セビリア~ジブラルタル海峡1
セビリア沖の我々の船に朝日が照らし始めた。
昨晩からセビリアの沖に停泊し早朝の入港に備え船員に指示を出している。
セビリアはリスボン等のポルトガル領と違いスペインの港だ。
比較的素性を隠さなくても入りやすい港である。
入港の準備も済み港の事務所が開く時間までの待機を指示していると港から大型のサムブークが出航してきた。
見覚えのある紋章をなびかせ我々の船に船首を向けてきている。
「あのサムブーク、アントニオさんですよね?」
望遠鏡をのぞきながらダコスタが話しかけた。
俺も望遠鏡で確認する。
間違いない。
セビリアでも有数の大規模商会、「アントニオ商会」の商会長アントニオ・ポルータが船首に見える。
それにしてもサムブークとは。
昔からガレーやジーベック、サムブーク等のアラビアやトルコで多い船が好きなやつだったがその趣味は今も健在のようだ。
前方のサムブークから接舷の信号が来た。
こちらも許可を出し彼らの船は我々の船の真横に着ける。
いの一番にアントニオが乗船し、口上を述べる。
「おはよう『Friday's』の諸君!私はアントニオ商会のアントニオ・ポルータである!バティスタはいるか!?」
「朝からそんなに大きい声じゃなくても聞こえているよ、アントン。」
相変わらず声がでかい。
「いいじゃねぇか。儀式だよ。儀式!お前から手紙が来た時にはびっくりしたぞ。」
「いきなりの頼みで済まなかったな、アントン。で、お願いしたご家族は陸か?」
「いいや、お連れしてきている。こっちの船員達も渡船を手伝ってくれ。」
俺はディアゴ、ダコスタ、クリスに渡船を手伝うよう指示する。
ディアゴは1か月ぶりに会う家族たちを前に今にも泣きだしそうだ。
「ありがとうアントン。いつか必ず礼はする。」
「いや今してもらいたいことがあるんだ。」
「俺たちにできることか?」
「できなきゃお前らジェノヴァに帰れないだろ?忌まわしきジブラルタルについてだ。」
「もしかして通れないのか?」
「そうだよ。どうにか通行許可を取ろうとしているんだけどなかなか許可を出してくれない。」
「敵国の大きい商会だからな。物流を止めるのも立派な戦術だ。」
「だからと言って生活ができなくなるほど止められるのは困りものだよ。セウタに日用品だけでも持っていかないとあそこは干からびちまうよ。」
セウタか。
たしかにジブラルタルを通って海運するのが一番手っ取り早い場所だな。
「まぁ、その件なら俺達も準備していることがある。今からジブラルタルに行くからアントンも一緒に行くか?」
「…すでに策がありそうだな。俺等の急な頼みもきいてもらえそうか?」
「どうなるかはわからないが、我々の切り札はかなり強いカードであることは間違いない。」
ニヤッと笑うアントン。
「お前が『強いカード』なんて言うってことは間違いなくうまくいくだろう。それで今回の依頼のお返しとしてもらおう。」
「分かった。それじゃ、このまま出発するよ。またセビリアに帰ってくるから商会の船には帰ってもらって。」
アントニオの指示でサムブークはセビリア港に向かっていった。
俺達は遠くにうっすらと見えるジブラルタルに船首を向けた。