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本日未明より、世界各地で自らを異世界人と定義する思想を共有する集団が相次いで確認されています。
現在、政府は何らかの集団催眠、ネットワーク上での呼び掛けによる大規模な悪戯と見ており、発端の発見に努めており―――
つまらない会見の様子を写す画面を切り替える。次に写すのはテレビで活躍するとある二人をゲストに迎えた生放送だ。
『本日は生体学の専門家である、朽木旃那導師と、ハイパーリンク・エレメント広報作戦室特務大隊付き広報爆羅騎=イレイザームーンさん、ご両名をお招きしております。御二方、本日はよろしくおねがいします』
『夜露死苦!』
『( `・∀・´)ノヨロシク』
画面に写るのはさ髑髏の鉄仮面から碧眼の覗く大柄な男性―――爆羅騎=イレイザームーン―――と白に近いグレーの髪色にアクアマリンの瞳が気だるげに細められ中学生もかくやとばかりに小柄な魔法少女コスプレイヤーらしき少女―――朽木旃那―――体格差や外見の特徴的な二人組と、顔のいい美男子のアナウンサー。
『早速ですが、自らを異世界人ないしは転生者と名乗る集団ないしは個人が急増しておりますが、彼らの正体とは如何なものでしょうか』
『俺っち個人の見解としては、浪漫のある話だとしか言えねぇな。確かに不奇異な点はあるが、個人としてデータベースに登録されてる市民だからな。どうあっても誤魔化しは効かない以上は国民登録された個人本人ではある』
『(゜-゜)ワガクニハシミンケンヲホユウスルスベテノコジンニジユウトケンリトセキニンヲホショウスル』
『ま、そうだな。建前としてはそんなところだ』
『と、言われますと』
さらに個性を感じさせるのはイレイザームーンは軍属の広報としてはあり得ないほど適当な口調であり朽木旃那と紹介される魔法少女のコスプレをした可愛らしい少女が『(13)男』と態々テロップで明示されていることだろう。
『実際問題、別の人格であることは判りきったコトだ。専門家なりスレインの輩が調べる限りはな。ありえねぇが、実際に起こってる』
『(゜-゜)私が調べた限りではそのとおりだヨ』
『確かに、脳髄の活動は極端に低下しております。身体から得られる電気的刺激は脳髄に伝わらず何処かへ忽然と消えると』
『(゜-゜)脳波は良い指標になるケド、今回はなんの役にも立たなかったヨ。何も解らないこと、神経伝達的に脳が機能していないコトは解ったヨ』
訂正。
家事をしていて音だけ聞いていたから気付かなかったが、よく見れば朽木旃那と紹介された少女にしか見えない少年は口を開いておらず、手元のタブレット端末で合成音声を発しているのに今気付いた。
『話によりゃァ、異世界人を名乗ってる奴らは元の記憶に加えて出処不明の知識やなんやらを保ってると主張するのと、元の知識のないやつに分かれてるらしいな』
『(゜-゜)大多数の彼らにも詳しい理由はわからないけど、一部の人格は肉体と魂の記憶は別だから引き出せるかは個人次第と、案内人とやらに説明されたらしいヨ』
『ほぅ?それは初耳だ...別人格には悪いが法律に則っての対応はせざるを得ねぇし、そうなると知識のないやつに学を与えることもできねぇのはイタいな』
レイザームーンのコメントに苦笑いしつつグリルと鍋の番をしつつご飯をよそって朝食の用意を進めていく。
『(゜-゜)中学校には高校生は入れない』
『なるほど確かに。現状あらゆる公的な保証が適用されず十分な支援を受けられない彼らには辛い現実ですよね』
『保護者には脈略なく変化した自分の子供に責任を持たなくちゃならねぇから、犯罪でもされたら日頃の献身にも拘らず監督責任が降り掛かる。見ていられねぇよ』
『(゜-゜)裁判所は第二人格の形成は保護者の監督責任の不履行との見解を撤回するべき( ・ω・)』
『逆に言えばイレギュラーな法律の適用はないからこれから起こることについては予防できる代わりに、生まれによっちゃぁ大変だろーな、ってトコだ。スレインに発生したらお疲れ様。だね』
『周囲が監督さえ怠らなければ未然に防げることも多いですからね。そのためにも、一刻も早い事態の沈静化を求められます』
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よくある一軒家、中流家庭のよくある家庭。
ある程度裕福で子供の養育に困ることなく、両親も健在で人間関係も良好。
よほど向上心が強いか、我儘な性格でなければ満足できる。恵まれた家、それこそが鳴夜という家庭である。
テレビの音が鳴り響く鳴夜家のダイニングキッチンに立つのは、先日から忙しい仕事の合間を縫って積極的に家事を行っている鳴夜家長女鳴夜寧々だ。
「おはようございます、ミソギお姉さん、寧々姉」
「おはようございます、杏子さん」
「あれ?寧々姉はまだ起きてないんですか?」
「はい。昨日の残業でお疲れのようです」
ダイニングキッチンはッチンと広い居間を繋ぐ硝子のドアがダイニングに向かって開き鳴夜家次女杏子はおおらかな笑みを浮かべてミソギさんと呼んだ血縁上の姉である鳴夜寧々の作業風景を眺めながらぐでーっとテーブルに突っ伏した。
「昨日の仕事は寧々姉にしかできないやつでしたか」
「ええ。私でも代役は務まらなかったの。だから今日は昼まではお休みかもしれないわね」
「では、今日も家事手伝いよろしくくお願いします」
「はい。お任せください」
ぱあっと表情を明るくして張り切るミソギに杏子は複雑そうな困った表情を僅かな時間浮かべたが直ぐ様にもとのにこやかな表情を取り戻すとキッチンで盛り付け朝食を運んでくるミソギに期待に満ちた視線を向けた。
「今日の朝御飯はなんでしょうか」
「今日は寧々さんがお疲れですので、食べやすく精のつく和食にしてみました」
にこにこ。感情豊かにコロコロと表情を変えてミソギさんと呼ばれた少女は嬉しげに今日の献立を発表した。
「いただきます」
「はい。どうぞ」
「もやしと豆腐のお味噌汁、だし巻き玉子、焼いた秋刀魚、ほうれん草のおひたし、沢庵、野菜ジュース、ですか」
「はい。寧々さんは栄養価の偏った食事を好まれるので、私が起きている間は身体に好いものを、と」
「寧々姉がお世話かけます」
「お礼なんてしなくともよいのですよ。お世話になっているのは私の方ですから。普通の方なら私を不気味に思っても仕方がないですのに、丁重に扱ってくださるから」
幾分か申し訳なさそうに苦笑いした杏子にミソギは困った人を見るようでいてしかし隠しきれないほど好意を露にしながらお世話になっているのは自分だと杏子の謝意を筋違いではないかと疑問を杏子に伝える。
「それはミソギさんの配慮のおかげでもありますよ。寧々姉に代わって仕事や家事手伝いをしてくれてもいますから」
「代わってあげられないお仕事や及ばないこともよくありますから現状に満足はできません」
「それでも、ですよ。ミソギさんの不思議なチカラで寧々姉さんも元のまま生きてますから。それに代わりなれないなんてのは当たり前で代わられても困りますよ」
「そうですね。その通りです。今の発言は私の失言でした。失礼しました。ですが喩え代わりにはなれなくても私のチカラが完全ならもっとお役に立てるのですが、残念ながらこの世界では寧々さんの身体に心と魂を残したまま取り憑くことにしか活用できていませんから」
「驚くべき能力だと思うんですけど。そのチカラのおかげでお互いに齟齬はないですし」
「そうですね。この世界で捜し物をするだけならこれ以上は不必要ですから確かにその通りですね」
そんな他愛もない会話を楽しみながらミソギは食卓を杏子と囲むと下品でない程度に騒ぎつつ朝食を終えた。
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少しずつだけれど堅苦しさが収まってちょっとした友人関係くらいには和気藹々と会話を楽しむ杏子とミソギの二人は姉の身体を乗っ取った第二人格と憑依された姉妹の片割れとは思えないほど良好な関係で過ごし始めて三日の朝。
杏子はモグモグと美味しそうにミソギの手料理を食べ ミソギは杏子が食べ終わるのをにこにこと微笑んで待っている。
「ふぅ。ご馳走さまでした」
「お粗末様でした」
「今日も美味しかったです。寧々姉にも引けをとらないです」
「料理人の寧々さんに引けをとらないなんて嬉しいことをありがとう」
「私はミソギさんの手料理も寧々姉の手料理もどっちも大好きです。毎日でも食べたいくらいなんですから、私って贅沢だなー、なんて思うくらいに美味しいです」
「寧々さんも私もそう言われると毎日でも作りたくなってしまいいますよ。杏子さんはずるいくらい可愛いです」
「誉めてもなにもでませんよー?」
「そうですかー」
「そうですよー」
ミソギも杏子もなにかが可笑しくて暖かな気持ちで笑顔になり、もはや親友のように心を赦しあっている。世間に公表されている第二人格関連のニュースからはとても想像もできない暖かな日常が過ぎ去っていく。
―――ガタリ
「さて」
「おや、何処に行かれるのですか」
「学校に登校するのでその準備です。気にしないでください」
杏子は名残惜しそうにしつつも席を立つと、ミソギは杏子を寂しげに見据えると自分も一緒に歯を磨いて寝室で身体を休めようかと席を立つと、瞬きをして気分を切り替えた瞬間に目についた杏子の状態に目を見開いた。
―――とろり
目尻を垂れ下げて頬を紅潮させたミソギは杏子を後ろから抱き留めて耳元で囁いた。
「いえいえ。そうも行きませんよ。まだ歯磨きも、お風呂もまだでしょう。大丈夫です。優しくお世話してあげますから」
「え、いやっ、まっ―――」
「逃がしませんよ」
「ケーサツ呼びますよ!?」
「忘れましたか?私はあなたのお姉さんの身体ですよー?寧々さんと杏子さんとはどうあっても姉妹にしか見えませんし、そして今日に限って寧々さんは昼過ぎまでは起きてこないでしょう」
「は」
「は?」
「謀りましたねっ!?」
「その通りですが、なにか?」
「イヤぁー―――っ」
「さあ、ぬぎぬぎしましょうね―――?ふふふ」
何故か絆されているミソギは杏子をどうしてしまうのか!?
杏子チャンはミソギチャンにナニをされちゃうんでしょうね
いかがでしたか?今回はここまでとなります!
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次回投稿は6/29です!