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7話

最初にいた無蓋掩体壕周辺を暫く使わせて貰うことに話を付けたので、ティーガーを引き取って移動する。

整備長が着いて来たがっていたが、他の整備士たちに、さっき破損したⅢ号を急いで修理しなければならないからと引きずられていった。

まあ、後でまた顔を出す約束はさせられたが。


「さて、こちらを監視している様子はあるか?」


「基地方面から監視している双眼鏡3、目視は少なくとも2あります」


鷹の目(ファルケナウゲ)でも確認出来ました」


ティーガーの上で周囲を見ている山桜と、内部で操作中の敷嶋から報告が上がってきた。

まあ、色々な思惑があるだろうし、監視はあると思ってたよ。

まだこっちが何者かも分かっていない以上、こんな強力な戦力から目を離すのは難しい。

まかり間違って敵対でもしたら、早期に対応する必要はあるだろうし。

後は突然ふらっといなくなられたら、それはそれで困るだろう。

なにせどこからともなくやってきたんだ、恐らく他に監視の目もあっただろうに、それを抜けて急に出現したなら驚いて当たり前だ。


その辺りはどうやって誤魔化すかなあ。

中途半端に誤魔化すぐらいだったら知らんぷりしとくか。


それよりはまず、色々調べるのと、ティーガーのメンテナンスをやらないとな。


「敷嶋、近くで監視の目から逃れそうな場所は?」


「確認します」


鷹の目(ファルケナウゲ)を操作する敷嶋、すぐにポケットに入れた操作盤が振動する。


「確認された位置を地図にお送り致しました」


「うむ、感謝する」


操作盤を引っ張り出して、マップモードにする。

知らないうちに随分と周辺地図が完成していて、都市の様子や周辺状況が一目で分かるようになっていた。

それでも見えているのは周辺数十キロ程度で、これ以上は実際に移動しつつ探っていくか、探索チームを出すしかない。

何をやるにせよ、まずは装甲指揮車(マーシャル)を呼ばないとな。

地図の地点までは、歩きで5分程度か。


「敷嶋、留守番を頼む。山桜、ついて来てくれ」


「「ご命令のままに」」


ティーガーの上に乗っていた山桜が飛び降りてきて、すっと自分の後ろに控える。

車長席に移動してハッチから顔を出した敷嶋に手を振ると、まずは近くに見えるちょっとした丘に向かって歩き始める。

足元が悪いが、砂漠と聞いてふつう思い浮かべるさらさらした砂というよりは、石がゴロゴロ転がっている荒れ地で、別に歩いていて足が埋まることもない。

思ったほど暑くもないが、これ普通のパンツァージャケットを来ているのはいやだな。


「山桜、暑くないか?」


そう聞くと、ちょっと首を傾げる山桜。


「いえ、日差しは厳しいのと乾燥しているので知識として肌が荒れそうだとは理解しておりますが、特別暑いとは感じておりません」


「……そうか」


考えてみたら、真銀ミスリル糸と大姫蜘蛛アラクネプリンセスの糸で作ったメイド服、設定上は常に着用者に最適な環境を与えるんだから、暑さも避けられるか。

自分の服も、今のトレーニングウェアじゃなくさっさと着替えた方がいいな。

すっかり忘れていた。


丘の上に登ると、周囲が見渡せる。

北の方を見ると、少し離れた所に白い土地が広がるのが見える。

あれが塩の砂漠か。

所々にポツンポツンと黒い塊があるので、個人収納から双眼鏡を取り出す。

どうやら取り残された船の残骸らしい。

東には敵の拠点があるらしいが、そこまでは見えないな。


双眼鏡をしまうと、丘を下り、マップが指定した場所へと移動する。

岩壁っぽい地点を迂回し、その陰に入ると確かに町の方向からは全く見えなくなる。

少し開けた平地があったので、操作盤から格納庫メニューを選ぶ。


「車輌の呼び出しは……可能っぽいな」


メニュー自体は見慣れたもので、まだここがゲームの中の様な気がする。

まずは装甲指揮車マーシャルを指定、呼び出しを行う。


「おお」


目の前に突然巨大な箱型の車体が現れた。

AEC 6×6輪駆動装甲指揮車、通称マーシャルは、砂漠のキツネとして有名なエルヴィン・ロンメルが北アフリカでイギリス軍から捕獲し、マックスとモーリッツと名付けて使用していた、4輪駆動装甲指揮車ドーチェスター、そのシャシーを延長して拡大した車輌だ。

中型バスぐらいの車体に9㎜の装甲を施し、18トンの車体を150馬力のディーゼルエンジンで、時速48kmで走らせることができる。

今でこそ装甲指揮車は各国で使用されているが、第二次世界大戦時にドーチェスターとマーシャル併せて600輌以上も量産して配備したのはイギリスが唯一である。


パンストでキャンピングカーとして使用するならトップクラスに人気なのも確かだ。

プレイヤーによっては一つの国の兵器で統一して、アートルムス帝国だとFAMOファモの名で有名な世界最大級の18トン重牽引車Sd Kfz9ハーフトラックや、それよりも少し小型の12トン重牽引車Sd Kfz8などの荷台に居住空間を作っている場合もある。

だが、どちらも屋根や壁は布の天幕なので、居住性で劣ってしまう。


同じように、運搬車もSd Kfz9に116型トレーラーを引かせて輸送するのも可能だが、ティーガーを載せるにはちょっと性能が足りない。

結局、大型ゲシュペンストを輸送するなら、ドラゴンワゴンが一番人気となってしまうし、よほどのこだわりがあるプレイヤー以外は、ゲームなんだから少しでも便利な方を使うのは珍しくない。

自分も最初はアートルムス帝国の兵器だけを使うつもりだったが、プレイしていくうちに効率化を目指すのには、妥協が必要だと理解して、各国ごちゃまぜで使うようになった。


箱型車体側面の装甲ドアを開けて、ステップに足を掛けて中に入る。

ドーチェスターならドアが低い位置にあったので乗りやすかったのだが、マーシャルはドアの位置が高くなったのが欠点だな。

まあ、その分車内も広くなったし。


「暗いな」


中は真っ暗だ。

入ってすぐの所にある電気スイッチを入れると、天井の照明が灯り、車内が照らし出される。

本来は左手には操縦席、右手に広がる車内には数人で座れるシンプルなテーブルと椅子、奥に無線室などが配置されている。

ただ、ベースとなった車輌は第二次大戦当時の物だが、パンストが人気になると色々な会社がコラボを行って、戦闘に関係ない部分では、現代のアイテムも多数ゲーム中に存在していた。

この車輌もその一つで、有名高級ホテルとのコラボで、そのエグゼクティブスイートルームを模しているので、キングサイズのベッドは有名メーカーのコイルマットと高級羽毛布団を使用し、洗浄機付き水洗トイレに無限トイレットペーパー、ジャグジー付きのバス、大型液晶TV、ミニキッチンにエスプレッソマシーン、毎朝10時に自動で補充される各種アメニティと冷蔵庫とミニバーの中身、エアコン完備で水と電気も使い放題という素敵仕様だった。

本来はいくら広いとはいえ、中型バス程度のサイズのドーチェスターの中に、60㎡にもなるエグゼクティブスイートルームが入るスペースは無いのだが、そこはコラボアイテムの強みで、内部は空間収納で拡張されている。

お陰で、使用には魔力が必要という面倒な仕様になっているので、拡張されていないビジネスホテルサイズの通常ルームタイプを好むユーザーもいるほどだった。


なお、このコラボアイテムを入手するためには、実際にその高級ホテルに宿泊する必要があったのだが、流石に最高級のスペシャルティスイートはネット予約不可で、直接電話しなければならないのと、とんでもない値段で入手は諦めた。

というか、そんな部屋なのに瞬殺でプラン完売になったって、廃課金プレイヤーはどれだけお金かけているんだか。

まあ、宿泊したのは知人のメイド原理主義者たちなんだけどさ。

自分もプラン初日に泊まって、知人の部屋をちょっと見せて貰ったが、200㎡以上あるホテルの部屋って、どんだけだよ。

あれはちょっと持て余すわ。

……あー、でもあいつ、多分自分の家にもメイドいるんだろうな。

デザインのカスタムを依頼された時、妙に要求が細かかったし。


中を見回すと、落ち着いた部屋の内装が見えて、ちょっと冷蔵庫を開けてみたが、きちんと冷えている。

念のために、水を一本持って行こう。

こっちでも補充されるかどうか気になるし。

あ、ついでにトイレも……うん、ちゃんと使えるし、流れるな。

これ、どこに流れて行くんだろうなあ?


「よし、問題なさそうだな。後、必要なのは……」


まずは家事担当メイドの月影と望月、それに整備班とドラゴンワゴンか。

整備班はとりあえずは整備長の埋火と、風花、氷柱でいいだろう。

車外に戻ると、ドラゴンワゴンと一緒にこの5人も呼び出す。


「お待ちしておりました、ご主人様」


5人が揃って頭を下げる。


「月影、望月、埋火、風花、氷柱、よく来てくれた。詳細は敷嶋と合流してから話す。まずは月影と望月は装甲指揮車マーシャルを、他の三人はドラゴンワゴンの面倒を見てくれ」


「御心のままに、ご主人様」


全員が一礼すると、キビキビとそれぞれの車輌へと移動していく。


「山桜は俺と一緒に装甲指揮車マーシャルへ」


事前に敷嶋が設定していた町に続く道へ向かうルートを、それぞれの操縦席にある操作盤のマップに転送する。

すぐに運転席の月影、そしてドラゴンワゴンの埋火から報告が届く。


「準備良し」


『ドラゴンワゴン、準備完了』


「よし、出してくれ」


「了解しました、ご主人様」


月影が操る装甲指揮車マーシャルが動き出すと、後ろからドラゴンワゴンが付いてくるのが、操作盤になっている車内の大型液晶TVに映し出される。


後は何が必要だ?

装甲指揮車マーシャルのソファーに座って考える。

いやあ、それにしても座り心地いいな、このソファー。


『こちら敷嶋、ご主人様を確認致しました』


必要なものを思い付く前に、ティーガー側からも視認できる位置まで来てしまった。


まあいい、後で敷嶋と相談しよう。


建前上は、装甲指揮車マーシャルとドラゴンワゴンで放浪しながら傭兵稼業をやっていたと説明するつもりだが、ただそうなるとティーガーだけだと足りないな。

最低でも、偵察用の軽ゲシュペンストもあった方がそれらしい。

今は偵察に出て貰っているという設定で、後でこれも呼んでおこう。


格納庫に入れればこの辺りは楽になるのに……って、出すのは出せたな。

ティーガーを埋火たちに預けたら、次はできることとできないことの検証だな。


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