悪夢 - 暗躍する少女たち
初投稿です。
書き溜めなし、3日に一度産前文字程度更新!
少女たちの秘密や過去に、秘められた狂気や厭世など、お愉しみに、です。
現代には闇がある
清々しく、フィクションのような悪ではない
赦しがたいモノではなく、赦されざるモノ
赦すことは容易、されど赦してはならない
それがあなたが生まれた意味なのだから
─────名をつげぬ男の戯言より一部抜粋─────
これは夢だ。
貴女が生きている筈が無いから。
『おはようございます。お母さん』
夢の中で目が覚める。でも、目は見えない。暗闇ばかりだ。
それはそうだろう。わたしは何時だって見ようともしなかった。
自分さえ認めていなかったのに、誰かを認められるはずがない。
ある意味では、まだ、私は、夢の中なのかもしれない。
生きる今が、後日談のようなものだから。
『おはよう。禊ちゃん、ご飯は用意してあるわ。お母さん今日は早いから、また今晩ね?』
私が、目蓋を開いた。
『はい。ありがとうございます。おかあさん』
『ただいま。問題はなかったかしら?』
外から声おかあさんの声が聞こえてくる。私は聴いてさえいないけれど。
『はい。実験体は問題なく実働試験をパスしました。安定化が成されていると判断されます』
教育係の声が聞こえる。冷淡な声、聞き馴染んだ声。
『そう。それは良かった。けれどね、貴方気に入らないわ?』
おかあさんの声が聞こえる。冷淡な声、聞き馴れない声。
『は?』
『実験体がなにかも知らないで、私の娘を侮辱した』
『実験体が如何なるものか、知らしめてやる』
『お前を殺す』
『グズの脳無しが。今すぐにでも!お前を苦しめてやりたいが、最愛のさ娘が退屈してしまう』
『明日だ。お前の命は明日までです』
『連れて行きなさい』
呆けた男の声喘ぎ声に変わって、喘鳴は遠ざかって、そしてやさしいおかあさんが朱いものに塗れて帰ってくる。
『禊ちゃん。あなたは私に倣ってはダメ、習うこともダメよ』
『あなたは、私の善性のすべて。母親として生まれた私の限られた人らしい感情の凡てだから』
『理解できません。私にとって、おかあさんはなによりも、なにものよりも手本とするべき優しい人ですよ』
『禊ちゃん...嬉しいのよ、嬉しいの。けれどね、私は我が子に私のようには生きてほしくはないの。私の生涯は、生まれた意味はそれをあなたに伝えるためにあったと、そう結論したから』
『つまり、おかあさんが教えたいことはそれだけだと?』
『ええ。私から何を学んでもいい。けれど、倣ってはダメ』
『わかりました。おかあさんが正しいと信じます』
『いい子ね』
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「夢...」
禊は目を覚ます。
目縁からは涙がこぼれそうに。引き裂けそうな心を庇うように身体を起こす。
「私はまだ貴女を...赦してないよ...」
母親にクリスマスプレゼントをねだるように。
「ねぇおかぁさん。私はまだ、貴女を愛しています」
卑屈に、愛らしく。
「こんなにも、貴女を憎んでいます」
決意を秘めて。
「だから、みていてください」
そこには、恐ろしげな切れ長に開いた瞳の、淡い灰色の髪の少女がいた。
「...お嬢さまから迎えが来る」
端末を弄り、予定を確認するとお嬢様から相談があること、今日は迎えを遣ることが連絡先に届けられていた。
「仕度しなきゃ」
食事は冷蔵庫にある調理済みのものを適当に選び、食べるだけ。黙々と食べ進めて、次の支度を進める。歯を磨いたり、顔を洗ったり。
熱いお湯に浴して、感傷に浸る。そして、洒落た制服に袖を通す。
細かな刺繍を施した黒に近い灰色のシャツに、内側には柔軟で肘まである黒手袋を可愛いく細工を施した細い革のベルトでシャツの上から巻いて留める。
丈の短めなスボンと細く一見頼りない印象のベルトに合わせ、黒のスパッツ、同色のガーターベルトとストッキング。
女の子らしく防寒性能のあるコートは、胴回りをベルトが引き締めて、膝丈スカートのように広がっている。 コートの胸にある純金の紐飾りは曇りなく磨き上げられ、スカーフがくびもとで巻かれて前側で結ばれる。
さながら貴族といった印象を与えるであろう、触れ難い高貴な全体的に愛らしさのある格式ある意匠。
髪はシンプルなロングタイプで、小さな帽子が頭に載せられたようなカチューシャに似た構造の飾りがシックな印象とキュートさを演出してワンポイント。灰色の髪によく馴染む灰色の花飾りは納まりよく、黒のリボンで結えられた髪の結び目を衆目から秘している。
彼女が目覚めた場所は彼女の自室。
彼女の住まいこそ、とある事件より生還した唯一の被害者である彼女のために用意された、とある令嬢所有の施設。
彼女の部屋に用意された可愛らしい、しかし各所に綻びや焦げ跡が目立つ名札。印字されたそれは、可愛らしく、しかし不馴れな印象を受ける文字遣いで〈kei〉と描かれている。
「今朝も御早う御座います。咎女様」
お嬢様を含めて知り合いからはシルエットさんと呼ばれる親しみやすいお爺さん...フルネームを シルエットレムナント と自らを称するこの方、お嬢さまのお世話から普段の警護までを任せられている役職、つまり一般に言う執事さんらしい。
それが禊の認識だ。もし、素手で岩を砕く武芸者を執事と呼ぶなら、ではあるが。実務に関しては不足無く、むしろやりすぎなほどだとか。
「荷物を預かりましょう」
「はい。...いつも言っていますが、この程度の荷物なら持ち運んで大丈夫ですよ?」
「そうは言いますが、執事である以前に男としてレディに荷物を持たせる、というのは致せませないのです」
「わたしが力持ちなのは知っていらっしゃるのに?」
「だからこそ、ですよ」
「?」
「嗚呼、失礼しました。今のは出過ぎた発言でした。謝罪します」
「?何も不快に思っていませんよ。赦します」
「お気遣い有り難く。本当に申し訳ない」
「気にしてませんよ」
「ところで、先程の言葉の意味は―――」
「先程の発言は失態でした。どうかお気になさらずに」
「そうですか。では、気にしないことにします。..いつもありがとうございます」
私はシルエットさんに荷物を預けて、迷惑を掛けている身として感謝する。そして、毎回のやり取りとして一応遠慮をする。
「シルエットさん? 私はお気になさらず、お嬢さまに...」
「はい、御気遣い有り難く思います。しかし心配なさらず。あなた様のエスコートは御主人様より仰せつかった私の仕事ですので」
いつもコレだ。何度言ったとしても頑として私に世話を焼く。
これで純粋な優しいおじいちゃんなら安心なのだけど、実際には互いに警戒しあっているのが状況としては正しい。
私はシルエットさんにビビっていて、シルエットさんは心は赦してくれているとは言うけれど、それはそれと職務上警戒はする。脅しの類を警戒しているとは知らされている。
...だから、その傷付いた顔を此方に見せないでほしい―――。
「そう。忠実なのね」
禊は困ったような、少し笑った顔で苦笑いをする。 シルエットさんは少しだけ微笑むと、自らは前方の席に座ってA.Iに一言申し付けると、A.Iは自動操縦を開始した。
「おはよう、咎さん」
「おはよう、お嬢さま」
「おっはよ~、とがっち!」
「おはようクソアマ」
「で、ナニ?態々迎えを寄越すのは何時もだけど、そのクソアマを招いてるとは...」
「何時ものお芝居ですわ。そこのお馬鹿さんは仲裁役で、私と貴女のバランサーですもの。こと学園での出来事については、このお馬鹿さんを頼ったほうがいいのです」
「...昨日なんかやらかしたかな?心当たりないんだけど」
「そうね。やらかしたわ、具体的には昨日あなたが仕留めた輩が私狙いの暗い人間で、貴女が私を庇った事を理解できる程度の無能に観られていたこと」
「そう。いいんじゃなぁい? 探りも、推測も無意味でしょう?放置しておけばいい。それとも何か問題が?」
「勿論のことあるに決まっています。よりによって、あなたが以前に恥を晒させて追い遣った勘違い男が目撃者なのよ」
「...そんなものいましたね。未だに在学していたんですか?」
「ええ。あれで良家とはいえ、相当に力を減じていたから学府を選り好み出来るほど恵まれていないわ。権勢を諦めるなら別だけれど」
「座視や静観の類いはする無しでしょ?どうするかというと、どうせお嬢さまのことたから軽くあしらう程度に納めているのでしょ。なら、いつもの手立て?」
「ええ、察しの通り」
「ホント悪辣だよね。弱い立場の人間から搾り取ることに一切の責任も感傷も無いんだから〜」
「あら、失礼。生憎と、私は将棋よりチェスが好みでしてよ」
つまり、敵から奪った駒を使う気はないらしい。
「察しの通り、とは言っても今回は中々に着地点が読めない。この前面子を潰したばかりだよ?難しい政略になる?」
「和解は早ければ早いほどよいのです。蟠ってからでは、相手は中々に態度を変えられないでしょうからね」
「口が達者で何より。和解する気がないってのは解りきってるよ」
「あら。私し、和解は致しますのよ?ただ、和解に際して報復を兼ねるだけ。その後はお好きに、と」
「正しい報いでしょう。お嬢さまは善人なんですから」
「実際、大抵の人間はやみっちに諭されてイイ感じに活躍の場があるからね〜。ひとたらしではあるぅ」
「正しくある必要を感じませんから。ただ善人であるだけで幸せな無欲な人間なので」
お嬢様は今日も素敵な人だ。
「御嬢様、間もなく到着で御座います」
「猪狩、用意を」
「猪狩ちゃん手伝うよ〜」
「了解致しました御嬢様。音色さんはありがとう御座います」
「今日は礼を尽くすだけ、というポーズをとります。音色さんは承知してますので咎さんはそれを受けてくだされば」
「了解」
さて、此処からは私はお嬢さまの駒として馬車馬のように働かなくては。
禊は心を引き締め、意識をアクターからキャラクターに切り替える。 今の彼女は学園一の乱暴者、風紀の化身とさえ云われるお嬢さまの敵にして、異能力の研究機関を兼ねる特別高等教育機関〈詩音高等学校〉の生徒会会長なのだから。
いかがでしょうか?
初投稿なので正直不安ですが、自信を以って書いていきます!
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ではではっ!! またお会いしましょう!