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プロローグ

緊急事態宣言が延長になって色々ストレスが溜まったので書きたい物を書きたいように書いた。

「我が最愛の武装侍女(パンツァーメイド)隊全員に告げる。乾坤一擲の大戦(おおいくさ)だが、絶対に一人として欠けることなく、必ずここに戻ってくるように。以上だ」


『御心のままに、我がご主人!』


ずらりと並んだメイドたちが、優雅に一礼する。


「搭乗!」


最先任メイド長兼指揮官付き副官の敷嶋が号令をかける。

号令に従って、各メイドたちがロングスカートを優雅になびかせ、次々と歩行戦車に乗り込んでいく。

全員が乗り込んだのを確認して、自分も我が愛車、魔改造ティーガーⅠ歩行戦車に乗り込むと、敷嶋が既に操縦席に着いている。


「各部異常なし、直ちに発進可能です」


「宜しい、出してくれ」


「ご命令のままに」


敷嶋は小さく頭を下げると、前に向き直りアクセルを優しく踏み込む。

片膝を付ける待機姿勢から、6.5mの巨体が立ち上がり、ゆっくりと一歩前へと進む。

車長席のハッチから身を乗り出し、周囲を見ると、武装侍女たちが乗り込んだ歩行戦車のハッチから、全員が身を乗り出し、こちらに挙手の礼を送っている。

それに対して、色気のある礼を返し、更には握った右手を天に突き上げる。


「行こう! 我らの敵を倒しに!」


メイドたちの歓声と共に各車のエンジン音がひときわ大きくなり、ティーガーⅠを先頭とした逆V字型の隊形を組む。

視線の先には、地平線の彼方まで埋め尽くすかと思われる、雑多な魔物の軍勢、そしてその奥にはちょっとしたビルほどもある巨大な影が聳え立っている。


「さて、敵の数に比べるとこちらはあまりにも少ない。だが、我がメイドたちと共になら、この程度物の数ではない。全車突撃!」

こちらの姿を認めたのか、猛烈な砲火が降り注ぐが、急加速によってそれらすべてを後にして敵陣を蹂躙しようと突き進む。


   ◇


栄華と繁栄を極めた帝都ベアブルク。

しかし今は、宮殿の天にも届こうかという巨大な尖塔は二つに折れ、がれきが豪奢な庭を押し潰し、数多の皇帝の凱旋を迎えた壮麗な門は崩壊して道を埋め尽くし、通りに並ぶ栄華を誇った貴族の建物は完膚なきまでに破壊しつくされ、がれきの山となっている。


死の街と化したかのような静寂を、突然どこからか低く轟く規則的な機械音が打ち砕いた。

音は、二階建ての家ほどもある巨大な鋼鉄の塊から発せられていた。

通りを覆うがれきの山を、ものともせずに規則的に動く二本の脚で踏み越え、あるいは踏み潰し、時には通りを塞ぐ崩れた建物を突き破り、人の歩みよりも早く、ただひたすらに真っ直ぐに進んで行く。

その巨体を乾いた血のような赤色で覆われた塊の後部には、よく見ると多数の人型の物体が掴まっているのが見える。

だが機械音が突然不協和音を奏で、塊の後部から猛烈な黒煙を噴き出すなり、つんのめるように動きを止めると、揺さぶられた人型から悪態が漏れた。


直後、塊の上部が開くと、そこから姿を現したのは漆黒の影。

いや、黒いパンツァージャケット、黒い制帽、黒いタイトスカート、黒いロングブーツと全身を漆黒の制服に身を包んだ、浅黒い肌の色をした人の姿だ。

雲間から僅かに差してきた月の光を浴びて、胸元に付けた鈍い銀色の徽章が輝き、鮮血のような赤で縁取られた肩章が見える。

頭に被ったクラッシュキャップを脱ぐと、雪の夜に差す月光にも似た冴えた銀色の長い髪が零れ落ち、隠れていた笹の葉のような耳が顕わになる。


ダークエルフ。


パンツァージャケットでも隠し切れない豊かな胸の盛り上がりが、女性であると示している。

彼女は首元の鉄十字章を引いて緩め、足元を一瞥し、小さく息を吐いた。


「さて、こいつもここまでかい」


クラッシュキャップを被り直すと、周囲を睥睨するように見回すダークエルフの女性。

続くは裂帛の号令。


「総員降車!」


了解(ヤボール)!」


鋭い命令に周囲の人間たち、いや、大部分は人間とは異なる姿を持った者たちが応える。

全員がダークエルフの女性と同じように漆黒の制服に身を包んでいる。

しかしその中身は、雪よりも白い肌をして口元から鋭い牙を見せつけたヴァンパイア、獰猛そうな狼の顔と丸太のように太い手足を持つ狼男、低い背だが制服が中からはじけそうなほどに筋肉で盛り上がった屈強な肉体と膝まで届くような長い腕と髭を持つドワーフ、そして先ほどの女性と似た笹の葉のような耳をしているが、ヴァンパイアよりも更に白い透き通るような肌に蜂蜜のような金色をした髪のエルフと、実に雑多な種族が集まっていた。

それらが次々と塊から飛び降り、それぞれの武器を構える。

最後にダークエルフが塊から降りようとすると、塊の別な箇所が開き、そこからまだ義務教育も終わっていないような人間の少年が顔を出し、女性に声を上げた。


「私も戦えます!」


それを聞いたダークエルフが、一瞬目に優しい光を浮かべるが、すぐに厳しい顔となって少年に静かに命令する。


「お前はここに残れ」


「私も戦わせてください!」


少年の懇願を聞いて鼻で笑うダークエルフ。


「はっ、まだ尻に卵の殻を付けたようなひよっ子を戦わせたとなれば、我々アルフヘイム親衛装甲大隊の名折れさね」


「ですが……」


「ですがも、でもも無い。アタシは命令を下したんだ。お前はそれに従う義務がある。そう誓約したはずだ」


誓約を出されると何も言えない。

誓約はアルフヘイム親衛装甲大隊において、いや彼女に付き従う者にとって絶対であり、名誉を掛けて守るべきものであった。

少年は開きかけた口を閉じて、うなだれる。


「……」


ふっとダークエルフの女性は笑みを浮かべると、少年を胸にかき抱いた。

豊満な胸に埋まる少年。


「大丈夫、アタシたちは絶対にこんなところでは死なない。栄えある親衛装甲大隊が戦車に乗らないで死んでたまるかよ」


押し殺したように答える少年。


「……待ってます、ずっと待ってます」


「そうだ、それでいい」


嫣然と微笑むと、少年を胸から離すダークエルフ。


「宜しい。余計な時間を食っちまったね。縁があったらまた会おうじゃないかい」


そういうなりダークエルフ、いやアルフヘイム親衛装甲大隊第1中隊長は短機関銃を手に、今まで乗っていた歩行戦車の外へと飛び出していく。

そして車輌の外に整列している兵士たちを一瞥すると、川の向こうに見える巨大な物体を指さした。


「お前たち、我が国家はあのデカ物に敗北したかもしれないが、我々はまだ敗北していない。そしてどこからも戦いをやめろとの命令も来ていない。ならば我々がやるべきことは?」


ダークエルフの中隊長の言葉に、全員が声を揃える。


『戦いです!』


それを聞いて、少年に見せたのとは全く異なる獰猛な笑みを浮かべる。


「その通り、我々は戦う。弾が無くなれば銃をこん棒として、こん棒が壊れれば腕で、腕が無くなれば牙で、あらゆる武器を使って命尽きるまで戦う。それが我々が求められている任務だ」


中隊長の訓示を聞いて一斉に上がる歓声。

少年はそれを聞いて固く拳を握り締める。

戦えない自分一人だけが置いて行かれる悔しさに。


「総員突撃!」


中隊長の張りの有る命令が下ると同時に、全員が突撃を開始する。

ヴァンパイアはコウモリに化身し空を飛び、狼男は完全な狼となって廃墟の屋根を駆け、ドワーフはその両手に軽戦車の主砲を持ち、エルフは長大な狙撃銃を構える。

先頭で短機関銃を手に、戦争の女神のような勇敢な姿を晒すのはダークエルフの中隊長。

それを見て、少年の握り締めた拳からは一筋の血が垂れた。


「せめて、せめてこの歩行戦車が動けば、せめて一発でも砲弾が残っていれば!」


悔しさのあまりに、金属のハッチを殴りつける少年。

だが、完全に息絶えた鉄の塊は二度と動くことはなかった……。


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