スタートダッシュ - 外道の罠
スタートダッシュ───それは誰かより優れていたいとかコンテンツを早く消化したいプレイヤーが自主的に開催するプレイヤーズイベント───実際にはそんなモノはなく各々があると思い込み各々にルールを知っていて、形のない曖昧なもの...。
当然、他者を嘲笑うことに愉悦を感じるフィクサープレイヤーは真っ先に突入するイベントなのだが、それは一重に情報アドバンテージのためである。
多くの場合友達のいないタイプであるフィクサープレイヤーは、どうにかして情報を得ようとキャラメイクそっちのけで最速ログインを目指すのが常である───
───筈なのだが
それには例外がいないこともない。
それというのも、世の中には面の皮の厚い人間など掃いて捨てる程有り余っている。
その代表としてどこに出しても恥ずかしくない。それが識音学園の問題児三人の一人、仍侃那《ナオかんな》その人である。
「というわけで紹介するよっ」
「あー、どうもっす」
そこに居たのは【】という金髪碧眼の長身美少女で、学園のみならず周辺では名の知れた元女番長である。
「此方の方は何方かしら」
「それはね~!協力者第一号だよ~!」
「?」
「あー、えー、...【神無月因幡《カンナヅキいなば》】えっと、詳しく説明する必要はある...よな...?」
「出来ればお願いしたいですね」
「じゃあ俺が説明させてもらう。といっても、俺も説明なんざ得意じゃねぇから、あんまし期待しねぇでくれよ?───そこの馬鹿よりはマトモな言葉での説明は保証する」
因幡は説明があまり得意ではないと禊に告白する。
手は無意識に後頭部を掻き毟っており、自分らしくない行いにむず痒しさを覚えているのは禊と侃那の眼にも明らかな程だ。
───この馬鹿にはマトモな説明は期待できねぇし、誤解を招かないためには仕方ねぇよな。
ちらりと侃那を見遣った禊に、その視線の意味───説明がどちらがマシかを考えている───を察した は言葉を付け加える。
「じゃあ先ず、私らの関係からだな。───簡単に言えば私らは友達ってヤツだ。コイツとは特別仲が良いから親友みたいなモノだな」
「親友みたいなものって、親友じゃないのか~?ぶ~ぶ~!」
少し照れを含んだ因幡の紹介に、にやついた侃那は態とらしくブーイングでからかう。その悪戯な笑みに因幡は憤ったのか羞恥したのか...顔をカッと赤くすると勢い良く侃那に振り向いた。
「うるせェ、黙ってろ!」
(可愛い顔してどうして此処まで可愛げがないんだコイツ...!──ちょっと苛つく態度さえなけりゃ...いや、それはそれで私の嫌いなタイプだな..?)
「しょぼーん」
「チッ。その顔なんかムカつくな...」
嘘である。因幡は侃那のしょぼくれた顔にちょっとだけ萌えを感じてしまう。
───いやいやないない!ねぇから!確かにヲタサーの姫みてぇな奴だが...
「でへへ」
「褒めてねぇからな」
侃那ははにかんだ表情で照れた仕草を因幡に向ける。すると、 はさらに必死に隠した照れた仕草で悪態を返す。
───そんな甘い光景を見せつけられた部外者《ミソギ》は渋い表情でそれを煙たがっている。
それもその筈、長い付き合いから禊は侃那の完璧な美少女顔のはにかんだ表情に僅かだが意地の悪い感情が察せられたからだ。
(本当に、外面だけは好ましいものですね...?まあ、あれも彼女の一面といっても間違いではないでしょう。自覚なく態とらしい振る舞いをすることもありますから...)
───本人がその仕草を自覚的に行っているのかは時々によりますから、今のが天然物だったらとても微笑ましいものでしょうね───。
禊は微妙な表情を浮かべて因幡と侃那の惚気た雰囲気を遮った。その表情は仕方なさげな諦めにもにたものだ。
───まあそんなのと仲良くやっていけてるんだから気にしていないのだけど
「ねぇ、仲が良いのはよく分かったから経緯を説明してもらえない?」
「あっと、すんません。コイツと話してると乗せられちまうんで、適度に止めてくれるとスゲー助かる」
「お互い苦労するわね?」
「然ったくその通りで...」
因幡と禊は苦笑いを向けあった。侃那は何故か満足げで、誰ともなく自慢するように笑っていた、
「さて、説明させてもらうぜ禊さん」
「ええ。お願いね、因幡さん。そこの馬鹿のお陰様で話が逸れたわね」
「あっれ~?二人なんか仲良くなぁ~い?」
「お陰様でな」
「あなたのお陰ですね」
行きの揃った二人の言葉に嬉しそうに微笑む侃那。
「そぅ~?嬉しいなぁ~!」
「さ、あれは無視して説明を」
「了解した。あー、私が呼ばれた理由からだな」
「簡単に言えば、交渉の結果でな。私はアイツから招待を受けて珍しいゲームを遊べて嬉しい、アイツはリアルが互いに割れ合ってるプレイヤーが手に入って嬉しい、ってな感じだ」
大雑把ながらも要領を得た説明に、禊は頷く。
「あなたがリアルを話すことはないと信頼している、と」
「むず痒いが、そういうコトだな」
「で、私が頼んだのはプライベート配信で中の様子を教えてもらうことってワケ」
禊に聞かれて素面でそんなセリフを宣った因幡は侃那にそう言われた途端に表面的には嫌そうにしながらも赤面しながら照れているという、可愛らしい仕草を披露した。
「それであなたは何をするの?」
「禊は適当にやってていーよー。私は掲示板で面白いことがないか待機!」
「つまり、俺はコイツの人形になれって話さ」
侃那の適当な返しに半ば突き放すような言葉に聞こえてしまった因幡はムスッとした顔で侃那を軽く睨み付ける。
(チッ...。自分から誘っておいて放置かよ...?)
「まあ、それぐらいでゲーム一本分ならいいんじゃない?」
「コイツの操り人形になるリスクをとってもか?」
「それでも、よ。いざとなれば逃げればいいし、コイツだって強要はしないわ。───したら私がぶっとばすから、安心してね?」
───侃那はこういう時に頼りにならないわね。自分の趣味のコトになると途端に気配りがなくなるのは直してほしいわねぇ~...?
割って入った禊は嫌になったら私に頼りなさい、と に言って目配せをする。
因幡は目を見開くと儚く微笑んで頷きを返した。
「俺はそういうの言われたくはないんすけど...。───その時は宜しくお願いする」
「任せていいわよ」
「じゃ、説明も程程にして!早速ゲームに入っちゃってよ!」
「アナタのお陰様で遅くなったのですが...?」
「あーあー、知らなーい。じゃ、私帰って待機してるから、早めにね~?」
侃那は居心地悪くなり二人をゲームへとログインさせようとする。侃那のその態度に気に入らないと全面に出した因幡は先程同様怒りを宿した表情で侃那を睨み付ける。
しかし、先程と違って嫉妬など籠められておらず幾分か健全な恨みが籠っており、それを見てとった侃那は因幡はもう大丈夫だと判断して逃げた。
「チッ」
「分かりますよ、その気持ち...」
「あー、ほんとすいません...」
「あなたが謝ることではないですよ」
「いや、アイツを御しきれないのは自分の責任もあるので」
少しだけ、因幡は申し訳なさそうな顔をする。言葉は不条理に自責しており、表情からは不満や無理解が窺える。
───見ていられませんね...。
(あの馬鹿のせいで素敵な人が無理に怒ったり自分を否定して歪んでいくのはとても腹立たしくて見ていられません。...多分、これも同じで私が考慮する必要の無いことではあるのですが───それでも)
「私だって同じですよ」
「そう...すか」
「はい、そうです」
「あー。俺も、帰って準備してきますね」
なにか考える仕草をした後に因幡は最初に戻ったような、それでいて砕けた様子で言葉を残して帰っていくのを見て禊は安心した笑みを浮かべて別れを告げようとして───止めた。
「はい。...あ、ちょっと待ってください」
「なんすか」
「はい、コレをどうぞ」
そう言って因幡が禊に手渡されたのは三つ。
「これは...瓶と、紙と、カード...?」
「此処のカードキーと、私の連絡先とフレンドコードを書いた紙、それと香水です」
最初の二つを聞いて信頼された様子に嬉しげにしつつも、カードキーや連絡先と聞いて禊の気を許しきった様子に心配を浮かべた因幡。しかし、最後の香水で疑問符を浮かべる。
「カードキーと紙は分かるが...なんで香水なんて渡してきたんです?土産かなんかですか?」
「んー、それもあるのだけれど...。───あなたなら話してもいいかしらね?」
そんな因幡の内心を察した禊は誰かさんにそっくりな悪戯な笑みを浮かべると、脅かすように話し始めた。
「な、なにを?」
「その香水を付けていないと辺りを徘徊しているお嬢さまの下僕に眼をつけられるかも知れないですから、渡したんです」
「あの有名な...?」
「ええ、その有名な。頭の可笑しな趣味嗜好を持った連中だから...」
「ウッス。ありがたく貰っていきますっ!」
「ええ、是非そうして?」
辺りをキョロキョロと見渡した因幡は落ち着かない様子で禊に頭を下げると振り返ることもなく小走りで一直線に帰っていった。
禊はそれを微笑ましく見送っていた。、
───実際のところ、その存在はほぼ確実とされているが実態は禊一人の文字通りのワンウーマンチームであり、そんなものはいないからだ。
ツンデレって、こんな感じだったっけ...?(困惑)
自分の中の性癖が...混じりあって意味の分からないことに...。
ま!いっか!可愛いしぃ~?
可愛ければ全て良し!だよね~!
いかがでしたか?今回はここまでとなります!
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