カナリア諸島6
ダコスタは海賊の親玉を拘束している。
「船長こいつらどうしますか?」
「動ける奴は後回しだ。動けなさそうなやつは介錯してやれ。クリス。嫌な仕事だが頼むぞ。」
「了解いたしました。」
動けないものが苦しみながら死ぬよりは楽にしてやろうという考え方。
ジパングの戦いでは礼儀として行われているらしい。
俺も妻からジパングの礼儀を聞いてからはその考えに賛同した。
甲板ではクリスが生と死の見極めをしている。
転がってる奴らからはうめき声や命乞いをする声が聞こえてくるが、大体の声は銃声と共に消える。
彼等からはクリスが死神に見えるのか、天使に見えるのか。
クリスは素早くかつ冷徹に業務に従事する。
そこに一切の感情はない。
まぁ、感情を入れてしまったら皆殺しになってしまうからな。
動けると判断したものは左手のロープを、動けないと判断したものには右手の鉛球を与えている。
この航海で何度目の光景だろうか。
「やめろ!俺の子分を非道く扱うんじゃねぇ!」
海賊の親玉は俺たちに向かい言い放った。
まぁ、普通はそうだよな。
だが、
「非道いことだと?苦しんで苦しみぬいて死ぬよりもよっぽど慈悲深いと思うがな。」
ダコスタは海賊ののど元に鋭く光る曲刀をあて答える。
今にも首と胴を別れさせてしまいそうなほどだ。
「ダコスタ君まだ殺るなよ。検分が終わってないんだ。」
しばらくしてクリスが近寄ってきた。
「船長。検分終了しました。動けるものは27名。内22名は負傷していますが回復するでしょう。それと…」
「何かあったか?」
「先ほど襲われていたポルトガル船の乗組員と思われる者を発見しました。」
「そうか。生存者がいたんだな。丁重にお迎えしてあげなさい。あと、遺体は海に還してあげてくれ。」
「了解いたしました。」
「あぁそうだ、船内をくまなく調べてくれ。まだ残党が残っているかもしれないな。」
「それならば甲板班に指示し確認をいたしました。残存兵はいない模様。初めの砲撃はずいぶん効果的だったようです。また、船倉に予備帆が20反、曲刀50本、マッチロック銃30艇があり、大砲室には大砲が30門ありました。外にめぼしい品はありません。食料も大したものはなかったようです。」
「そうかそうか。全て持って帰ろう。特に大砲は以前に総督府から注文があったからな。」
「そうですか。年代物のようですが整備すればまだまだ現役で使えそうです。船はどうしますか?」
「船体は中破。マストトップも折れて直すのも一苦労。おまけに甲板は血だらけ穴だらけ。こんな船をクリスなら買うか?」
「いいえ。ばらして材料にするのも嫌ですね。」
「だろ。ならば答えは『廃棄』だな。」
「了解いたしました。総員引き上げ後に火をかけ廃棄いたします。」
「頼んだよ。あと、あっちのポルトガル船を確認してきてくれ。自走はできないだろうからポルト・サントまで曳航しよう。それに生存者がいれば助けないとな。」
その時甲板の中央から声がした。
「無駄だ。生きてる奴なんかいるわけがねぇ。」