あっちゃん雲にのる
あっちゃんは、みなみきゅうしゅうの、うみに面した、小さなぎょそんにすむ、小学一年生のおとこの子。
けさはいつもより、すこしはやおきしました。お父さんとお母さんと、夏休みになったら、東京ディズニーランドにいく、やくそくをしていて、とうとう、その日の朝がやってきたのです。
ヤシやソテツの葉っぱが、あおあおとしげるくうこうから、ジェットりょきゃくきにのりました。
やがて、りょきゃくきは、夏の朝日にむかって、とびたちました。
あっちゃんは、りょきゃくきのまるいまどに、ひたいをおしあてていました。
じょうくうにたすると、そこは、モコモコとした、あつい雲のかたまりでした。
さく年の幼稚園の運動会でかった、わた菓子がいくつもかさなっているように見えました。
あっちゃんが、そんなことをおもいだしながら、まどのそとをみていると、すぐ近くの雲の上に、あっちゃんとおなじ年ごろの女の子がたっていました。
さきほどからあっちゃんに、おいで、おいで、と手まねきをしているのです。
あっちゃんは目をまるくして、おどろきました。
「どうしよう」
お父さんとお母さんのほうをみました。
二人とも、まどのそとの雲の上にいる女の子には、気づいていないようでした。
「ちょっとだけ、いってみるか」
こころの中でつぶやくと、あっちゃんは、じぶんのからだが、すっとまどの外にでていくのをかんじました。
「よくきたわね」
女の子はそういって、すこし、ふあんなようすで、くもの上にたってるあっちゃんに、あくしゅをもとめてきました。
よこのほうをみると、さきほどまでじぶんがのっていた、きょだいなジェットりょきゃくきが、おなじそくどでひこうしています。
きゃくしつないでは、お父さんやお母さんや、それから、そのほかのじょうきゃくたちが、まどの外のこちらをむいて、おおさわぎ。
まるい、まどというまどは、じょうきゃくたちのかおでうまり、あっちゃんに、はやくかえっておいで、おいで、をしています。
じょうきゃくたちのうしろには、スチュワーデスや、ふくそうじゅうしの、あわてふためいたすがたもみえています。
あっちゃんと女の子ののった白い雲は、ジェットりょきゃくきと、すこしはなれました。
雲のしたには、あさひにかがやく、こがねいろのうなばらがみえました。小さなぎょせんが、しらなみをたてています。
「もっと下におりてみよう」
あっちゃんが女の子にいいました。
「いいわよ」
女の子はそういいながら、りょ手をぐいと下のほうにむけました。わた菓子みたいにふわふわした白い雲は、いきおいよく下に、下におりていきました。
小さなぎょせんには、あっちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんの二人が、のりこんでいました。
「おーい!」
あっちゃんが上空の雲の上からよびかけると、二人はふしぎそうに、空のほうをみあげました。
「ここだよ!」
おじいちゃんとおばあちゃんは、ぽっかりとうかんだ白い雲の上から、手をふっているあっちゃんをみつけて、こしをぬかさんばかりにおどろきました。
「あそこにタイのむれがおよいでいる」
女の子が知らせました。
「おじいちゃん!おばあちゃん!あっちにタイがいっぱいいるよ」
あっちゃんが小さなぎょせんにむかって、大声でさけびました。風がすこしふいてきました。
「ありがとう。気をつけてね」
女の子のそうじゅうする白い雲は、海をはなれて森のじょうくうにとんできました。
山のふもとに、ゴルフ場がみえてきました。今日は日曜日なので、あさはやくから、おおぜいのゴルファーがプレーをしています。
上からみていると、つぎつぎにうたれるゴルフボールは、小さなシャボン玉のようでした。
「ちょっといたずらしてみようか」
女の子はそういいながら、二人がのっている白い雲を、ゴルフ場にむけて、ぐんぐんさげはじめました。
雲の中にとびこんでくるゴルフボール。
女の子はぜんぶ、ポケットの中にいれました。
おもしろそうなので、あっちゃんも、とんでくるゴルフボールを、ポケットの中にいれました。
「かえしてくれよ」
下ではおおさわぎ。
「あっちゃん、東京についたよ」
お母さんの声。
「もうついたの」
目をこすりながら、まどのそとをみると、女の子のかお。
「ばいばい」
「ばいばい」