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ほぼ実話&エッセイ あれこれ

バジルは自前にかぎる

※柴野いずみ様の企画「スパイス祭り」に参加したエッセイです。

 かつて実家では家庭菜園をしていました。

 トマト、茄子、ピーマン、さつまいもなんかを庭に植えていました。

 ちょっと日陰には山椒の木、紫蘇、みつばなどもありました。


「お吸い物のみつばを取ってきて~」

「筍の煮物用に山椒の若芽を摘んできて~」

「素麺だから紫蘇を取って~」

「押し寿司用に馬蘭(バラン)が欲しいわ~」


 母にそう言われ、庭に出るのはしょっちゅう。食べやすい柔らかい若芽や葉を選んで摘むのはいつも私の仕事でした。

 何故私の仕事だったのかはわかりません。長子だからというのもありましたが、思い出してみると弟たちは手当たり次第に何でも摘んでいた気がします。

 成長しきって固くて食べにくい葉も摘んできちゃうから、私に任せた方が良いという判断だったのかもしれません。


 そんな感じだったので、私は虫やミミズなんかも抵抗の無い子どもに育ちましたし、収穫の喜びも僅かながらに知っていると思います。

 独り暮らしを始めると、ベランダで小さなプランターにミニトマトや紫蘇、わけぎ等を植えて育てていました。観賞用の花は無し。実用性重視です。


 そんなある日、近所の花屋さんでバジルの苗に出会いました。

 黒いビニールポットに入った小さな苗。値段はたったの100円。白い値札には「バジル・シソ科」と書いてあります。それを見た私はこう思いました。


(バジルってシソ科なのか! 紫蘇の仲間なら素人でもいけるんじゃない?)


 プランターの紫蘇は、簡単な手入れだけで良く育ち、虫もつきにくく、料理の薬味として活躍してくれています。

 バジルの葉はスーパーで買えば1パック200円ほどしますから、100円で苗を買って一回ぶんだけでも葉が収穫できれば儲けものだと思い、育ててみることにしました。


 結果。大成功!……どころか。

 なんと、収穫しても収穫しても食べきれないほど沢山の葉をつけたのです。

 更に花をつけ小さな種まで幾つもできたので、それを保管して翌年植えたら弱々しかったですが芽が出ました。次の年も数回収穫できたのです。

 恐るべしバジルの成長力。多分スーパーで買ったら3000円ぶんはゆうに越える葉を手に入れました。


 勿論、摘みたてですからスーパーで買うより新鮮で爽やかな味わいです。

 バジルは自前で育てて食べるにかぎります!


 食べきれなくなった葉は乾燥させてドライバジルにしたり、ジェノベーゼソースにしました。

 ジェノベーゼソースはバジルと、オリーブ油、塩、にんにく、粉チーズ、松の実(無くても良い)を一緒にミキサーにかけるだけ。

 沢山作ってパスタやピザソースとして使えますし、冷凍保存すればわりと日持ちします。マジでおすすめです。


 給料日前のお金がない時に、保存しておいたジェノベーゼソースをパスタや素麺に和えれば、節約メニューとは思えない味わいでプチ贅沢気分を味わえます。

 プランターのバジルは独り暮らしの強い味方だったのです。


 そう。独り暮らしの強い味方でした。今は残念ながら育てていません。

 家庭を持ち引っ越した今の(マンション)が、ある理由からベランダ菜園が全くできなかったのです。


 これをお読みの皆さま、この「ある理由」って想像できますか?

 私は引っ越したあともベランダ菜園をするつもりでしたので、日当たりとかベランダの規約(プランターなどを置いても良いか)は確認していたのです。

 にも関わらず、住んでからベランダ菜園を断念することになりました。


 その理由とは……強風です。

 我が家はもの凄い強風が吹く家だったのです。

 正直、ナメてました。風が強いくらいなんてこと無いだろうと。実家も風が強いところでしたし。

 しかし、苗が薙ぎ倒され、プランターの土があっという間にカラカラに乾燥し飛ばされて無くなり、ひどい時にはプラスチックの植木鉢も倒れる強風。

 ああ、これは無理かも……と思い始めた矢先に、買ったばかりの四畳の電気カーペットを日干ししていたら(もちろん布団ばさみで挟んでました)布団ばさみごと飛ばされたのを見た時に心が折れました。


 電気カーペットが空を飛ぶ場所でベランダ菜園は無理だわ……と。


 一度だけ、子供が学校からミニトマトの鉢植えを持って帰ってきた時に風が比較的弱いところを選び、支柱にミニトマトの茎をしっかり結わえ、鉢ごと倒されないように固定し、土はビニールで保護したところ無事に生き残りました。

 ……しかし、一個も実が生らず。子供と一緒にがっかりしました。

 多分、雄しべの花粉が風で全部飛ばされちゃったんでしょうね……。トホホ。


 今はごくごくたまに、スーパーでバジルを買います。けれどマルゲリータやジェノベーゼにして食べると、あの時育てたバジルの味と値段を思い出して悔しくなります。

 バジルは自前にかぎる。


 いつか引っ越しする時があったら、新居は風が強くないか、絶対に確認しようと心に決めているのです。


お読み頂き、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 読み物として面白く実用的で体験談からくる教訓までとは、これぞエッセイの醍醐味ですね。 ベランダ菜園を始める切っ掛けになりそうな、惹き付けられるものがありました。 トッピングを増すだけでなくピ…
2022/11/18 21:23 退会済み
管理
[良い点] 凄いです♪ バジルの魅力満載ですね☆彡 めっちゃ面白かったです。 ありがとうございました(^^)v
[良い点] 「スパイス祭り」から拝読させていただきました。 楽しく興味深いエッセイありがとうございます。 我が家は猫の額みたいに狭いですが、庭があるのでバジルを作ってみたくなりました。 ミニトマトは去…
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