……ございます」


 お母さんと幸助さんはリビングにいた。

 私もお母さんもどちらかと言えば幸助さんの味方。だから椛に怒られるんだ。

 椛も、たった一回逆鱗に触れたくらいで全てを否定するような娘じゃない。できるような娘じゃない。


 リビングから出てきた幸助さんと目が合う。

 なかなか気まずそうだけど、その程度で遠慮なんかしない。


-------------------------------------

   幸助さん

   明日デート

   してください。

-------------------------------------


「……すみれ」


 申し訳なさそうに私の名前を唱えるけど、残念なことにその言葉は魔法の呪文なんかじゃない。

 好きな人に対してはそうありたいと思うけど、私はまだまだ自分のことで手一杯だ。


-------------------------------------

     椛は

   強いし賢いので

    大丈夫です。

-------------------------------------


 たぶんこの二言(ふたこと)で充分。

 幸助さんを心配なんてしない。

 ちゃんと、これは誰も悪くないって気付いてくれる。

 だから、幸助さんに伝える言葉はこっちは何とかするという言葉のみ。

 今は思考ぐちゃぐちゃだろうけど、落ち着いたらしっかり話をするんだ。


「……うん。わかった」


 『夜』『連絡』『詳細』『待つ』『お願い』


 だから、それまでにどうするかを決めておいてください、と言外に伝える。

 流石に今は厳しい、というか今答えを出せるなら椛と言い争いなんてしなかった。


「りょーかい。待ってる」


 整理をしてもらう時間は今から私がメッセージを送るまで。

 お母さんは一晩なんて言ったけど、私はそんなに待てない。


 幸助さんを玄関で見送り、お母さんと話すためにリビングに向かった。

 ――――。

 ――――。



「やっぱりこうなっちゃったわね。幸助君と椛」


-------------------------------------


  ちょっと懐かしかった


-------------------------------------


 ホワイトボードは部屋の中なのでスケッチブックに記入。

 お母さんとの会話だけど、別に絶対スケッチブックを使っちゃいけないなんてことはない。


「あんまり苛めないで。貴女には悪いことしたと、今じゃ本気で思ってるんだから」


 私も同罪、と言おうとしてやめた。

 私が自虐的になっても空気が良くなったりはしない。


 『私』『と』『お母さん』『今』『軽口』『言う』『関係』


「そうね。貴女達にはホント感謝してるわ」


 私も、椛とお母さんには感謝してる。


 ずっと、心配をかけた。

 ずっと、迷惑をかけた。

 ずっと、愛してもらってた。


「幸助君、あんまり思いつめないといいけど」


 『大丈夫』


「でも彼、理性と感情で違う結論出てそのギャップに悩まされるような子よ。今回みたいなことでは特に顕著なんじゃない?」


 ――――。

 ――――。


-------------------------------------

     大丈夫。

  ちょっとやそっとで

   逃がす気無いよ。

-------------------------------------


 大切な繋がりができた。

 なんとしてでも守りたい居場所がある。

 一度手を伸ばした程度でこの素敵な関係を維持できるなんて思ってない。


 左手薬指の指輪を見る。

 アイオライト、すみれ色の宝石。


 分かってる。

 こんなもの、ごっこ遊びの延長みたいなものだ。本物に憧れて、手を伸ばしただけ。

 これひとつで婚約できるなんて代物じゃないけれど、これを買った時幸助さんは少なからずそういう未来を思い描いて覚悟したはず。


 でも、その程度の覚悟が早々に打ち砕かれることを、私は身を持って知っている。

 例え命を懸けるほどの覚悟だったとしても、覚悟だけではどうしようもないことを、私は身を持って知っている。


 それでも欲しいものがあるからと、私は手を伸ばす事ができるようになった。


「あーはいはい。私たまに貴女達姉妹を怖いとさえ思っちゃうよ。我が娘ながらね」


 たぶん私は失声症(こんな風)にならなかったら普通の女の子だった。それは椛も同じ。

 いいこととは思えないけど、本当に悪いことばかりだった?


 自問の答えは(いな)


 幸助さんは声が出せないから私を好きになった訳じゃない。

 でも私は、()()()()()()()()()()()()彼を好きになった。


 私が好きになった人には、もう一度――ううん、何度でも立ち上がってもらわないといけない。

 覚悟が破れても、もう一度誓いを立ててもらわないといけない。

 それができる人だって信じてる。



 お母さんと少し話をした後は椛の部屋へ。

 ノックしたけど返事がないからそのまま入る。


 ……。


 あの布団の塊が椛かな。

 クーラーがあるとはいえ暑くないだろうか?


 ベッドの上にある塊を避けつつそばに座る。

 すると、モゾモゾと中身が抜け出し、中からなんと可愛らしい女の子が!


「き、聞こえてた?」


 可愛い妹が私の隣で不安げな声をあげる。

 優しい娘。

 今はあんまり人と話したくはないだろうに、私の声を聞くために起き上がった。

 私は椛の優しさを利用する悪いお姉ちゃんだ。


 こくっ


「うぅ。ごめんね、お姉ちゃん」


 ――――。

 ――――。


-------------------------------------


    何に対して?


-------------------------------------


「……言わなくて良いことを言っちゃった」


 『それ』『普通』


 椛が言ったことは普通のことで、間違ってなんかない。

 幸助さんがなんて言って椛を怒らせたのかは聞こえなかったけど、きっと椛の方が正しかったんじゃないかと思う。


「普通のことでも、やっぱり謝らないといけないことだよ」


 椛はなかなか頑固な娘。

 そして残念なことに私より頭が良い。

 分からなくていいことまで分かってしまう。


 『彼』『椛』『言う』『理由』『分かる』


 幸助さんなら、椛の言いたいこと正しく伝わったと思うよ。


「だって、お義兄さんの方が正しい。お姉ちゃんはお姉ちゃんなのに、勝手に焦って、勝手に罵って。幻滅されたかもしれない。私の所為でお姉ちゃんがふられちゃうかもしれない」


 椛は本来甘えん坊だ。

 ただ、残念ながら椛が甘えられる人は今いない。


 お姉ちゃんである私が甘やかすべき存在であるはずなんだけど、声を失ったあの日以降、椛にとって私は甘える対象じゃない。

 お父さんは私の所為でいなくなってしまった。

 お母さんとも対立してしまった。


 そして今回、幸助さんとも。

 思えば、椛が幸助さんを兄と呼称していたのはそういう甘えられない寂しさの裏返しだったのかもしれない。


 『大丈夫』


 頭を撫でて抱きしめてあげたい。

 でも、そうすると私はもう言葉を伝える手段がない。

 それに声を出せない私は見ていて痛々しいらしいから、例え声以外の手段で意思を伝えられたとしても椛はきっと甘えてくれない。


 もう自分の心が傷ついていることは自覚できた。

 どのくらい深いのかは分からないけど、傷を癒してくれる存在は周りにたくさんいてくれる。


 『私』『と』『彼』『ずっと』『仲良し』

 『きっと』『彼』『私』『話す』『できる』『まで』『手伝う』


 私と幸助さんは、ずっと一緒にいるよ。


 指輪を見せびらかす。

 アイオライト。

 私のためのすみれ色の宝石。


「うーん。やっぱりそれは早まり過ぎな気がするんだよね。重く感じない?」


 たぶん質量とかそういう意味じゃないんだろうな。


 『愛』?


 『そう』『愛』


 手話の利点は、口に出すのが恥ずかしい単語も比較的簡単に言えることだと思う。たぶん椛が口で言わなかったのも同じ理由。

 にしても、愛が重くないかとか、どの口が言っているのやら。


 『鏡』『見る』『その後』『もう一度』『同じ』『台詞』『言う』『お願い』


 そういう台詞は鏡見て言ってほしい。

 私の愛情の基準は椛だ。

 妹に比べれば随分大人しい。


「えー。私そんな重たい?」


 流石に自覚はあるようで、目が泳ぎ声も少し震えてる。

 一般的には充分重い部類だけど、私にはそのくらい重くないと上手く接する事が出来なかったと思う。

 それは幸助さんも同じだ。


 『彼』『と』『椛』『似てる』


「……そんなことないよ。私はお義兄さんほど優しくない」


 話をしているうちに少し明るくなっていた表情が、一気に曇る。

 こういうところはそっくりだと思うんだけどなぁ。

 私が思ってるよりずっと、椛は幸助さんのことを高く評価していたらしい。


 目標ができた。

 声を出せるようになったら、椛をうんと甘やかすんだ。

 じゃないと私、椛を抱きしめてあげる事ができない。



 翌日。

 時間があったので犬の写真展というものに寄ってみた。


 幸助さんは大型犬が好きみたいだけど、どの犬種もすごく可愛い。

 こういう時、一番可愛いのがどれかなんて論争になると思うし、ランキングされることだってよくある。

 でも、私はもうその答えを知っている。


 『やっぱり』『私』『蘭』『一番』『可愛い』『思う』


「そうだね。うちの子が一番可愛い。真理」


 ほら、幸助さんも肯定してくれた。

 蘭ちゃんは賢くて可愛くて、よくぞ私達の家に来てくれたと思う。

 それに蘭ちゃんが来てくれなかったら幸助さんとも会えなかった。

 大切な家族と同時に、もう一つ絆を繋いでくれたキューピッド。


「さて、そろそろ本命向かおっか」


 今日の目的は足湯カフェ。

 流石に足湯くらいは入れるはず、と甘く見ていた私は自宅で見事撃沈した。


 いや、ちゃんと入れたよ。

 七秒くらい。


 それ以上は独りじゃ無理。

 せめて椛がいてくれないと実験もできやしない。


 大丈夫。

 大丈夫。

 今は幸助さんがいてくれる。

 私は独りじゃない。


「ひょっとして、自分に大丈夫って言い聞かせてる?」


 !?


 幸助さんに心境を言い当てられたのは初めてじゃない。

 それでも、今ほどビクッとなったのは初めてだ。

 いつもの心地よい、察して欲しい時のそれじゃない。


「今から向かう場所は娯楽施設だよ。俺達はそこを楽しむために行くんだ」


 娯楽施設。

 そっか。

 なら、確かに大丈夫と自分に言い聞かせて身構えるのはちょっと違う。

 知らず知らずのうちに、体が強張っていたのをようやく自覚する。


「もちろん万人受けする娯楽なんて存在しない。むしろリピートするほど気に入る娯楽なんてごく少数、特殊パターンだ」


 『ありがとう』


 自分のことなんて全然分からない。

 でも、私の事を私以上に分かってくれる人がいる。

 その優しさに、甘えちゃおう。


 幸助さんは私をちゃんと助けてくれる。

 でも、今日それは必要ない。


「例えばそうだなぁ。ケーキなら何系が好き? チョコレートと柑橘の組み合わせとかなかな美味しいよ」


 難しい質問。

 甘いものは好きだけど、いざ一つを選ぶとなったら大変だ。


「ベリー系をたくさん乗せて酸味を利かせたカスタードタルトもいいよね。チーズケーキはレアとベイクドどっちにも良さがある。今から行くとこはレアはないらしいけどね。下調べした感じなんかキウイ使った奴にしようと思ってるんだけど、正直まだ迷ってる」


 ……。

 あれ、ちょっとガチ過ぎやしないだろうか。

 だって幸助さん、私がご飯とか作ってもここまで詳細に褒めてくれたりしないよ。


 甘いものは別腹というか、別舌?

 今度お菓子作ったらもっと喜んでくれる?

 これ、幸助さんが楽しみたいだけで私関係ないのでは?


 私の水への恐怖を克服するためという理由はついでで、ホントは単に甘味が食べたいだけとかそんな感じかもしれない。

 漫画とかでも、男一人では入りづらいからと仲のいい女の子を誘う展開見たことある。


 でも、そのくらいで良いのかもしれない。

 気負わないように、そう考える必要すらないんだ。


 『私』『モンブラン』『頼む』


 手話の欠点を感じる機会はよくある。今感じているのは話しながら手を繋いで歩けないこと。

 片手でできる手話もあるんだけど、手話は基本両手を使うものだ。

 普段蘭ちゃんの散歩に行くときも、リードは任せているくらい。

 スケッチブックはもっと場所を選ぶからなぁ。


 ……。

 こんなことで話せるようになりたいと言ったら、幸助さんはなんて言うだろうか。


 閉じた世界に必要なものはそう多くなかった。

 声がでなくても不自由しなかった。

 水が恐ろしくても支障はなかった。


 でもやっぱり、広がった世界で声を出せないことは随分窮屈だ。


「焦らなくても、声を出せるカウントダウンはもう始まってる。ちゃんと自分の心の声を聞いてあげて」


 自分の心に正直にいること。

 それが声を出す近道……なのか。



 結局、足湯カフェには手を繋ぎながら言った所為であんまり会話はなかった。

 毎日散歩に行ってるおかげで歩くことにそこまで苦はない。

 暑いし汗かいてないかとか体力面以外の心配はあったけど、無事目的地に到着。


 足湯カフェ -violet-

 ここを選んだ理由は単純で、看板にある英単語を和訳すると、すみれとかすみれ色になるからだ。

 験担(げんかつ)ぎみたいなものだけど、自分と関連のある名前が目に留まることはよくあると思う。


「カクテルパーティ効果だね」


 名前はどうだっていいかな。

 いや、幸助さんの知識の幅には随分助けられてる。最初に会った時も、自分は口で喋れるのに手話で話しかけてくれたし、犬を飼ってないのに随分詳しかった。


 でもそれとこれとは別というか、正直雑学披露は椛にしてほしい。あの娘普通にそういうの好きだし喜ぶと思う。

 少しテンションが下がったけど、火照った体にはちょうど良かったかもしれない。

 手を繋いだだけで舞い上がった心が静まった。


 店に入り、年配と思しき女性の店員さんに奥の席に案内された。

 いまさらだけど、こんなところに水恐怖症の人が来てもいいんだろうか。店側に迷惑とか……


「店には話通してある。だから閉店間際のこの時間なんだ。すぐにラストオーダーだけど、料金先払いを条件に閉店時間を少し超えるくらいは大目に見てくれるって」


 それなら結構時間はある。

 今の時間は17時20分。閉店時間は18時。

 なんか半端な時間だと思ってたけど、そういう真相だったんだ。


 六人くらいが入れそうな個室に案内された。

 大き目の個室を二人で使えるのは空いてる時間限定らしく得した気分だ。

 個室の真ん中は全部足湯になっていて、テーブルとかはない。



 …………。



 どうしよう。

 思ったより視界に入る水成分が多い。


 どうしよう。

 開いたドアをくぐることができない。


 どうしよう。

 まだお湯には浸からない、そこに足湯があるというだけの部屋に入ることすらできない。


 案内してくれた店員さんに緊張が走ったのが分かる。

 分かったところでどうしようもない。

 バクバクと心臓が締め付けられ、金縛りにあったように私にはどうすることもできない。



 !?


 唐突に感じる浮遊感。



 一瞬遅れて、幸助さんに抱きかかえられたことを悟る。

 俗に言う、お姫様抱っこ。


「ん、これ意外とお……」


 幸助さんを睨みつけた。

 女の子として、その先を言わせる訳にはいかない。


「あー、重心が取りづらいな」


 ぎゅっ


 首に手を回してできるだけくっつく。

 確かに、体重に関係なく私が暴れてしまっては持ちづらいだろう。

 私の体重関係なく!


 心臓の音、たぶん聞かれてると思う。

 でも構わない。目を閉じて幸助さんの首筋に頭をうずめながら両手に力を込める。


 さっきまでの嫌なドキドキじゃない。

 水への恐怖による冷や汗も引っ込んでしまった。

 我ながら単純すぎる。ちょっと言い訳できそうもない。


「靴、脱がせるよ」


 通路より個室の方が一段高い。

 幸助さんはその段差に腰掛け、私は幸助さんの膝に横向きで座らせてもらう。


 もう抱き着かなくても良いと思うけど、必要がなければ抱き着いちゃいけないなんて決まりはない。

 むしろ私達は恋人同士。

 積極的なイチャイチャが認められる関係だ。


 靴を脱がして貰うというのはたぶん初めての体験。

 足のにおいとか大丈夫だろうか。

 ちょっと気になるけど、幸助さんを跳ねのけるほどじゃない。


「次、靴下なんだけど」


 流石に靴下を脱がせるのはどうだろう。

 乙女として、越えちゃいけない一線じゃなかろうか。

 というか今日なに色の靴下履いてたっけ?


 出した結論は、じっとしていること。

 肯定も否定もしない、一番卑怯な方法。

 私は呼吸すらとめて幸助さんが動き出すのを待つ。


 しばらくの空白の時間があり、幸助さんの両手の親指が私の右足と靴下の間に入るのを感じた。

 靴下が少しずつめくられ、覆われていたアキレス腱やくるぶしが外の空気を浴びるが分かる。

 土踏まずを経由して、つま先へ。

 そしてとうとう、私の右足は裸になってしまった。


 いやいや、なんか変なテンションになっちゃったけど別におかしなことをしてる訳じゃない。

 止めていた呼吸が戻り、その分普段より荒くなった気がするけど足湯という場所を考えた場合ギリギリ普通の事のはずだ。


「今度は左足ね」


 まだあるの!?

 いや当然だ。だって足は二本ある。

 片足にしか靴下を履いてないなんてことはない。


 するすると先ほどよりスムーズに抜き取られた。

 さっきまでは動かないを選択していたはずだけど、今はもう羞恥で動けない。

 今思い出した。靴下グレーだ。

 私の馬鹿、もっと可愛いの履いてくるべき。

 うぅ違うんです幸助さん。普段はもっと……、あんまり変わんないかな。これは可愛い靴下を買う必要がある。


 靴下を纏める気配があり、何か引きずるような音がした。

 何の音か分からないけど確かめる余裕がない。


「はい、もう一回立ち上がるよ」


 ぎゅっ


 もう一度、抱き着く手に力をいれる。

 さっきはちょっと乱暴だったから、次はもうちょっと優しい感じがいいなぁ。


 私の要望が通じたのか、幸助さんはゆっくりと立ち上がった。

 そして歩き出す気配があり



 ――ちゃぷん



 幸助さんの足がお湯に入る音が聞こえ、体が一段分下がった気配を感じる。

 目は閉じっぱなしだから見えてはいないけど、今私はお湯の上で抱きかかえられてる。


 不思議と、ううん、不思議でもなんでもなく恐怖より恥ずかしさが前面に出ている。


 少しずつ体が降ろされていくけど、過呼吸みたいな体の異常はない。

 いつもシャワーの前に感じる、あの息苦しさはない。


 不意に足先に感じるお湯の感触。

 思わず全身に力が入る。幸助さんの服に後をつけたかもしれない。

 降下がとまり、私のことを気遣う気配があったけど言葉はない。


 思ってたより大丈夫そう、かな。

 全身の力を抜く。



 抜くことができた。



 降下が再開し、そして完全に止まった。

 たぶん幸助さんはもう座れたんだと思う。


 思ってたほどお湯が足に来ないのは、私がまた幸助さんの膝の上に座っているからだ。

 おそるおそる目を開けると、さっき見た部屋の内装が見える。

 隅に靴下をいれる籠がいくつか置いてあって、私の靴下ともう一回り大きな靴下が同じ籠に入ってるのが見えた。

 入る時に聞いた音はこれだったか。


 そして足元。

 当然ながらお湯が張られている。

 でももう、不思議と嫌な感じはしない。


「あー、えーと。何になさいますか?」


 !?


 口から心臓が飛び出るかと思った。

 危うくお風呂に落ちかけたけど、幸助さんが支えてくれた。

 私この人の前でこんなに甘えちゃってたのか。店員さんが女性であることが唯一の救い。


「ケーキセット、モンブランと季節のケーキが一つずつ。飲み物は二人ともロイヤルミルクティーで」


 ここに来る途中に話し合ったメニューを注文する。

 だけど、店員さんは困ったような顔をして口を開く。


「すみません。今日モンブラン売り切れてしまっていて」


 時間が時間だし仕方ない。

 広い部屋の代償と考えよう。

 他に決める時間もないし、幸助さんと同じものでいいかな。あれもおいしそうだったし。


 『あなた』『同じ』『ケーキ』


 左手は幸助さんに捕まっているため動かせない。

 だから右手のみで伝えようとするけど、『あなた』と『同じ』はともかく『ケーキ』は片手じゃ無理。

 とはいえ左手で表す皿は大きな動作をするものじゃない。

 きっと通じる、というかよくよく考えたらケーキなくても通じるし無い方がよかったかもしれない。


「じゃあ季節のケーキ二つに変更で」


「畏まりました」


 注文を繰り返して厨房へ去っていく。

 正直いろいろ言われちゃうかと思ってたけど、全部スルーしてくれた。


 なぜか予想と別の方向に疲れちゃったし、しばらくじっとしよう。

 ここ幸助さんの胸の中だから落ち着けるかは分からないけど、周りが水だらけで唯一安心できる場所であることは変わらない。

 あー、でもあの店員さんまた来るのか。

 じゃあ流石に膝の上からはどいた方がいいかな。


「そろそろ隣に座る? って、どうしてそんな不満気な表情なのよ」


 そりゃあ不満だからだよ。

 女の子にとって彼氏の膝の上が一番居心地良い場所にきまってるんだから、そこから移動するのは不服以外の何物でもない。

 でも公衆の面前でこのままなのも問題。

 しかたなく、幸助さんの膝から降りる。


 すんなり立つことができたことに驚くも、すぐに幸助さんの横にぴったり引っ付く。

 浮いていたから分からなかったけど、湯船の底はざらざらしていて滑らないような工夫が施されていた。

 久しく温泉とか銭湯とか行ってなかったからもう馴染みなんてないんだけど、温かいお湯というのは存外気持ちいいものだということは思い出すことができた。

 まだ浸かるというのは想像できないけど、こうして足をお湯につけるだけなら大丈夫そうだ。



「ケーキセットお持ちしました」


 しばらくしてケーキが届く。

 お盆が二つ、に足がついていて簡易的なテーブルになるタイプだ。

 個室にテーブルがなかったからどうやってケーキを食べるのかと思ってたけど、あれを膝の上なり席の横なり好きな場所に置けば大丈夫そうだ。


 お盆の上にはケーキと紅茶。

 あれ、キウイじゃなくてマスカットのケーキだ。

 予想外だったけどこっちはこっちでなかなか美味しそう。


「ありがとうございます」


 幸助さんに倣って店員さんに会釈する。

 声は出せないけど伝わってくれるものも多い。


「素敵な彼氏さんね」


 こくっ。


 自信を持って頷く。

 顔が熱くなったのはきっと足湯の所為だと思う。


 その日私は、ふくらはぎくらいの水位なら水の中を歩けるようになった。

 もちろん、幸助さんに手をひかれてという条件付き。





 こうして、私のリハビリ生活は今までの停滞が嘘のように順調に進んだ。

 水への恐怖はまだまだ強いけど、それは必要なこと。忘れちゃいけないこと。

 その上で、正しく怖がらないといけないと言われた。

 幸助さんらしい言葉だと思う。


 ひょっとしたら前も同じような言葉を言われたかもしれないけど、あの頃は他人からの言葉に耳を傾ける余裕なんてなかった。

 お世話になってる病院にある、リハビリ用のプールでの出来事を振り返る。


 一回目は論外。

 水着に着替えることができなかった。

 水に入るための衣に着替えるということにどうしても抵抗があって、幸助さんとの待ち合わせ場所までたどり着けなかった。


 に、二回目なんてなかった。

 家の中で服の下に水着をきて、障碍者用の更衣室に職員さんと幸助さんとの三人で入り、幸助さんに服を脱がせてもらったような気もするけどきっと気の所為。

 だって記憶があやふやだもん。


 三から五回目くらいまでは、プールの周りを歩いて一周したところでエネルギー切れ。

 幸助さんはせっかくだからと泳いでた。

 私と違ってかなり泳げるようで、普通に何往復か足をつかずに泳いでた。

 二五メートルを一度も水面に顔を出すことなく潜水で泳ぎ切った時はちょっと退いた。


 ――いやいや。二五メートル程度なら息継ぎなしとか普通だよ。むしろ身体能力高くて息継ぎ苦手って人ならそっちのが簡単って人結構多い。あんまりそれを泳げるって評価するつもりないけど


 いつも言ってる雑学以上に意味が分からなかった。

 あと幸助さんの"泳ぐ"のハードルが高いことだけはなんとなく分かった。


 プールの淵に座って足湯みたいにふくらはぎから下を水につけることができるようになった。

 腰くらいの位置まで水を張ったプールで歩けるようになった。

 胸くらいの位置まで水を張ったプールで歩けるようになった。


 もちろん、最初は五メートルも進まずにぐったりして逃げかえるようにプールを去った。

 でも私にとって、今までどうすることもできなかった存在相手に意識を失わずに逃げることができただけでも大した進歩だ。


 そして今日はなんと、ついに水に頭を全部沈めることまでできた。


 二年間全く進まなかった時計の針を少しずつ動かして、無理やりな部分も多かったけど壊れずにここまでこれた。

 昨日できなかったことだろうと、明日もできない訳ではないと証明できた。


 プールのあとはviolet(足湯カフェ)で癒しの時間。

 お湯につかるという行為が癒しになるなんて、ちょっと前の私に言っても信じて貰えないと思う。

 私にとって入浴、というかシャワーは体の汗や汚れを払う作業という面倒なだけの行為で、しなくていいなら絶対しなかった。


 それが今なら、プールで消耗した精神を回復させるためにわざわざ足を運ぶほど。

 ちゃんとモンブランは食べれたし、キウイの奴も美味しかった。

 ちなみに個室の時もあるけど、今は閉店間際とかじゃないから二人掛けの席に並んで座っている。

 外の景色が見えるカップル席と言われた。


 『すみれ』『ようやく』『ここまで』『来る』

 『そろそろ』『次』『考える』『タイミング』


 『うん』『ここ』『まで』『あっという間』 『貴方』『おかげ』


 そのvioletだけど、何故か今”声のない時間"という企画中らしい。

 案内の時に聞いたけど、今の時間帯は注文の時でさえ喋ってはいけないという説明を受けた。

 普段はあまり手話をしない幸助さんが手話で会話していたのはそういうこと。

 注文はメニュー名と個数欄が載った専用のホワイトボードを使っていた。

 この前はなかったはずだけど、手元のメニュー全てに番号が振ってある。


 最近は一言も話さないで会計できる店の需要が増えたからみたいな説明を受けたけど、明らかに私の影響を感じる。

 幸いなことに店の雰囲気は悪くない。

 ジャズ系の音楽(歌詞のないタイプ)が流れていてすごくおしゃれだと思う。

 一回目は周りに気を配る余裕なかったけど、この音楽は前からなのかこの企画がはじまってからなのか。


 受付でホワイトボードの無料貸し出しを行なっていたけど辞退。

 自前のスケッチブックを使っても良かったんだけど、周りがホワイトボードばっかりなのに一人スケッチブックを取り出す勇気が出なかった。

 辞退したけどやっぱりホワイトボードを借りるか一瞬迷い、手話を使えるというちょっとした優越感がこのままで良いという結論を出した。

 スケッチブックが駄目で手話ならOKという謎の線引きは、幸助さんならどう判断するんだろうか。


 『次』『段階』

 『すみれ』『声』『出す』『好き(出したい)』『一番』『理由』『何』?


 もちろんまだ泳げるようになった訳じゃないのでこれからもプールに通う予定だけど、ここまでくれば後は普通に泳ぐ訓練と変わらない。

 泳げるようになる目的は割と不純なもの。

 二人っきりでボートとか、スキューバーダイビングとか、泳げるようになったらしたいことがたくさんある。というよりできた。正確に言うなら唆された。


 『すぐ』『決める』『必要』『ない』『けど』『考える』『お願い』


 こくっ


 声を出せないことと水が怖いこと。

 実は幸助さんはこの二つをあんまり関係がないものとして扱っている。


 泳げるようになったら即声が出せるなんて思ってない。

 それは私の周りの人も同意見。


 水の克服はどっちかというとできそうだからやった、らしい。

 一日目の私を見て判断したそうだ。

 ……否定できないけどこの納得のいかなさは何だろう。


 『すみれ』『声』『届けたい』『人』『誰』?

 『伝えたい』『声』『何』?


 例えば、私は幸助さんが好きと伝えたい。

 でも、それは”声”というツールである必要がない。

 手話でも文字でもいい。幸助さんにとってそれらの価値は変わらない。


 なら、私が伝えたい()は誰に対して?

 それは、どんな言葉?


 私は声が一切存在しない空間で、しばらく次に出す声について考えていた。



 ――――。

 ――――。


-------------------------------------


    今日一緒に

    お風呂入ろ!

-------------------------------------


 椛をお風呂に誘う。

 ギョッとされた。


 流石に失礼、とは言えないかな。

 高校生ともなると姉妹で一緒にお風呂とか相当仲良くないとしない。


 私達はきっとそっちはクリアできてるけど、別の問題がある。

 声が出なくなってしばらくはそういう機会もあったけど、私がシャワーを浴びれる様になってからは全くない。

 何せ私は、そういう苦痛な時間をなるべく短くして暮らしてきた。


 椛も、きっと私の心配で心が安まると言う事はなかったはずだ。

 それにもう一度挑戦してみよう。


 『私』『もう』『お風呂』『入る』『できる』『思う』


「じゃあ今日は一緒にお風呂だね。お義兄さんとの特訓、上手くいってるんだ?」


 こくっ


 立ち止まることもあるけど、それでもここまでびっくりするくらいスムーズにことが進んでいる。


 『まだ』『泳ぐ』『できる』『ない』『けど』『足』『湯』『気持ちいい』


「やっぱりお義兄さんはすごいなぁ」


 椛はどことなく憂いを帯びた表情で賛成してくれた。

 ちなみに幸助さんも最近よくこの表情をする。

 私の特訓が順調なのはここまで土壌を整えてくれたもみじちゃんのおかげ、みたいなことをいつも言ってる。


 お互い私のリハビリが順調なのは相手がすごいからだと信じて疑わない。

 私は幸助さんと椛、二人ともすごいことを知ってるからどっちも正解だと教えてあげたい。

 けど、どっちに言ってもいなされてしまい上手くいかない。


 私挟んで喧嘩するのはやめてほしいけど、きっとこのもやもやは声を出せるようになったら解消される。

 だって今は二人とも、私に罹りっきりになってしまって余裕がないだけ。

 その余裕がどうやったら取り戻せるは明白で、しかも私はそこに着々と進んでいっている。



「お風呂楽しかったね」


 こくっ。


 それと新たに手話の弱点を発見した。

 鏡越しに見ると違和感があって、自分で見ててもちょっと分からなくなった。


 椛は自分で私と同じ動作をしてようやく意味を把握。

 背中の流しっこをしたのだけど、当然二人とも顔は同じ方向を見る。

 だから鏡越しに目を合わせるんだけど、手話まで反転してしまった。

 鏡文字もそうだけど、落ち着いて考えればすぐに分かるものも、素早くされたら分からない。


 だから久々に姉妹で手話クイズをやった。

 私が使う手段のはずだったのに椛の方がずっと上手くて、自分の不甲斐なさに泣きそうになったっけ。

 今思えば、必死に勉強していた椛となぁなぁに流してた私で勝負になる訳がなかったんだ。

 椛に教えてもらいながら、私は一つ一つ手話を覚えていった。


 今日はちゃんと椛が出す手話クイズに全問答えることができて、あの頃よりずっと先にいることを実感できた。

 手話を覚えてなかったら、幸助さんと今みたいな関係じゃなかったはずだ。

 少なくとも、私の方は手話を覚えてくれる優しさに惹かれた部分が多大にある。



「はいこれ。新作」


 椛に絵本を渡された。

 お母さんの伝手でかなり本格的に製本されて、素人の作品とは思えない完成度。

 二匹の鳥が表紙を飾っている。


 『ありがとう』『私』『椛』『作品』『優しい』『好き』


「部屋に戻ってから読んでね。感想とかもいいから、恥ずかしいし」


 そう言って椛は自分の部屋に行ってしまった。


 声を出せなくなって、無味乾燥な日々をただ時が流れるまま過ごしていた。

 椛は、そんな私をいつだって元気づけようとしてくれていた。

 絵本を作ってくれるようになったのもその一環。


 今までに作ってもらった作品は、私の宝物として部屋の本棚に収まっている。

 何か嫌なことがあったり、何もできなかったり、気分が沈んだ時はよくこの絵本たちを読み返して勇気をもらっていた。


 そういえば最近手に取ることがなかったな。

 今までは落ち込んだ時に呼んでいた本を、今はただ読みたくなったから読み返そう。


 一冊目は猫がごろごろ言うのはなんでだろうと秘密を解き明かして行くお話。

 実は猫は関係なく人間の声帯がどうなっているのかをコミカルに説明する本だったりする。

 高い声、低い声。大きな声、小さな声。

 考えてみれば当たり前なんだけど声帯の正体は筋肉で、声帯と舌を意識して動かすと声になる。


 二冊目は声を出せない雪だるまが、自分を作ってくれた子供に"ありがとう"を伝えるお話。

 ただ、雪だるまは口を作ってもらえなかったため声を出せない。

 それでもなんとかして作ってくれた感謝を伝えようと決心する。

 結局最後の"う”が反転してしまったけど、ちゃんと子供にどういたしましてと言ってもらうことができた。


 そして、今貰った三冊目は恥ずかしがり屋のカナリアが大勢の前で歌をうたうお話。

 友達のヨウム(オウムの仲間らしい)の頼みでデュエットすることになった主人公のカナリア。

 歌の発表会に向けて練習するも最初はしり込みして失敗ばかり。

 スズメやシジュウカラの協力もあって、本番では素晴らしい歌を披露して拍手喝采だった。


 全部で三冊。

 この世で一冊ずつしかない、どれも私の大切な絵本だ。

 ページ数が少ないそれを、時間をかけてゆっくりと読み進める。

 新作は三周も呼んでしまった。


 どれも優しい物語で、絵だって水彩調で可愛らしく描かれている。


 私のためにかかれた、私のための本。

 私を想ってかかれた、私のためだけの本。


 たぶん、幸助さんはちゃんと最初から分かってた。

 私が声を出すために、最も必要なきっかけ。

 私の声を世界で一番待ち望んでいる人。


 私の声はどんなだったかな。

 自分じゃもう思い出せないけど、それでも取り戻したい。

 今までは特にそこに意志はなかった。


 でも、私はこれまでにないくらい明確に先に進みたいと願ったんだ。



 次の日の朝。

 蘭ちゃんの散歩を幸助さんに付き合ってもらった。


 「じゃあ問題は、椛ちゃんに何を伝えたいかだね」


 ……『ありがとう』?


 まだまだ暑さが厳しい。

 この時期の散歩は日の出前の明るい時間に出発して、日が出てくるくらいの時間帯に帰ってくる感じだ。


「うん。それはちゃんと伝えてあげて。でも、一番じゃなくていいよ」


 『どうして』?


「どっちかって言うとそれは過程の言葉じゃなくて結果に対する言葉だからね」


 ……。


「まぁ不満な気持ちも分からなくはないよ。例えこれから一生声が出なかったとしても椛ちゃんへの敬意とか感謝はなくならないからね。だけど、もし俺がもみじちゃんなら、すみれの第一声がありがとうだったらちょっと、いや。んー。難しいな。第二希望が通った、みたいな? とにかく、その喜びは最上位の物じゃない」


 ちょっとよく分からなかったけど、感謝して困らせたくはない。


「もちろんそれを気にして声を出せないままでいるよりはずっと良い。俺は一分一秒でも早くすみれの声を取り戻せって椛ちゃんに言われてるからね」


 その台詞、私にも聞こえてた。

 椛があそこまで追い込まれていたことに気付けなかった。


 あの子、意外と溜めこむ性格だったみたい。

 昔はそうじゃなかったから、やっぱりそれは私の所為。


 ――――。

 ――――。


-------------------------------------

     私は椛を

  これでもかというほど

    甘やかしたい

-------------------------------------


「だったら、やっぱり必要なのはありがとうの言葉じゃない。もちろん第二声は感謝の気持ちがいいと思うけどね」


 なるほど確かに。

 私はどっちかというと、椛にありがとうと言って欲しい。

 今はただお世話になりっぱなしだけど、椛を甘やかしたいならそうはいかない。


 ……『椛』『もうすぐ』『誕生日』


「あー。そりゃ秋生まれだよね。その名前で秋生まれじゃなかったらびっくりだ」


 (もみじ)紅葉(こうよう)の季節に生まれた秋の申し子。

 ――――。

 ――――。


-------------------------------------

    誕生日の歌を

  歌ってあげたいです。

   子供の時みたいに

-------------------------------------


 まだ声を失くしてしまう前。

 誕生日の歌を家族みんなで歌って、椛に喜んでもらった記憶が甦る。


 その歌をもう一度届けよう。


「うん。良いと思う」


 『私』『あなた』『お願い』『ある』

 『もう一度』『椛』『家庭』『教師』『挑戦』『お願い』


「それは構わないけど。椛ちゃんってかなり頭良いしそこまで必要ある?」


 幸助さんが少しだけ難色を示す。

 幸助さんにとって椛の家庭教師は私のついで。

 そもそもプロじゃない幸助さんが教えることに対してそこまで自信を持ってないことも知ってる。


 だけど、ただ勉強を教えてくれるだけの人に妹を任せる気はない。

 きっと幸助さんなら、椛の未来に親身になって考えてくれる。


 ――――。

 ――――。

 ――――。

 ――――。


-------------------------------------

   今まで椛はすっと

   私のために時間を

   使ってきました。

-------------------------------------


「その時間を返したいってこと?」


 ふるふるっ


-------------------------------------

   これからは、椛に

  ちゃんと自分の時間を

  過ごしてほしいんです。

-------------------------------------

-------------------------------------

 だから椛の誕生日を節目に

  私は時間を与える側に

    なりたいです。

-------------------------------------


 返す、じゃ足りない。

 満足できない。

 だって私はあの娘のお姉ちゃんだ。


 ――――。

 ――――。


-------------------------------------

   私と一緒に椛の

したいことやなりたい自分を

 自覚させてあげせんか?

-------------------------------------


 今はまだ私が何を言っても、椛には聞く余裕なんてないと思う。

 必死に、一生懸命に、死に物狂いで生きてきた。


 それこそ、未来なんて考えてないんじゃないかと言うほど。

 それは仕方のないことだったのかもしれない。


 ()()()()


 これから私は、今までサボって来たお姉ちゃんをもう一度始める。


「そうだね。俺だって仮にももみじちゃんの義兄(あに)になるんだ。だったらちょっとはそれっぽいことしないとね」



~~~~~~~~


「はっぴば~すでぃ、とぅーゆ~♪」


~~~~~~~~



「お姉ちゃん。どうしてお義兄さんが絵本のことについて知ってるのかな?」


 なんとか椛の誕生日までに声を取り戻すことができた。

 幸助さんと一緒に夕食の後片付けをして、玄関まで見送った後に自分の部屋に戻ると椛が私のベッドに腰掛けていた。


「ごめんね。でも見せちゃだめって思ってなくて」


 椛の隣に座る。

 絵本見せちゃ駄目なの?

 あれ私の宝物なんだよ。


「駄目じゃないけど、駄目じゃないけど恥ずかしいから駄目なの!!」


 哲学かな。


「私は椛のえほん、すきだよ。だいすき」


 照れた。

 可愛い。

 照れ隠しか知らないけど、抱き着いて来たので受け入れる。

 えへへ、椛に抱き着かれちゃった。


「むぅ。だってそれ、猫と人間の声帯が違うって知る前に描いた奴だし、絵柄も今と違うし」


「あ、やっぱり三冊目って最近かいた本じゃないんだね」


「……」


 椛の頭を膝に乗せて撫でる。

 お姉ちゃんに隠し事なんてできませんよ。


「……ちょっと内容が直接的過ぎたと思ったの。でも、お姉ちゃんのトラウマ刺激したとしてもお義兄さんがなんとかしてくれるかなって」


 声を出せないカナリアが歌うための物語。

 確かに、二年前の私じゃたぶん受け入れられなかった。


「幸助さんとあう前でもきっと大丈夫だったかなぁ。たぶん春のおわりごろ以降で調子の良い日」


「そうだね。その頃からお姉ちゃん人と関わっても暗い表情をしなくなった」


 椛とは毎日話をしている。

 これくらいのこと、見透かされてても別に不思議じゃない。


「そろそろ渡しても大丈夫かなって時に、お姉ちゃんが運命の出会いをしたって大騒ぎして。絵本渡せなくなっちゃった」


「……大騒ぎは言い過ぎじゃない?」


「その時までのお姉ちゃんを考えたら充分大騒ぎだよ。それで実はさ、私お義兄さんのこと直接会うまで信用してなかったんだ」


「そうだったの!?」


「うん。振られて心の傷が開くの覚悟してた」


「幸助さんはそんなことしないよ」


 チョットむっとする。

 悪く言われた訳じゃないのに、面白くない。


「うん。ホント良い人だよね。お姉ちゃんがふにゃふにゃになっちゃうのも分かる」


 ふにゃふにゃ。

 否定できない。


「……椛は幸助さんを好きになっちゃだめだからね」


「分かってる。でも、あの好きな人に向ける愛情の深さに当てられると羨ましくもなるんだよ。彼女いる男性はモテるってやつ」


 私は幸運だ。

 幸助さんと椛、彼氏と妹に溢れるほどの愛情を注がれてきた。

 今度は私からも、改めてそう決意する。


「いままでたくさん心配かけたね」


「これからも、だよ。流石に肩の荷は下りたから大きさも頻度も減るだろうけど、私は一生お姉ちゃんの妹だもん」


 えー。

 私そんなに頼りないかなぁ。


「私はお姉ちゃんが完璧超人だったとしても心配くらいするよ。家族だもん」


 これで優しくないとか、椛の自分に対する厳しさはどんな基準で判定しているのやら。

 やっぱり甘やかさないと。


 それはそれとして


「ところで椛、幸助さんに変なこと言わなかった?」


 ビクッ


 肩を震わせるのを視覚と触覚で知る。

 余計なこと言った犯人は椛だったか。

 あとはお母さんしか容疑者いないからすぐわかる。


「よくそれで絵本のこと言えたよね」


「別に、お姉ちゃんに不利益な情報を渡した記憶はございませんですわよ」


 言葉遣いがおかしくなってる。

 幸助さんが私について余計なことを知ってたことは一回や二回じゃない。


「あんまり変なこと吹きこまないでね」


「最近シュークリームの練習してることとか?」


「なんで知ってるの!? だめだよ。相手は既製品だからせめてなにか一つでも勝てるようになってから」


「えー。お義兄さんそういうの気にしないんじゃない?」


 気にしなさ過ぎるのも考え物なんだよ。

 絶対美味しいとは言ってくれる。

 そこに疑いなんてない。


「椛は自分の作った料理で美味しいとしか言われなかったらなんかもやっとしない?」


「あー。うん? うん。ん?」


「気合いれて作った料理とレトルトで同じ反応なんだよ。悔しいというかなんというか。悪い意味で好き嫌いがないというか。普段の食事はそこまで気を使ってないみたいだけど、お菓子とかの嗜好品は好きで食べてる分まだなんとかなりそうなの」


「……お姉ちゃんのご飯はちゃんと美味しいよ?」


「ありがと。明日何食べたい?」


「んー。栗ご飯」


「もうそんな季節だもんね」


「秋は実りの季節。現代だとあっという間に過ぎちゃうからそのぶんしっかり堪能するよ」


 その日の夜はちょっと言い争いみたいなことをしつつ、それ以上に楽しく会話して、何年かぶりに姉妹同じ布団で寝落ちするまでいろんなことを語り合った。



「こんにちは」


 violetに失声症が治ったことを報告したら、相談があるとのことで幸助さんと一緒に足を運んだ。

 第一声は声でのあいさつ。

 "声のない時間"が何故か受けたらしい。今店内はその企画を実施中。

 ただ、店先部分はその辺臨機応変に対応してくれる。

 会計の時も率先して声だしてもいいですと言っているみたい。


「はい、こんにちは。お持ちしておりました。こちらへどうぞ」


 一番最初に案内してくれた女性店員に応接室に案内された。

 飲食店部分とは完全に独立したスペース。


 まずはお互い簡単に自己紹介。

 なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど、案内してくれた人が店長さんだった。


「先に言わせてください。声、治って良かったですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「快気祝いです。新作のケーキをご馳走します。飲み物も好きなの頼んでください。もちろんこれは快気祝いですからこれからする頼み事は関係ありません。なんなら録音してもらっても構いませんよ」


「アイスココアをお願いします」


「私はりんごジュースお願いします」


 私たちはもう常連なので、フェアでもない品ならメニューを空でいえる。

 録音云々は幸助さんに倣って無視した。


 ほどなくしてケーキと飲み物がやってくる。

 普通にお客さんとして来た時より早いかもしれない。


「さて、とっくに気づいていると思いますが、声のない時間という企画は君達をモデルにしています」


 こくっ


 つい癖で大げさに頷いてしまった。

 もう声を出せるけど、しばらくこういった癖は抜けないと思う。


「ある程度結果を残すことができたので、今度はそれを動画等でどんどん拡散していきたいと考えています。その時、声は出せませんが手話は大丈夫です、みたいなシーンを撮りたいので、その手話内容を君達に指導してもらえないでしょうか? もちろん、これは正式な依頼ですので報酬は出します」


「指導、ですか? でも私、手話系の資格とか持っていません」


「僕もですね」


 私の手話は全部自己流。

 それに、家族や幸助さん以外と話したことはない。


「ふむ。それは確かにあった方が良いですがあまり関係ありませんね。私は、手話ではなくて貴方達ふたりに可能性を見ました」


 一気に顔が熱くなったのでりんごジュースを飲み干す。

 すぐにお代わりが出てきた。

 なんというか、圧を感じる。


 幸助さんはなんで平気そうなんだろう。

 そう思ってなんとなしに幸助さんの方を見ると目が合った。

 微笑みかけられたので私も笑い返す。


 視線を戻すと店長さんがニコニコしていた。

 余計に恥ずかしくなってしまった。


「もちろん貴方達の顔と名前は表に出ないようにします。それとも出したいですか?」


「その辺は話が決まってからですね」


 幸助さんが店長さんの言葉を遮る。


「そうですね。私としたことが焦っていたようです。申し訳ありません」


 幸助さんと店長さんが私の次の言葉を伺っているような気配を感じる。

 え、私次第なの?


「幸助さんはどう、思う?」


「すみれが受けたくないなら受けない。迷ってるなら受けた方が良いと思う。あと顔出しはやめてほしい」


「どうして?」


「その質問、受けたくないなら受けない、に対して?」


 ふるふるっ


「つまり、受けたくない訳ではない」


 こくっ


「まず、心の病って再発が怖い。ネットに顔出すのは躊躇する。俺の反対押し切ってでもやりたいって意志が必要」


 こくっ


「そのうえで、今後生きていくに当たって人と関わらない生き方を選んでほしくない。今の時代、やろうと思えば家から一歩も出ずに、出たとしても極力他人と関わらずに生きていくことはそう難しくない」


 言いたいことは分かる気がする。

 私は、椛が外に連れ出してくれなかったら一生引きこもりに近い生活を送っていたと思う。

 それはそれで、二年前の私なら歓迎したと思う。


「それでも世界と関わることをやめて欲しくないんだ。単なる好みの問題かもしれないけどね」


 でも、その場合私は幸助さんと会えなかった。

 外に出て、楽しいことがたくさんあった。


「わかった。私もちょっとやってみたい」


 それに、この店には水への恐怖症克服を手伝ってもらった。

 恩返しになるかどうかは分からないけど、頼まれたからは役に立ちたい。


「そうだね。単なる同情じゃなくて、理由あって指名された訳だ。この店の客層的にけっこうな割合でカップルがいたと思うけど、その中でも特に印象深かったって言われたようなもの。それはちょっと誇らしいと思わない?」


「それはちょっと違うんじゃ?」


「いえ、その通りよ」


 店長さん直々に店一番のバカップルと言われた気がする。

 そりゃ、いっぱい甘えちゃって、幸助さんも何も言わず受け入れてくれるものだからちょっとハメを外し過ぎっちゃったところもあるけど人前でそんなイチャイチャなんて……してた、かもしれない。


 でもそんな一番だなんて、一番。……一番の仲良しさん、か。なかなかいいかもしれない。

 確かにこれはちょっと誇らしい。


 うん、なかなかいい気分。

 ソファーに座りなおしてお尻の位置をちょっとだけ幸助さんの方に寄せる。


「ん? そういやすみれの学校ってバイトできたっけ?」


 言われて初めて気付く。

 校則とか確認したことない。


「周りにベイトしてる人はいないです。駄目……かもしれない」


 確かクラスの誰かがバイト禁止について文句を言っていたような気がする。

 少し雰囲気が暗くなった。

 私だけじゃなくて、店長さんと幸助さんも一緒だ。

 どうしよ。


「あ、あのっ。もし禁止だったら」


 禁止だったら?


 断ることは簡単。

 広告動画作成はまだ始まってもないんだから誰にも迷惑かけたりしない。

 それに、私が関わったところでそこまで良い作品になるとは限らない。


 隠れて実行するのもたぶん難しくない。抜け道はいくらでもある。

 ぱっと思いついたのは、幸助さんの名前で引き受けて、幸助さんの財布に一端入る。

 私は幸助さんから間接的に報酬を受け取る。


 でも、そうしちゃったらたぶん私の意志は消える気がする。

 それは嫌だ。


「禁止だったら、学校説得するのでちょっと待ってください!」


 なんというか、上手く言えないけどどうしても抜け道じゃなくて真っ直ぐを通したい。

 いつのまにか俯いていた顔をあげて意志を伝えた。


 ……キョトンとした空気を感じる。

 どうしよ、何か間違ったかな。


「あ、あのっ。たとえ駄目だったとしてもきっと例外措置くらいあると思うんです。別に中長期的なものじゃないですし、そこまで厳しく取り締まったりしないはずですけど、もし駄目だった時は学校を説得するのを手伝って欲しい言いますか……」


「いえ、すみません。そこまで乗り気になって頂けているのは思っていなかったので」


「見た目より積極的だから初めてだと面食らいますよね。僕もそうでした」


 これは、褒められてる?

 よく分からない。


「もちろん構いません。ただ、やっぱり期限は欲しいですね」


 具体的な日程を詰めていく。

 少し楽しい。

 今までは蘭ちゃんと幸助さんくらいしか予定を合わせなかったけど、これからは違う。

 椛? 私の予定を調整するマネージャー的な立ち位置かな。


 バイトなんて、少し前の自分では考えられなかった。

 でも、なんかよく分からないけど私はもう実質スカウトされたようなもの。

 恐ろしい速度で社会復帰してる気がする。


 いや、ホントに気の所為。

 私はまだ、たくさんの人に支えて貰わないと生きていけない。


「あの、どうにかして私達の名前を動画とか、その説明文に入れることってできますか? 端っこの方で良いんですけど」


「それはもちろん構わないけど、大丈夫ですか? 貴方は……」


 私は心因性の病気を患っていた。

 今は完治してるはずだけど、たぶんこういう不安は一生抱えていくと思う。

 こういう心配は、一生受けてしまうと思う。

 それを迷惑だなんて思わない。


「あのっ、ちゃんと私がそれに関わったって証拠が欲しいんです。私なんかが図々しいかもしれませんけど、それでも痕跡を残したい、です」


 それでも、閉じこもってばかりじゃいられないと、そう思ったから私は外の世界と関わることにしたんだ。


 だから、もう一歩だけ。

 私の足で進めますように。

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