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喫茶アーネンエルベの事件簿-1st Case-  作者: 青天
はじまり₋浴室の偽り₋
7/9

推理①

 今回の事件で遺体として見つかった鯨井と、警察から容疑者として疑われている鱒田は水泳の選手であり、ライバルとして長きにわたり競い合ってきた。鱒田は人当たり、面倒見がよく後輩から慕われ、ストイックに競技に打ち込み、着実に結果を出しておりコーチ達からの評価も高いことで有名らしい。瑠衣もスイミングスクールに通っていた頃には世話になったことがある。

 対して鯨井は傍若無人、自己中心的で鱒田とは正反対な性格で、嫌っている人は多かった。またプライドが高く、周囲のアドバイスに耳を傾けることはなかったという。練習にも頻繁にさぼり、女遊びなど問題行動の多い人物であった。それでも結果だけはしっかり残し、日本代表に名を連ねるほどであった。俗にいう天才というやつだ。

 そんな鯨井に悲劇が訪れたのは4年前の世界大会の代表選考の時だった。その代表選考の際に抜き打ちの

ドーピング検査にあい、ドーピングが発覚してしまった。その結果は言うまでもない、代表選考から漏れることになった。何者かの密告があったからということらしい。


「ちなみに、鱒田さんは現在も競技を?」

 瑠衣から話を聞いた理央は頷くと、パソコンを操作しながら淡々と尋ねる。

「いえ、2年前事故に遭いその時のケガが原因で引退して、今はスポーツジムの水泳教室でコーチをしています」

「そうですか、ありがとうございます」

「あの、そんなこと聞いてどうするんですか?」

 瑠衣はそう疑問を口にしたが、理央からその答えが返ってくることはなかった。

 理央の意識はパソコンの画面に向けられていたからだ。今までの眠そうな目とは打って変わり鋭い視線を画面に向けていた。

 

 瑠衣から話を聞き終わった時だった、理央のパソコンにある通知が来たのは。通知の主は電話で話しをした刑事の名前だった。

 送られてきたメールを開封し、本文に目を通すこともなく添付ファイルを開いた。

 最初に映ったのは現場写真と思しきものだった。坊主頭の男が浴槽で倒れている。この遺体がおそらく鯨井という男なのだろう。水が張られた浴槽にはドライヤーが入れられている。そしてドライヤーのコードは浴室の外へと伸びている。浴室の床は浴槽から溢れた水で濡れている。この写真から死因が感電死であることは明らかだ。

 続けて添付ファイルを見ていくと、警察の事情聴取を受ける男の写真。おそらくこの男が瑠衣の言う鱒田なのだろう。

 さらに添付ファイルを見ていくと、遺体の写真や鯨井の部屋の写真などが続いていた。それらのファイルを見終えると、添付ファイルを閉じメール本文に目を通していく。

 死因は浴槽に張られた水とドライヤーによる感電死。死亡推定時刻は14時30分から15時の間。遺体から薬物反応はなく、目立った外傷はない。

ー薬物反応なし、外傷もない。どういうことだ?

 理央はこの所見に違和感を覚えたが、これを頭の片隅に追いやり、さらにメールを読み進めた。

 鱒田はこの日被害者である鱒田に電話で呼び出され、16時に鯨井の自宅を訪ね遺体を発見している。

 死亡推定時刻のアリバイとして、後輩である瑠衣と喫茶店で会っていると証言をしている。これは瑠衣への聞き込みで裏は取れ、鱒田のアリバイは証明されている。

ーではなぜ警察は未だに鱒田を容疑者として疑っているんだ?

 その疑問は更に捜査資料を読み進めることで解消されることになる。

 鯨井の携帯の通話履歴には午前中と14時頃の2度通話をしている。また、鯨井の自宅マンション付近の防犯カメラに鱒田の姿が映っていたということだった。


 一通り送られてきた資料すべてに目を通した理央はコーヒーを飲むと、天井を仰ぎ見た。

 しばらく目を閉じ考えこみ、考えが纏まったところで目を開き、パソコンに向き直った。

 瑠衣の場所から理央がパソコンで何をしているのか窺い知ることはできない。

 手持無沙汰になってきた瑠衣はコーヒーを飲もうとカップを手に取ったが、コーヒーが残っていないことに気づき、ため息をついてテーブルにカップを戻した。

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