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学生時代の実話です。過去の失敗も未来では笑い話にできる。そんな経験はあると思います。

作者: 行世長旅

 私は高校在学時、たまに演劇部の手伝いをしていました。

 入部はせず、手伝いという形で2年ほど関わり続けたのです。


 私の母校は学力も部活も、目立った成績を残せる生徒はおりませんでした。

 各部が大会に出場しても、初戦敗退は当たり前です。


 演劇部も同じでした。

 私が手伝いを始めたのは2年生の時です。手伝い1年目の時は、私程度の目から見ても「他校に劣る」と感じました。

 実際、大会で記録は残せませんでした。


 部員達の真剣度は、それなりといったところでしょうか。

 演劇に命を捧げるとまではいきませんし、ふざけて練習もしない、というほど酷くもありません。

 ただ少々、顧問の先生は厳しかったです。校内で1番厳しい先生、といえば想像がつきやすいでしょうか。


 それなりに真面目に。それなりに楽しく。それなりの青春を。

 そんな雰囲気が、部内に広まっておりました。


 時が流れ、私が3年生になった時。

 部員で上級生だった元3年生は卒業していきました。

 残された部員は、2年生が2人、1年生が1人の3人です。

 そこに私と、たまにもう1人の手伝いさんと合わせ、4、5人で活動していました。


 手伝いの私が部内で最上級生となったりしましたが、その辺りは問題も起こらず活動できました。


 そして、大きな山場を迎えます。


 近隣の街で開催される大会がその年も開かれ、当然私達も参加しました。

 市の内外問わず、付近の高校から10~20組の参加があったでしょうか。


 私達は、変わらず「それなり」の活動をしていました。


 そしてその大会で、全国大会の出場券を得たのです。


 私達は当初、信じられませんでした。

 上位2組がその大会での優勝とされ、その2組の内の1校に選ばれたのです。本当に、何かの間違いかと疑いました。


 けれど何の間違いも無く、全員で喜びを噛みしめ合いました。厳しい顧問先生までも、笑顔を浮かべていました。


 ええ、本当に嬉しかったです。


 後日、全国大会に向けて準備をしました。

 部員は演技の上達を、私はサポートを。

 サポートが私ともう1人だけでは足りないと判断し、さらに4人ほどの助力を得ました。


 全員で、全国大会という大舞台に夢を見ながら邁進しました。


 そして、大会の日。


 大会は数日に渡って行われましたが、全日参加とはなりません。

 私達の旅程は、1日目に現地到着、2日目に演劇披露、3日目に帰路へつく。となっていました。


 夢の舞台に、憧れの状況に、私達のテンションは最高潮でした。

 

 宿泊するホテルへ到着した際、顧問の先生が私達に言いました。


「明日はちょっと早起きして、周囲の散歩をしよう」


 なかなか来られない地で、本番前に私達みんなの思い出作りをしよう。そう言った先生の言葉を、全員で賛成しました。


 その後私達は、高揚した気分のまま夜を迎えました。


 そして、取り返しのつかない事件を起こしてしまったのです。


 私達はみんな、同じ部屋に集まってパーティーゲームをプレイしたのです。気分は修学旅行。誰も彼もが、熱に焼かれていたのです。


 高揚した気分。遅くまでの集団ゲーム。

 翌日、全員が寝坊をしてしまったのです。


 寝坊した中で1番早くに起きた生徒が、顔を青ざめながら「ヤバい」と口にしました。

 その時は既に、散歩へと行くための集合時間を1時間近くも過ぎてしまっていたのです。


 私達は全員、急いで身支度を整えました。

 急いでホテルを駆けると、1階のレストランの入り口に、先にそこへ到着していた部長がいました。


「中に先生がいる」


 部長の視線の先には、顧問の先生がいました。厳しい顧問の先生が、です。

 私達が約束の時間になっても現れなかったため、1人で先に朝食を取っていました。


 部長は、顧問の先生の元へと近づけず、萎縮していました。


 いえ、部長だけではありません。私達はみんな、恐怖に萎縮しました。

 けれど、ここで立ち尽くしていても仕方がないのです。


 誰かが1歩を踏み出す必要があります。ここで立ち尽くしている姿を顧問の先生に見つけられてしまうというのは、絶対に避けなければなりません。

 叱られてしまうのは当然にしても、そんな惨めな叱られ方をしてしまっては本当に愛想を尽かされてしまいます。


 では、誰が1歩を踏み出すのか。


 その場にいるのは、2年の部長と、2、1年の部員と、手伝いの中では1番付き合いが長い3年の私と、そのほかに学年バラバラの手伝いさんです。


 通常であれば、部長が背負うべき1歩なのだと思います。


 けれど、何の相談も無く私が先陣を切りました。


 部長は萎縮している。私は最上級生で付き合いも長い。なので、部長に負けずとも劣らないほどに「責任」を背負える立場にあると判断しました。

 それに加え、ここで部長じぶんいがいのひとを差し出す人間ではありたくないと、愚か者なりに意地を張りました。


 他の手伝いさんや部員を置き去りにする勢いで歩き、顧問の先生の座る真横に立った瞬間、


「すみませんでした!!!」


 腰を90度に折り、周囲の目も気にせず、レストラン全域に聞こえる声で謝罪しました。


 部員や手伝いさんも後に続き、「すみませんでした」と頭を下げます。


 私達の様子を受けて、顧問の先生がゆっくりとこちらに顔を向けます。


「なぁ、お前達は何しにここにきたのよ?」


 レストラン内という場だったためか、先生にしては静かな口調でした。しかし、それでも抑えきれていない怒りがあふれていました。


 その後は、過去最大クラスに恐ろしい説教が行われました。私達の行動が招いた結果なので、弁解の余地もありません。


 部員に対してはもちろん、私を含むお手伝いの中の3年生にも、


「お前ら3年生が下級生を引っ張ってやらなきゃなんねぇんだろうが!」


 と、お叱りを受けました。


 部員とお手伝いで立場は違うといえど、部員は1、2年生のため、私を含む数人の3年生にも大きな責任があったのです。

 それを私達は、裏切りました。


 叱られて、怖かったです。けれど怖さなんて問題にもならないくらい、自責の念に駆られました。


 顧問の先生を、失望させてしまったのです。


 その当日の演劇披露は、何をどうしたのかも覚えていません。

 受け持っている裏方の役割はこなしたハズですが、心は会場にありませんでした。


 その日の夜は、翌朝のためにアラームをいくつもセットしました。

 翌朝は全員のアラームが早い時間から幾度も鳴り響き、寝不足になってしまうほどでした。


 睡眠時間は足りませんでしたが寝坊はせず、私達は顧問の先生と共に帰路へとつきました。


 あの日の事件は今でも忘れません。


 何年かに1度は思い出し、当時のお手伝いさん(今もなお関係の続いている友人)と、話をしたりします。


「お手伝いと言えどさ、1番年上の自分達がしっかりしてなきゃならなかったのは間違いない。何より、そうやって期待をかけてくれていた先生を裏切ってしまったのが、情けなくて悔しくて」


 友人はいつも、「期待をかけてくれていたのに」と、信頼に応えなかった不甲斐なさを悔やみます。

 もちもん私も同じです。


 そしていつも、


「いつか、笑い話として語れる日が来るのかな」


 と言って話が終わります。


 そして、事件が起きてから10年を越える現在。


 まだ、笑い話にはなっていません。


 過去の事件は、全てが昇華できるとは限りません。

 一生、背負い続けていくくさびとなるかもしれません。


 けれど、こうやって思い出すほどには、自身の人生でとても大きな出来事であったと受け止められます。


 あの時の私を許せる日は来ないかもしれませんが、あの時の私があるから今の私があります。


 成長し、戒めて、頭を下げた私を裏切らないように生きます。

忘れる年が無いほどにいつまでも思い出すので、この度は文字に起こしてみました。

正直、書きながら涙がにじみ出そうになりました。


ここまで読んでくださったあなた様へ。

私の人生の一端にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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