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第6話


 森を北に抜け、そこから道沿いに北東へと向かって行く。

 もらった地図によると、そちらの方向に都市があるはずだった。


(確かこっちの方角に……)

 小高い丘を越えると、その先に草原が広がって、更にその先に目的の都市があった。


「……なんだ?」

 そう思っていたリツだったが、実際に街があるのが見えたものの、その手前でなにやら黒く細かい何かがうごめいているのが見えてくる。


(視覚強化!)

 普通よりもだいぶ目がいい程度に見えるようになるスキル――視覚強化を発動すると、その黒いのがなんであるかが徐々に明らかになっていく。


「おいおいおいおい、これはまずいだろ! えっと、魔笛は……これだ!」

 見えた光景に驚いたリツは、収納空間から魔法の笛を取り出して大きく鳴らす。


 すると、空中の空間が一部ぐにゃりとねじ曲がり、どこかへとつながる。

 そして、そこから美しく青い毛並みの大きな狼が元気よく姿を現した。


「おぉ、来てくれたか! リル、悪いがあの街の方まで行きたいんだ。乗せてくれるか?」

「ガウッ!」

 リルと呼ばれた狼は嬉しそうに尻尾をぶんぶん振りながら大きく返事をすると、しゃがんでリツが乗りやすい姿勢をとる。


 この狼、実のところ狼ではない。

 だが魔物でもなく、神獣と呼ばれる類の存在であり、フェンリルという種である。


 その昔、希少な素材を手に入れるために神界と呼ばれている特別なエリアにリツたちは足を踏み入れたことがあった。

 そこで弱っているリルを見つけたリツがかいがいしく看病をすることで、元気になっていった。


 このことを恩義に感じたリルは、魔笛を彼に渡し、呼ばれたらいつでも参上するという契約をかわした。

 彼ら神獣は数百年、数千年の時を生きるため、五百年経過した未来でもリツの呼びかけに応えることができていた。


 リルの背にのったリツは向かう街の方向に視線を向ける。

 そこでうごめいているのは全て有象無象の魔物だった。

 魔物が数えきれないほどいるのに対して、対抗する戦力はおよそ三十人程度。


 仮に一人一人が強力だとしても、さすがにこの量を倒すにはかなりの時間がかかってしまうことは容易に想像できる。


「それじゃ、このまま突っ走ってあの魔物の群れを飛び越えてくれ。あの街の戦力が立ち向かおうとしているようだが、あの人数だとなかなか骨が折れそうだ」

「ガウッ!」

 リツの声に応えて、リルは走りだした。

 徐々に速度が上がっていき、あっという間に魔物たちの最後尾が見えて来た。


「いけ!」

「アオオオオン!」

 リツの言葉に呼応するように跳躍すると、リツは魔物たちの頭上を飛び越えて行く。


 魔物たちはかなり厚い壁になっているにも関わらず、リルはそれを軽々と超えていった。

 その勢いに合わせて、リツは跳躍して街の戦士たちの近くに着地する。


「よっと……さて、責任者はどの人かな?」

 リツがキョロキョロと見回すと、一人の女性が近づいてくる。


 美しい金髪を後ろで束ねてゆらした彼女は、銀色の鎧を身に着けている。

 鎧の左胸のあたりには赤い意匠が施されており、それが貴族である彼女の家紋だった。

 突然現れたリツと大きな狼であるリルを見て戸惑っている様子だ。


「わ、私がこの街の防衛責任者のセシリアです。にしても、あなたたちは一体どうやって……」

 質問しようとする彼女の言葉をリツは手で遮る。


「俺の名前はリツです。質問にはあとで答えるので、先にいくつか確認を……みなさんがあちらの街の戦力で、およそ三十人で立ち向かうつもりということでいいですかね?」

「え、えぇ……」

 彼女は鋭い目つきで質問してくるリツに気圧されながら答えていく。


「みなさんはあの街の精鋭で、一人当たりがかなりの力を持っている――そういうことですか?」

 彼我戦力差は圧倒的であるにもかかわらず、彼女たちは勇敢にも立ち向かうしている。

 だからこそ、それだけ自信があるのだろうかとリツが確認する。


 しかし、彼女の答えはノー。

 首をゆっくりと横に振っている。


「あの街は何度か魔物たちに襲われていて、残った戦力が我々しかいないんです。私たちが時間を稼いでいる間に街の人たちは逃亡の準備を進めています……」

 追い詰められた状況だと言う彼女を筆頭に、参加している騎士たちの表情は重く暗い。


 これから死にに向かうことを全員が理解している。

 それでも、自分たちの父を、母を、妻を、夫を、息子を、娘を、孫を――大切な人たちを逃がすためにはこれしかないと思っている。


「なるほど、それじゃあお手伝いしますよ」

 リツはニコリと笑うと、剣を取り出して魔物たちのほうへと向き直る。


「っ……ちょ、ちょっと待って下さい! お手伝いって、そんな気軽にできることじゃないですよ! あんな魔物の軍勢に一人で突っ込んでいってしまっては死んじゃいます! 私たちは家族を逃がせるから覚悟はできていますが、あなたは通りすがりの方ですよ!?」

 突然のリツの申し出にセシリアは必死に彼を引き留める。


 しかも、リツは若い。

 そんな彼を自分たちの、負けを前提としている戦いに巻き込むわけにはいかないと彼女は考えていた。


「うーん――ではセシリアさん、俺に報酬を下さい。あなたたちは負けると思っているんですよね? でも俺は勝てると思っています。だから、勝てたその暁には僕に報酬を下さい。これなら契約だから、通りすがりじゃないですよね?」

 普通なら死を覚悟するほどの状況において、リツの目はしっかりと自信に満ちていた。


 無関係の者を巻き込みたくないというのであれば、関係者になってしまおう――その考えからの発言である。


「ほ、報酬といっても……」

「いいですよね?」

 迷っている間にも魔物は迫っている。

 戸惑うセシリアに対して、リツは笑顔でゴリ押す。


「わ、わかりました。で、でも、私やあなたが死んでしまったら報酬はありませんからね?」

「では契約成立です。口約束だからって破らないで下さいよ? それじゃ……俺があいつらを大体倒すので、撃ち漏らしたらみなさんお願いしますね――いきます!」

 去り行くリツの口から出て来た言葉が衝撃的すぎて、セシリアたちは一瞬何を言われたのかわからずに固まってしまう。


「……えっ? 大体、倒す?」

 その言葉をセシリアがなんとか口にした時には、リツは既に魔物たちに接触するところまで移動していた……。


お読みいただきありがとうございました。


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