カナリア諸島5
ラ・パルマ、ラ・ゴメラ、エル・イエロの各島の間に差し掛かったとき破裂音の原因が見えてきた。
「海賊ですね。襲われているのは…ポルトガル船ですか。」
ダコスタ君が望遠鏡を見ながら戦闘準備をしている。
「さてどうしようかダコスタ君?我らが母国のポルトガル籍の船が襲われている。愛国心に従い助けるべきかな?」
「船長。ニヤニヤしながら言っても何の説得力もないですよ。そもそもあの国に対して愛国心があるんですか?」
「まぁ、そう言うな。まぁいつものとおり奴らがこっちに気が付いて襲ってくるようなら対応しよう。」
「了解しましたよ」
簡単な首脳会議は3分で終わった。
「専守防衛」
俺達のルールの確認のみ行えばやることは一つだけだ。
ダコスタが会議の結果を全船員に分かるよう叫ぶ。
「よーし野郎共!奴らが襲ってきたときに限り応戦する!船長か俺の合図があるまで各員持ち場にて待機だ!」
光と音を確認してからしばらく経ち、お互いに目視できる距離まで近づいた。
中型のガレー船が旧式のキャラック船に接舷しているようだ。
ガレー船に海賊と思われる人員が続々と乗り込んでいる。
拿捕が済んだのだろう。
さてどう動くか…。
ガレー船は船首を我々の方に向けてきた。
ぎりぎりまで引き付けよう。それと、
「おーいルーシ!手旗信号で奴らの所属を聞いてくれ!」
「わかったよぉ~!」
バタッ!バサバサ!バサッ!
ムルーとルーシは覚えがいい。
手旗信号も教えてすぐに身につけてくれた。
あとは奴らが反応するか…。
大砲室からブリッジにつながる連絡管からムルーの声が聞こえた。
「おやぶ~ん!奴ら返事してきたよ~!えぇ~と~。『積み荷をよこせ。抵抗すれば全員殺す。』だって~!」
ほぉ。
そうか。
やる気でいるのか。
「ムルー!奴らの船に衝角は付いているか?」
「付いてないよ~!」
ラムで船の腹に穴をあけられるのはまずいからな。
接舷をするつもりなら大丈夫だろう。
こちらとしてもありがたい。
「ムルー!大砲の射程圏内になる30秒前に合図を出してくれ!」
「りょ~か~い!」
・
・
・
静寂の中ムルーの声が響く。
「おやぶ~ん!今!」
「総員しっかりつかまってろ!取舵いっぱーい!!!!!帆と錨をおろせっ!船体停止と同時に全門発射!」
大砲の射程圏内の直前での急旋回そして一斉射撃。
側面に配備した20門の大砲が敵船の船首めがけて火を噴いた。
熟練の砲術士達は測量士とムルーの図った距離にピンポイントで発射させる。
船体を狙った砲弾はすべて敵船体に着弾した。
そのうえ3発もメインマストに当てられるなんてイギリス海軍だって簡単にできることじゃない。
「撃ち方やめ!砲撃だけで沈めるなよ!」
俺は甲板班と砲術班に向けて叫んだ。
「着弾を確認した!接舷し相手を拿捕する!錨を上げ帆を張れ!」
「ダコスタ君!クリス!接舷する!なるべく殺すなよ!特に親玉は生け捕りにしてくれ!」
「「了解!」」
再度一気に帆を張り、敵ガレー船に自船を寄せる。
剣撃隊の渡船を支援するため、船に残る我々は銃で弾幕を張る。
ダコスタとクリスは一番を争うようにガレーに飛び乗った。
二人に続き剣撃隊の船員達が次々と海賊船に乗り込む。
ダコスタはイスラム圏で使用される曲刀の二刀流、クリスは英国海軍式のピストルとレイピアで次々と海賊共を無力化していく。
あっという間に海賊共は壊滅し降伏した。
たわいもない。
海賊ならばもう少し抵抗してみろ。
そもそも、降伏するぐらいならば襲うんじゃねぇよ。
襲われたことに対する苛立ちか、不機嫌になりながら相手の船に乗り込む。
検分の為だ。
そこには簀巻きにされた海賊の親玉と数人の乗組員。
甲板には元は数十人分であろう遺体と半死半生の海賊が転がっていた。